「なまえいるか!」
「ひゃっ!」
バァン!と勢いよく開かれた襖が軋む音に驚いて声をあげれば、その原因を作った元親様は、にかっと笑った。その笑顔を見るのは久方ぶりのことなのに、その時をずっと待っていたはずなのに、急に訪れた再会に今だ驚きに支配されたままだ。
「なーに変な声出してんだよ。俺がやっと帰ってきたんだぜ!」
「は、はい」
「オラ、それならなんかいう言葉があるだろ?」
そういって近づいてくる元親様の身体からは海の香り。私はその匂いが好きで、同じぐらい嫌い。
だっていつも海は元親様を私から連れ去ってしまうから。
伸ばされた手が、私の頬に触れた。
ふわりともっと強い潮の香りが鼻先を掠めた。
「お、おかえりなさいませ。元親様」
「おう!ただいま!」
ぐしゃぐしゃと大きな掌で頭を撫でられる感覚には今だ慣れない。赤くなっているだろう顔を隠すために少しだけ俯いた。
「なまえ、寂しくなかったか?元気にしてたか?困ったことはねぇか?」
「ええ。私は元気にしておりましたし、何も困ることなどございませんでした」
矢継ぎ早に問われ、慌てて返事をする。その間も撫でられる掌から伝わってくる愛しさがひどくうれしく、また、恥ずかしかった。
「こら、答えてねえのがあるだろ」
「…そ、れは!」
顔を見ずともわかる。今の元親様はにやにやと笑っているに違いない。
私が故意にその質問を避けるのをわかっているくせに。
そしてその答えも、わかっている癖に。
「わ、私は」
「おう」
頭に乗っていた手がそっと離れて行き、私は観念してそっと顔をあげた。
あぁ、くやしいけれどこういう意地悪をしてくるときも元親様はとてもかっこいいのだ。
「私は―、寂しかった、です」
聞こえなければいいとささやかな抵抗に小さな小さな声でいったというのに、元親様の耳にはしっかりと届いてしまったらしい。
気がついたときには目線がいつもより随分と高くなっていた。先程よりもっと強い潮の香りとすぐ目の前にある真白い綺麗な白髪をみて、やっと自分が元親様に抱き上げられていることを認識した。
「も、元親様!」
「お前、いい匂いがするな」
そういって首筋に押し付けられる鼻に頭がどうにかなってしまいそうだ。
「お戯れはおやめくだ、」
「戯れじゃねぇよ。俺も寂しかったんだぜ、なまえ」
「…っ!」
「ま、自分から海に出ていく俺の勝手な言い分だがよ。陸にいるときはお前を離したくねぇ」
自分勝手な、だけど甘い言葉に捕われていく。
あぁ、なんて、ずるいひと。
そっと、その頬に手をそえれば隻眼が優しく細められる。
「お前が寂しかった分も、俺が寂しかった分も今から埋めようじゃねぇか」
そうして、額に押し付けられる唇。その温かさとくすぐったさに今度は私が目を細めた。
「さァて、まずはなまえに今回の収穫を披露してやるよ」
そういうと、元親様は私を抱えたまま、思えば開けたままだった襖に向かってあるきだした。
「も、元親様!?まさかこのまま行かれるおつもりですか?!」
「あ?当たり前だろうが」
「〜ッ!」
恥ずかしさのあまり、何も言えずにぎゅうっと元親様の服をにぎりしめれば、ふと元親様が困った顔で笑った。
「あぁ、でも今のお前の顔、可愛すぎて他のやつにはみせたくねぇなァ」
まいった、とつぶやいて笑う、貴方の優しい顔を私だって他の人には見せたくないといったら、貴方はどんな顔をするのでしょうか。



しかし結局私はそれを言葉には出来ずにそっと唇に落ちて来た口づけを受け入れた。


三井さんへ!



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -