始まりを見つめる


 かあさまが言うには、おれは転げ生まれてきたらしい。そうして、そのままの勢いで顔をえらいとこにぶつけて左頬んところに十文字の傷つくったんや、って。


 でも、きちん、と分別がつくようになってみるとそれはかあさまの優しい、そう、やさしい嘘だと知った。し、解った。このちょっと不格好な十文字の傷は幼い頃にすこし調子に乗ってしまったチャンバラごっこで出来た傷だし、傷がついたところには過去、三日月のような形の痣があったということも知っている。

 十文字の傷のこと思い出した、と言えばかあさまは「あんたももうお兄ちゃんやしな」、と苦笑いして当時の詳しいことを教えてくれたけど、とうとう月形の痣のことは教えてくれなかった。どうしてだろう。ただ、親父といっしょになって「その傷ができたのが痣の上だったのは、それでも不幸中の幸いだった」「おまえもはやく、おまえははやく唯一を見つけなさい」としか言わない。












 そして。その答えをいま、いまのおれは知っているし、持っている。その結果がこれだ。──水の呼吸育手、鱗滝左近次の新しい弟子、竈門炭治郎。その修行の手助け。先の世だか前の世だかは知らないが、この世界を覆し、我らの停滞を押し流し、終止符を打つ、その始まりの手助け。


 ──ただひとつ言えるのは。今のおれが、その、さきの世でいえるところのあの、可愛らしい真菰の立ち位置にいるということ。それだけだ。



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