最近やたらみんなが優しい。
ご飯を食べようと木野さんからトレイを受け取ろうとしたら横から風丸君が、持つから席に着けよ、と言ってくれたり、お風呂から出てタオルがないなぁ、と思って探していたら吹雪君が、2個持ってるから1個貸すよ、と言ってくれたり。
後、木暮君がキュウリをお裾分けしてくれたり、壁山君が大好きなお菓子を分けてくれたり、円堂君なんて一緒におにぎり作ろうぜ、なんて誘ってくれた。

……怪しいな。

も、もしかして久遠監督が「基山は日本に帰す」って事をみんなにだけ言って最後だから、って事で俺に最後の思い出を……みたいな事なのかな。
俺……一生懸命頑張ったんだけどなぁ。

「ヒロト君ーボール蹴ってよー!」
「あ、ごめんね、吹雪君」

力ない蹴りで吹雪君にボールをパス。
この吹雪君とのパス練習も最後だったら悲しいなぁ。
俺が代表から落ちたら誰が来るんだろう。やっぱ緑川かなぁ。

「ヒロト君元気無いじゃん、どうかしたの?」
「あー……なんかちょっとショックで」
「えー!元気出してよー!僕まで元気なくなっちゃうじゃん!」

そう言われてもなぁ、とふふっと笑ってみたけどやっぱり最後にため息がおまけとして付いてくる。
せっかく円堂君と一緒にサッカー出来ると思ったのに。それに吹雪君にもボールぶつけてごめんね、って言って仲直りしたのに。
それにそれに、風丸君にあの時睨んでごめんね、って謝ったのに。
毎日毎日楽しかったのに。

「今日で終わりなのかなぁ」
「何が?」
「んー……幸せがかな」
「大げさすぎでしょ!ヒロト君は今日凄く幸せな一日になるんだよ?」
「……は?」

わけが分からない。どういう事?と聞き返そうと思ったら、木野さんが、次はポジション練習よ、とみんなに指示を出して吹雪君はディフェンスのみんなの所に行ってしまった。
ああ、なにそれ凄く気になる!
見ないで、絶対見ないで!っていう文字が書かれた箱を見つけた時くらい気になる!

「ヒロトさーん!早く来てくださいよ!」
「あ、ごめんね、虎丸君!」

でも、今は練習に集中しないと。迷惑かけてらんないもんね。
俺がFWの所に行くと、虎丸君は、

「キャプテン行きますよ!」
「おお!」

ゴールに向かってシュートをする。
シュートを10本打ったら交代って言う感じだ。
虎丸君、染岡君、豪炎寺君、俺って順番。
あ、そうだ、豪炎寺君なら吹雪君が言ってた事分かるかな?

「ねえ、豪炎寺君」
「ん?」
「今日って俺にとって凄く幸せな日なの?」
「何言ってるんだ、当たり前だろ」

ええ?ますます分からない。
今日が俺にとって幸せな日なのは当たり前なの?
吹雪君も知ってて豪炎寺君も知ってる。もしかして、みんな俺の事嫌いだったのかな、それで俺が代表落ちするからみんな嬉しくて幸せなのかな。
……考えすぎかなぁ。




結局分からないまま練習を終えてしまった。
お風呂に入る時も、いつも喧嘩をしている木暮君や染岡君が仲良く俺の背中を流してくれた。
……んー、優しくしてくれるのは有り難いんだけど、何か怖いなぁ。

お風呂も入った事だし次はご飯か、と食堂に入ろうとすると吹雪君に止められる。

「駄目!ヒロト君入っちゃ駄目だよ!」
「……何で?」
「駄目だからだよ!」

優しくしてくれるのになんだか俺だけ大事な事を知らない気がして

「……で」
「え?」
「何で俺だけ仲間外れなんだよ!」
「ちょ、ヒロト君?」

急に大声を出した俺にビックリしたのか、それとも大声を出して急に泣き出してビックリしたのか、吹雪君は慌てて食堂の入り口でわたわたしている。
もう我慢出来ない。
俺は吹雪君を無視して閉じてある食堂への扉をバンと開けた。



「おめでとぉ!ヒロト!」
「……え?」

ぱんっとした音が響いて俺の頭に紙吹雪がぱらぱらと落ちてくる。
ほのかに火薬の臭いがする。……クラッカー?
円堂君が俺の前にやってきて何か箱を俺に渡して、おめでとうって笑った。

「おめでとう……?」
「え、だって今日ってヒロトの誕生日だろ?」

えええ?え?ちょ、ちょっと待って整理させてよ。
今まで俺に優しくしてくれたのって誕生日だから?
俺にとって今日が幸せなのは誕生日だから?

「……ヒロト?」
「う、うぁ……ッ」
「ヒロト!?」

みんなを疑って罪悪感なのか、涙がボロボロと溢れ出てくる。
さっき吹雪君に向かって大声で怒っちゃったし、みんな俺の為にしてくれたのに俺疑っちゃったし、俺最低。

「ヒロト君」
「吹雪君……」
「黙っててごめんね、でもサプライズの方がヒロト君喜ぶかなって思って。ヒロト君おめでとう、生まれてきてくれてありがとう」
「……吹雪君……ッ」

生まれてきてくれてありがとう。
俺一番欲しかった言葉。俺は父さんの息子吉良ヒロトの代わりで生まれてきたんだ、だから俺の誕生日は基山ヒロトの誕生日じゃなくて吉良ヒロトの誕生日なんだってずっと思ってきた。
でも、俺の誕生日なんだよね、俺がお祝いされていい日なんだよね。

「ありがとう、みんなありがとう!本当にありが……とぉ」
「ヒロト君鼻水汚いよ」
「うん、でも嬉しくって」

全部俺の勘違いだったんだね。
みんなは俺におめでとうって、この言葉をただ伝えたくて、食堂でみんなで集まって準備してくれたんだね。
今日の事俺一生忘れないよ、絶対に。


「みんなありがとう、みんな大好きだよ」





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