7月







高校1年生7月








梅雨も終わって凄く暑い日々がやってくる。
この炎天下の中学校へ行くのも凄く面倒さえ思えてくる。
でも、学校に行けば俺はヒロトと会えるんだ。それが俺の今の楽しみだったりする。
……なんかこれじゃあ俺ヒロトの事が凄く好きみたいじゃないか。
現に好きなのかもな、友達とじゃなくて。

そりゃ最初は凄く苦手な相手だったさ。
エイリアの時もあったし、FFIに入ってもあまり喋らなかったし。
だけど、アルゼンチン戦の時俺が怪我してキャプテンをヒロトに託した時、あいつの目が俺を捕らえた。
たったそれだけで俺は惹かれてしまったのかもしれない。
実はサッカーが大好きで頼れるお兄さんタイプで、でも実は凄く色々悩んで居て世間知らずなあいつを。

一緒にサッカーやったり寝たり風呂に入ったり飯を食ったりしたあの時よりもこの3ヶ月でヒロトの事を沢山知れた事が何よりも俺は嬉しかったりした。
でも、俺もあいつも男。友達と思ってる俺なんかに告白なんてされてもどうすればいいか分からないだろうなぁ。
だから俺は遠すぎず近すぎないこの関係を保っていこうと思う。そう思っていた。



「あっつー、あ、風丸君おはよう!」

教室に入るとしたじきでパタパタと風を起こしているヒロトが居た。
俺もヒロトも席は窓際。この学校はクーラー付くんだけど、クーラー着けても窓際は暑いからなぁ。
俺が一番後ろの席でその前がヒロト。我ながらベストな席を席替えのクジで引いたと思う。
席替えをして前後だって知った時のヒロトは凄く嬉しそうに「また一緒だね!よろしくね」なんて笑顔で俺の手を握った。
また一緒というのは学校に入学して来て一番最初の席は出席番号順。だから俺とヒロトは前後だったってわけだ。

「ヒロトおはよう、今日は早いんだな」
「うん、涼しいうちに学校に来ようと思ってね」

ヒロトが来る時間よりも早い。
確かに早く来る方が人も少ないし涼しいよなぁ。
……さっきから下敷きでパタパタ扇いでいるヒロトの髪は綺麗にふわふわと舞っている。
うなじもチラチラと見えるのが厭らしい。いや、俺がそう思ってるからだな、うん。
あ、今汗が流れた。……おい、俺。

「こう暑くちゃ毎日大変だよねー、もうすぐ夏休みだし」
「夏休み……?」
「そうだよ、夏休みだよ?学生が一番楽しみにしてる長期休みだよ」

風丸君は楽しみじゃないの?なんて笑われて。
そういえば忘れてた。毎日が楽しすぎて。
夏休みに入ったらヒロトに会えなくなるじゃないか。
遊ぶ約束をしたとしても夏休みは約40日だ。40日遊ぶったってそんな馬鹿な事出来るはずがない。

「夏休み何しようかなぁ。風丸君は実家に帰るの?」
「え?あ、お、俺は帰らないかな、面倒くさいし」
「そっかー、俺もずっとお日さま園かなぁ」

そんな話をしているとだんだん教室に人が集まってくる。
この夏休みにヒロトに恋人が出来たらどうしよう。俺ってこんなに心配性っていうか、性格だっけな?

「あ、そうだ、俺風丸君の家行ってみたいかも」
「え?」
「うん、行きたい!俺ずっと気になってたんだよね、風丸家」

うん、そうしよう!決まりね!なんてヒロトは言ってスケジュールを組み始めた。
ヒロトが家に来る?俺の家に?ヒロトが?

「俺もそろそろお日さま園から独り立ちしなきゃだし風丸君を見習わないとだなー」
「……ひとり暮らしするのか?」
「うん、高校生のうちにしたいなーって。でもひとり暮らしってなると不安だよね、風丸君凄いや」
「……なあヒロト」

自分でも何を言ったのかよく覚えていない。
気付いたら口からポロッと出ていた。息を吐いたみたいに自然に。

「もし良かったら俺の家で一緒に住まないか?」














あの爆弾発言があって二週間経った。
明日から夏休みって事になる。炎天下。校長の長い話が続いてそれをみんな早く終われよ、マジだりぃって顔で校長を眺めている。
しかし俺は今それ所ではないのだ。校長の話なんてどうでもいい。
事故に気を付けて宿題をちゃんとやって親御さんのお手伝いをして……って最後小学生かよ。

二週間前。俺はヒロトに一緒に住まないか?なんて事を言ってしまった。
そしたらヒロトは、あ、いいね!なんて目から鱗みたいな顔をして言った。
まさか本当に真に受けるなんて思わなくてビックリだ。
そうと決まれば!とヒロトは言って携帯で瞳子監督に連絡を取り素早く俺の家に住む準備をし始めた。
家賃は半分にして家の事は二人で協力して行こう、その方が楽でしょ?って。
今日正式にヒロトは俺の家にやってくる。今日から俺の家に二人で住むんだ。

「夢みたいだな……」

遠すぎず近すぎず丁度良い距離を保っていきたいと二週間前に思ったばかりなのに。
いつの間にか校長の話も終わり教室に戻って担任の話を右から左へと受け流して。
気付いたら下校の時間だ。

「風丸君帰ろうよ?どうしたの」
「え?あ、もう下校時間か」
「今日ボーッとしすぎでしょ」

ふふってヒロトは綺麗に笑う。
ホントヒロトってそこらへんに居る女子高生より綺麗だもんな。
見た目もだけど性格とか振る舞いが凄く綺麗だ。さっきの笑い方も。
クラスの女子なんて股を開いてパンパン手を叩いて。でもヒロトはその真逆。
そんな綺麗なヒロトと俺が一緒に住むの……、やっていけるのだろうか。

「風丸君はいつもこの道を通るんだね」
「ああ、これからはヒロトとも一緒に通るんだよな」
「ね、楽しみ」

本当にヒロトは楽しそうだ。
ヒロトはスキップをしながら歩いたり、あれはなあに?なんて質問したり。
俺はヒロトに、あれは何だとか、これはあれなんだよ、とか説明して。
なんやかんやで俺の住んでいるアパートに付く。
今までただ暑い道を通って帰ってくるっていうだけだったのに今日は違って凄く楽しかった。
これが幸せってやつなのかな?

俺の部屋は二階。
かんかんと音を響かせて階段を上がって少し歩いたら俺の家。
俺はカギを開けて扉を開けて部屋の中に入る。
だけど、ヒロトはちっとも家に入ってこない。何だ、緊張してるのか?

「ヒロト」
「あ、お、お邪魔します」
「違うだろ、今日からお邪魔しますじゃなくて……」

あっとヒロトは気付いた顔をして、ヒロトはへらっと笑った。
一歩前に踏み出て

「たっ、ただい……まッ」
「おかえりヒロト」


今日から俺は二人暮らしだ。




俺と彼の高校生活



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