「初夢?」
「うん、年の始めに一番最初に見る夢。それで良い年か悪い年かみるんだって」
「ふむ、そのような風習があるのですね」
ドライヤーで乾かしてやりながら初夢の話をすれば、幸村は腕組みしながらうんうんと頷いた。
「ちなみに、一富士二鷹三茄子って言葉もあるんだよ。この三つが出るのはものすごく良い夢なんだって」
「な、なんと!しかし、その三つを共にだすにはどういう夢を見ればいいのか検討もつかぬ」
くっ、と何故か悔しそうにいう幸村が可笑しくて私はくすくすと笑う。幸村の柔らかな髪を指で梳いて、完璧に渇いたのを確認してドライヤーのスイッチを切った。
「そうだ!甘いものに囲まれた夢だったら、正夢になるかもよ」
「はっ、た、確かに!」
途端、幸村の目がキラキラと光り出す。久々に幸村に犬の耳と尻尾がついてるような幻が見える。
「そういえば、なまえ殿はどんな夢をみたいのでござるか」
「私?」
こくん、と幸村が頷く。
「見たい夢なあ…」
言われて考えてみる。正夢になってほしいこと、といわれてもなかなか思い付きはしない。
うーん、と唸っているといきなり幸村の顔が目の前にあって、びくりと身体を揺らした。
「わわわっ」
「なまえ殿!」
「な、なんですか!」
叫ばれて思わず叫び返せば、がしっと肩を掴まれた。幸村の幼さを残した端正な顔立ちがすぐ間近にある。
「…見たい夢がないなら、その、某の夢を見てはくれぬだろうか」
「幸村の、夢?」
問い返せば、幸村がふにゃりと困ったように笑った。
「初夢は正夢になるのでござろう?」
「う、うん」
なら、と続ける声はいつもの幸村にしては覇気がない。どうしたの、と尋ねる前に、そっと顔にかかっていた髪をかきあげられた。
「…俺は、もうしばし、なまえ殿の傍にいたい」
その言葉にぐらりと視界が揺れた気がした。
目の前にいるのは、幸村ではなかったのか。
いや確かに、幸村なのだ。
ただ、違和感を感じるのはそこにいるのが今まで見ていたような彼ではなく、ひどく大人びた、男性の雰囲気を持った幸村だからだ。
その空気にのまれて、声を出せずにいると幸村がゆっくりと首を傾げた。
「駄目で、ござろうか…?」
「…っ」
私を見る茶色の目がゆっくりと瞬きをした。こういうときだけ、子犬みたいな顔をするのはずるい。
「…だ、ダメじゃ、ない」
「!」
その瞬間、幸村が満面の笑顔になった。先程までのあの雰囲気はどこへやら、そこにいるのはいつもの幸村だった。
「某も、なまえ殿と共に甘味を食べる夢を見るでござる!」
「あ、甘味はやっぱり外せないんだ」
その言葉に勢いよく頷く幸村のかおを見ていると、なんだか先程こんなわんこにどきどきした自分に腹がたって来た。
両手を伸ばしてがしっと幸村の頭を掴めば、幸村が驚いて目を丸くしたのが見えた。
「ゆ、幸村の癖に!」
「な、何をなまえ殿?!」
「うるさい!ばか!」
「ひっ、ひどいでござる」
そのまま恥ずかしさをごまかすようにぐしゃぐしゃと幸村の髪を掻き回したけれど、やっぱり顔は熱くて心臓の音は静まりはしなかった。



(夢に出るのは俺一人で良いと、俺がいいたかったことを彼女は知らない)



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