7月




高校2年生7月






やってしまった。本当にやってしまった。
出来るなら時間戻って欲しい、と思うほどに後悔。何であんな事言ってしまったんだ。
ヒロトの手を引っぱたいてヒロトを泣かせて、俺最低だ。

何が別々に暮らそうだよ、ホント馬鹿だよ。最低野郎。
ショックすぎて俺は結構学校を休んでしまっている。涼野から、ヒロトは来ているんだぞ、とメールで知って少し安心した。
俺は現在休んで家でぼーっとしている。
中学校の頃友人が、彼女と別れてショックで飯も食えなくて寝れなくて学校休みなくった、と話を聞いた時は、馬鹿じゃないのか、と思ったけど今なら分かる。俺の場合は付き合ってないけどさ。傷つけたんだよなぁ。


「さすがにご飯は食べなきゃな」


そう思ってノロリとベットから出てリビングに向かう。
そういえばベット狭いと思ったらヒロトが居ないからか。
……はぁ。ため息しか出てこないな、この口からは。
とりあえず何か適当に炒めてインスタントの味噌汁でも作るかな。


「ヒロト、食器の準備と箸を……あ。居ないんだった」


炒めていた野菜をグシャグシャとかき回して適当に皿に盛りつける。
あーもー俺ホント駄目だ。


「そんなに思い詰めてるなら謝ればいいでしょ」
「……え?」


今部屋に俺しか居ないはずだよな、とふっと声をした方を見ると、そこには東京に居ないはずの吹雪が居た。
何で吹雪が?北海道の高校に入学したんじゃなかったっけ。
あー夢か。ヒロトを泣かせてしまった時も夢だ。ずっと夢見てるんだな。
はは、と笑って皿を持って席に着いて野菜炒めをもごもごを頬張る。


「ちょっと無視は酷いでしょ」
「……本物?」
「ヒロト君泣かせちゃってショックで現実なのも分からない?」

はっと笑って俺の正面に座る。そういえばそこの席にヒロト座ってたんだよなぁ。
吹雪は、もう、と怒って2・3回机をバンバンと叩いて俺を現実へと引き戻す。


「聞いてるの?」
「お前……何で居るの?」
「染岡君に会いに来たんだよ。ってのは嘘で、ヒロト君が僕に泣きついてきたからだよ」
「ヒロトが?」
「そうだよ。風丸君がイライラしてたのに俺気付けなくて、家出ていけって言われてどうしようってさ」


気付けなくてって何でヒロトが責任感じてるんだよ。俺のせいだろ。
そんな俺を見て吹雪は持っていたカバンで俺の頬を殴った。
急すぎて反応出来なくて、殴られた所が数秒経ってじんじんと痛む。そこでやっと気付く、あ、俺殴られたんだ。
無気力すぎて、なんで殴ったんだよ、と言い返す気力も無く俺はただ殴られた所に触れた。熱い。


「殴られて痛い?痛いでしょ。よく聞く台詞だけどさ、殴られたのよりヒロト君の方が数倍ココロ傷ついたんだよ。分かってるの?」
「分かってるよ、分かってる」
「分かってないから今でもグズグズしてるんだろ」


だって、でも、俺が今から言おうとしてるのは全部言い訳だ。
俺は悪くない、だって。ばかり。俺が悪いに決まってるだろ。
勝手に一人で嫉妬して怒って。


「ねぇ、風丸君。君がやらなきゃいけない事」


俺がやらなきゃいけない事。それは今からではもう駄目な事しかもしれない。
本当は傷つけた瞬間にやらなくては、言わなくちゃいけなかったんだ。


「分かってるよね」
「ああ、ありがとう。吹雪」


俺は吹雪にお礼を言って携帯と財布を持って外に飛び出した。
ヒロトに会わなきゃ、会って言わなきゃ、謝らなきゃ。
ごめんって言って抱きしめたい。今すぐ会って言わなきゃ。
携帯からヒロトの番号を探して通話ボタンを押す。
ヒロトが出た瞬間に俺は叫んだ。


「ヒロト、会いたい……ッ!」








三駅またいで少し行った所にそれはある。お日さま園だ。
俺は会いたいと言った瞬間ヒロトの返事も待たずに電話を切ってしまった。
ここに来てヒロトの声を聞くのが怖くなってしまった、とか。


「風丸君」
「ヒロト……」


ヒロトは玄関に背を預けていてそこに立っていた。
俺が来るって事分かってたのか。


「ヒロ……」
「風丸君ごめんね、風丸君イライラしてるのに俺気付けなくて、なのに俺は暢気な事ばっかり言ってて、一緒に住みたくないって言われるのしょうがないよね。ごめんね」


違う、違うんだよ。何でヒロトが謝るんだよ、謝るのは俺だろ。
ヒロトは悪くないんだよ、なのに何で俺は謝れないんだよ。


「荷物ごめんね、明日くらいには全部持って帰るね」
「ヒロト」
「後合い鍵も返す、よね。俺が持っててもしょうがないもんね」
「……ヒロト」
「後、今まで迷惑ばかり掛けてごめんね。風丸君うんざりだったよね」
「ヒロト!」


俺が大声を出して壁にヒロトを押しつけると、ヒロトはぎゅっと目をつぶって肩を震わせた。
戸惑っちゃ駄目だ。俺は言わなくちゃ行けないんだから。


「部屋に荷物なんて取りに来るなよ。合い鍵も持ってろ。持ってなきゃ部屋に入れないだろ!?迷惑なんて思った事ないし、うんざりなんても思った事無い。ヒロトと暮らし始めてから俺のすべてが変わったんだよ!」
「風丸……君……」
「……ごめん、ヒロト、俺、俺……」


涙は耐えきれなくてボロボロと溢れ出て来て次の言葉を言いたいのに言えなくなってしまう。
押さえつけてる手をヒロトはそっと握って、俺?って小さく言う。


「……お、れ。ヒロトを傷つけた、ごめん。一緒に住みたい……ッ」


そう叫ぶように言うとヒロトはそっと俺の手から手を離して、俺をぎゅうっと抱きしめてくれた。
俺は耐えきれなくてヒロトを抱き返した。


「俺ね、嫌われたのかと思って不安だったの」
「嫌うわけないだろ。俺ヒロト好きだし」
「ふふ、そっか」



















「ねぇ、なんで怒ってたの?」
「……クラス離れて一緒に過ごす時間も減って寂しくて、ヒロトが南雲と仲良くてちょっと嫉妬した」
「……何それ、風丸君かわいいね」





俺と彼の高校生活







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