小説 | ナノ










痛い痛い痛い。
別に怪我をしているわけじゃない。体は健康。肌の色がちょっとおかしいってみんなに言われるけど、俺にとっちゃ生まれた頃からこの肌の色だから問題は無い。
なのにどうしてこんなに痛いんだろうか。





「今日の練習はここまでですー!」

マネージャーが笛を吹いて今日一日の練習を終わりを告げる。
俺がふーっと息を吐いてアタリをキョロキョロ見ていたら風丸君と目があった。
風丸君は俺を見るとニコッと笑って俺の方へと駆けてくれた。
嬉しいな、俺の為に走ってきてくれる。だけど、どうしてだろう、痛い。

「ヒロトお疲れ様」
「うん、風丸君もお疲れ様」
「……なぁ今日俺の部屋来ないか?」

風丸君のお誘い。
凄く嬉しいよ。今すぐ行きたい。嬉しいんだけど、……嬉しいんだけど。

「うん、分かった」

断る顔が見たくなくて俺はいつものように笑って返事をした。
俺の返事を聞くと風丸君はニコニコ笑って、じゃあ後で俺の部屋な、と行ってシャワー室へと向かっていった。
俺も風丸君の部屋に行くんだしシャワーを浴びなきゃ。

「ヒロト君も今からシャワー?」
「うん、吹雪君も?」
「そうだよ、一緒に行こー」

俺達は何気に仲良し。
エイリアが日本をお騒がせした時は、うん、顔にボールぶつけてしまって……日本代表に選ばれて顔を合わせて気まずかったけど、仲直りしたんだ。
それで今は吹雪君が俺と風丸君の応援。俺が吹雪君と染岡君の応援、と、何故かこんな感じになっている。

「今日ったらね、染岡君酷いんだよ!僕の事ちっちゃいってバカにして、僕だって成長期なんだから染岡君なんてすぐ抜かしてやるんだから!」
「大きい吹雪君かぁ……うん、君は今のままで十分だよ」
「えーなんでー」

そんな話をしながら脱衣所に付くと、入り口で木野さんに止められた。

「ヒロト君宛てに手紙だそうよ、差出人は不明だけど……」
「あ、う、うん、ありがとう」
「それじゃあね」

嫌な予感がした。
嫌な予感っていうか、もう毎回な事だから分かってしまう自分も居る。
この手紙は彼女達だな。
ビリビリと手紙を破いて中身を確認する。

ああ、やっぱり。

「……ヒロト君、顔真っ青だよ……」
「大丈夫だよ、俺は平気」
「でも……」
「大丈夫だから風丸君にだけは言わないで」

俺は大丈夫だから。大丈夫なんだ。
怪我もしてないよ、でも、やっぱりどこか痛いよ。痛いよ、風丸君。

「吹雪君、風丸君にちょっと遅くなるって伝えてくれる?」
「う、うん」

俺は吹雪君に風丸君への伝言を頼んで軽くシャワーを浴びて、服を新しいのに着替えてから外へと出た。







「遅かったじゃないの」
「……練習があったから……」

ジャパンエリアの地図にも無い場所。
本当に人が通らなくて夜になればただ黒が広がっている、というだけの場所。
俺は手紙でここに呼び出された。
呼び出されたのにも大分馴れた。馴れるって言い方も変かな。こんなの馴れるのがおかしい。

「まだ別れないわけ?」
「……別れないよ、俺は風丸君が好きだもん」
「私たちだって風丸君の事好きよ、ただ貴方が近くに居て、偶然、偶然選ばれただけ、偶然でしょう?だったら私にもその偶然があるって事。私にも偶然をちょうだいよ」
「そんなの違うよ、俺は……ッ」
「……うざい」

話をしていた1人の女の子は連れの女の子二人に耳打ちをした。
何をする気だろうか。俺の事でも殴るんだろうか。
怪我するんだ。足にされないといいなぁ。足だけはやめてほしい。
そんな事を思ってたら女の子二人に羽交い締めにされてしまった。
あ、しまった。元ハイソルジャーなのに。
でも、殴られるだけならいいや。

「ねえ、あんたさっきから俺は風丸君が好きっ言ってるけど風丸君はどう思ってるの?迷惑だと思ってんじゃないの?それって風丸君に凄く負担かけてるって分かってる?」
「そ、んな、風丸君は……」
「あんたの事好きって言ったの?言った?本当に?本当は同情で付き合ってるんじゃないの?ねえ、もう一回言うよ」

どうしよう、凄く痛い。
羽交い締めにされてるから痛いんじゃない、腕は痛くないよ。
心臓が痛いよ。

「別れろよ」











「ヒロト、どうしたんだよ、遅くなるって……何かあったのか?」
「……ゴメンね、ちょっと」

あの後俺は、分かった、と言って彼女たちに背を向けて逃げ出してしまった。
――痛い。
本当は嫌だ、って言いたかった。でも風丸君は俺と何か同情で付き合ってるって思ってるのかな、って思ったら、嫌だ、なんて言えなかった。
――痛いよ。

「かぜまるくん、おれのことすき?」
「なんだよ、急に。好きに決まってるだろ?」
「ほんとうに?ほんとうにおれのことすきなの?」
「だから好きだよ、世界で一番好き。愛してるよ」
「うそだよ、うそだ。おれのことすきじゃないんだ」
「ヒロト……何言って……」

どうしよう、止まらないよ。こんな事言いたいんじゃない。
言いたくないよ。

「さいしょからふあんだったんだ。おれとかぜまるくんが、って」
「ヒロト……」
「ねえ、もういたいよ、わかれよう、かぜまるくん」

――痛いよ、風丸君










あれから3日が経った。
ヒロトが俺に別れよう、って言った日から。
俺は、うん、なんて言ってない。言いたくない、一生言うもんか。
だっておかしいだろ、急に別れようなんて。
喧嘩だってしない。うん、喧嘩なんてした事がない。

いつも決め事があると、二人で意見を出し合って、どっちも損が無いよう両方が得をする選択をしてきた。
今回の別れ話はどうだ。いつもしている決め事に例えてみよう。
俺は損をする。別れるなんて損しか無い。得なんてしない。
ヒロトだって……ヒロトだって損しかしないだろ。
あんな辛そうな顔で別れようって言って何を得する事があるんだ。
普通俺の事嫌いなら嬉しそうに別れよう、って言うだろ。

「分からない……」

ヒロトの様子がおかしいなんて事なんて無かったはずだ。
いつも笑ってた。

「風丸君!」
「え?うわっ」

しまった。練習中だった。
俺は吹雪からのパスを顔で受けてしまった。
練習中に……クソ。

「大丈夫?」
「悪い、ぼうっとしていた」
「あ、風丸君、血!」
「え?」







転んだ時に手をついて怪我したのか。
手からは、つぅっと血が流れている。
吹雪は俺にタオルを渡してくれた。本当に駄目だな、俺は。
ヒロトが居ないとこんなにも俺は駄目なんだ。
ヒロトが居ないと……ッ

「……風丸君……ヒロト君と何かあったの?」
「……うん、まぁ、ちょっと……な」
「言いなよ、最近……3日前かな、3日前からおかしいんだよ。風丸君と何かあったとしか思えない」

3日前。
ちょうどあの日だ。
別れ話をされたあの日。

「僕辛いよ。あんなヒロト君見るの。あんなのヒロト君じゃないよ」
「俺だって嫌だよ、ヒロトと別れるなんて」
「は!?別れたの?」

こんな声を上げる吹雪初めて見た気がする。
こんな感情的な奴だっただろうか。

「3日前に急に俺の部屋で……」

俺は吹雪に全部話した。
あの日ヒロトを俺の部屋に誘った事。
嬉しそうに笑って、うんって答えた事。
でも、何故か遅れて俺の部屋にやってきた事も。

「……もしかして……」
「吹雪お前心当たりあるのか?」
「多分ね。僕の考えがあってれば、の話だけど」
「間違ってでもいい。教えてくれ」




吹雪は全部話をしてくれた。
俺もイナズマジャパンの一員だ。俺のプレイを好いてくれる人も少なからず居ると思う。
その中の過激なほどに好いてくれる子が何処で知ったのか分からないけど、彼女達(吹雪が言うには複数らしい)が俺とヒロトが付き合ってる事を知ったらしい。
それで別れるようにヒロトに嫌がらせをしていたらしい。
手紙や電話などたくさんの方法で影で。
時には呼び出したりもしたらしい。
そういう時は決まってヒロトは

「大丈夫、風丸君には言わないで」

と言っていたらしい。
でも、最近その呼び出しや嫌がらせがピタリと止まったと言う。
最近と言っても3日前。
3日前にちょうど。

もしかして、彼女たちはヒロトに風丸君が迷惑って思ってるって言ったんじゃないかな

って。
なんだか少女漫画で良くある展開だと思ってしまった。
もしそれが本当だったら俺は許さない。


「多分ね、嫌がらせをしてた子達、いつも僕たちの練習を見てると思うんだ。いつも練習後に手紙が来るって言うし」

練習後……。
今日の練習……ぼうっとしてたけど、その子達が見ていたかも知れない。
いつも居るあの三人……か?

「吹雪」
「ん?」
「俺、行ってくるよ」
「……うん」

吹雪は後は何も言わず俺の事を見送ってくれた。
監督には誤魔化しておく、と言ってくれた。
あ、あの子達か。

「ねえ、君達話少しいいかな?」










「風丸君、急にどうしたの?」

何も知らない女の子は俺にそう問うた。
この子にヒロトは……ッ。
俺は怒りで震える手をキュッと握って唇を噛みしめた。

「ヒロトと俺を別れさせるように言ったのはお前達か?」
「……そうだよ、だって風丸君迷惑そうだったもん。だから私が彼に言ったの。別れてって」
「いつ俺が迷惑だなんて言ったんだよ」
「私が思ったの。迷惑そう、って。風丸君は彼と付き合っても幸せになれないよ!絶対に!私が幸せにするの、そうだよ、私が!」

この子……。
何を言っても駄目かな。
自分が一番って考えてるみたいだ。
自分が幸せになる為に卑怯な手で相手を消す。
もし、俺が彼女と付き合う事になっても俺はヒロトが好きだ。
そんなの、彼女も嫌だろうし、俺も嫌だ。ヒロトも嫌だと思う。
誰も得しないよ。

「そういうの、ありがた迷惑って言うんだよ。俺に幸せの価値は俺が決める。俺の幸せは誰も決める権利なんてない」
「……何それ、ふざけないでよ。私が……私が幸せって言ったら幸せなの!」
「ねえ、……もうやめようよ」

ずっと黙っていた二人のうち一人がさっきまで喋っていた子の服を掴んでいた。

「何言ってんの?あんた」
「あたしもう嫌だよ、風丸君の事、あたし好きだったけど、風丸君は基山君と一緒に居た時凄く幸せそうな顔してた。それを壊すなんてそんな権利あたし達には無いよ」
「私もそう思う。ゴメンね……」

そう言って二人は去っていってしまった。
一人残った彼女は何を言っているのか分からず、頭をバリバリとかいて、何かを叫んだと思ったら、俺に背を向けて走り出していってしまった。


これで良かったんだろうか。
そうだ後はヒロトと話さなきゃな。









風丸君と別れて3日。
まだ3日なんだ。もう一年くらい、ううん、三年くらい経った気がするな。
何でこんなに時間が経つのが遅いんだろう。
風丸君と一緒に居た時は時間が凄く早く感じたのに。
でも、戻れないんだ。
風丸君は俺の事が嫌いで、……それで別れたんだから。

俺が部屋でぼうっとしてると、こんこん、とドアを叩く音がした。
吹雪君かな?

「入っていいよ」

自分でもビックリするくらい掠れた声が出た。
風丸君が好きだと言ってくれた俺の声。こんなに掠れちゃったよ。
――また痛いよ。

「ヒロト」
「……え、かぜ、まるく、……ん」

何で風丸君が俺の部屋に?
俺の事嫌いなのに?

「何で着たの……」
「話があるから」
「……俺の事嫌いなんでしょ?」
「いつそんな事言ったんだよ、直接俺から聞いたのか?」

そんな嫌い?って言って、嫌い、なんて答える奴居るわけないだろ!

「俺はヒロトが好きだ。迷惑なんて思わない。むしろ俺がヒロトの事好きすぎて迷惑がかかってないか心配するくらいだ」
「そんなの……迷惑だなんて思わないよ」
「だろ?俺はヒロトが好きだ。それだけでいいと俺は思うよ。ヒロトは俺の事が好きじゃないのか?」



そんなの、そんなの……


「好きに決まってる……!嫌いになれるわけないよ!別れろって言われた時に凄く苦しかった。悔しかった。何で好きなのに別れなきゃいけないの、って思った。でも、風丸君が迷惑って思ってるって言われた時に、俺、好きで良いのかなって思っちゃって……」

どうしよう、止まらないよ。
貯めてた分が全部、全部。

「でも、俺は……やっぱり風丸君の事が好きだよ!」
「俺も好きだよ、ヒロト。好きって気持ちは誰かに遠慮するものじゃない。ヒロトは自分にもっと素直になるべきだよ」
「うん、うん……」

抱きついた風丸君はとっても暖かかった。
3日一緒に居なかっただけなのに何でこんなに暖かいんだろう。

やっぱり俺は風丸君の事好きなんだ。












「あれ?二人より戻したの!?」

風丸君と一緒にパス練習をしていると、吹雪君が俺達の所へ駆けてきた。
染岡君も一緒に。

「お前等が喧嘩してる時こいつすっげー落ち込んでてさ、良かったぜ、仲直りしてさ」
「迷惑かけてゴメンね、染岡君」
「いや、二人が幸せそうならいいんだよ」
「おかげさまでな、サンキューな二人とも」

ありがとう、吹雪君、染岡君。
俺ってこんなにたくさんの人に支えられてたんだなぁ。

「そういえばヒロト君、しょっちゅう痛い痛いって言ってたけど今日は痛くないの」
「あ、ホントだね、そういえば痛くないや」

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