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「豪炎寺君、見てこれ」
「ねぇ知ってる?豪炎寺君」
「あのね昨日吹雪君とね」
「……どうしよう今日練習中に円堂君に迷惑かけちゃった」


表情がコロコロ変えながら俺の周りをうろうろする日本中をお騒がせした元宇宙人のあいつ。
そんなあいつはあの時のような感じは一切無く俺達と世界一になるために毎日汗水流している。


「ちょっと聞いてるの?」
「ああ、吹雪と遊んだんだっけ?」
「……円堂君に迷惑かけちゃったんだよ」
「すまない」


しまったしまった。
ヒロトは俺に構わず、それでね、と話出す。
なんだろうな、ヒロトの声って落ち着くのかよく分からないが聞いていて凄く心地が良い。
怒ったり笑ったり拗ねたり落ち込んだり頬を染めたり。エイリアの時はこんな表情豊かな奴だとは思わなかったな。
と、言ってもエイリアの時はあまり俺達接点無かったな。そういえば。


「それでね、どうやって円堂君に謝ればいいかなって思うんだけど……」
「自分が思った事をそのまま言えばいいんじゃないか?」


やっぱそうだよね、とヒロトはポリポリと顔をかく。そういえばヒロトよく頬をかくな、癖なのか。
ヒロトはよく木暮や虎丸と言った年下に相談される事が多いが自分の事になると少し考えが子供になるというか、自分の思った事を素直に言えない性格だ。
幼い頃から言う事を我慢してきたから、相手を優先して自分は二の次、と考えて生きてきたみたいだ。
まぁそれも最近無くなってきて自分の感情をちゃんと表に出せるようになってきた。うん、いい事だ。


「よし、じゃあ俺謝ってくるよ!」
「ああ、焦って転ぶんじゃない、あ」


俺が言い終える前にヒロトは駈けだして案の定転んだ。しかも階段のコンクリートの部分にだ。
転んだヒロトは動かず打ち付けた膝をジッと見つめている。もしかして。


「つッ……ご、うえんじ、く」
「……ジッとしていろ」


ほらやっぱり涙目。
今週に入って何回目なんだろうか、数えるのも面倒な程転んだな、きっと。
俺はいつものようにベンチから救急箱とタオルを持ってヒロトの元へ戻る。
戻るとヒロトは怪我の周りをぎゅっと握っているらしく痛みを紛らわしてるみたいだ。そういえば夕香も怪我をすると違う所をつねって痛みを別の所に集中させてたな。


「ヒロト待たせたな」
「ごめんね、また俺転んじゃった」
「もう慣れた」


慣れた手つきでヒロトを立たせて階段に座らせて涙目のヒロトにタオルを渡して顔を拭かせる。
ぽんぽんと目元をタオルで押さえながらヒロトはボソボソと、ふふって笑ってるしまったく懲りない奴だなぁ。
懲りてないみたいだしと思い俺は勢いよく傷口に消毒液を。


「っつっぁ!?ちょっと豪炎寺君、しっ、染みる!」
「転ぶお前が悪い」
「そ、そうだけど……うぅ」


またジンワリと目が潤んできてる。
しょうがないな、優しくやってやろう。今度は丁寧にさっきかけた消毒を綿で拭き取りながらガーゼを膝に貼る。
せっかく綺麗な足してるのに怪我だらけっていうのは勿体ないと俺は毎回思うけどヒロトはまた転ぶんだろうな、と俺は思う。


「ほら、転ぶなよ」
「分かってるよ、ありがとう。豪炎寺君」
「謝りに行くのか?」
「うん、迷惑かけちゃったしね」
「……走るなよ」


分かってるって!と笑って階段を駆け上がっていくヒロト。
毎回転ぶのも分かってる。嫌いなモノも食べないで残して俺に食べさせる。
夜中にトイレに行けないと隣りの俺を起こしに来る。
でも何故かイラッと来るわけでもない。
多分放っておけないんだろうな。




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