小説 | ナノ






静かだ。
俺は1人夜中に海に来た。最後だからこの景色を目に焼き付けておきたかったんだ。
そう、最後だからだ。

夜の海は誰も居なくて、俺は靴を脱いで海に足を付けてみた。
やっぱり夜の海は冷たいなぁ。

ぱしゃぱしゃと海をかき分けて歩いてみると凄く悲しい気持ちになってしまった。
綱海君がそういえば昔言ってたなぁ。
「俺達なんて海の広さに比べればちっぽけな存在だ」って。
俺の、このみんなでサッカーをした、FFIのサッカーの時間も俺の人生で見ればちっぽけな事なのだろうか。
何年間もみんなと一緒にサッカーをした気がする。
でも実際はそんなに一緒に過ごしてない。
みんなで一緒にサッカーを朝から晩までやって、一緒にお風呂に入ってご飯を食べて寝て、そしてまた朝から晩までサッカーをする。
当たり前だと思っていた事が明日からは無くなっちゃうんだ。

みんな別々の人生を歩んでいく。
サッカーを続けるのかもしれない、でも、サッカーをやめて別の事をするかもしれない。

「ヒロト?」

急に名前を呼ばれてビックリして肩を跳ね上がらせてしまった。
ハッと声をした方を振り向くとそこには風丸君が居た。

「風丸君……寝たのかと思ってたよ」
「……寝れなくてさ。もう最後だって思ったら」

風丸君も、か。俺と同じ事思ってたんだ。

「俺も、俺も……明日みんなと離ればなれになるって思ったら寝れなかったんだ」
「そうか……夜の海は冷えるぞ、上がってこいよ」
「うん」

風丸君の手にタオルがあった。準備いいなぁ、と思ったり。
俺が海から上がると風丸君は俺を砂浜に座らせると足を拭いてくれた。
壊れ物を扱うように丁寧に優しく。風丸君はいつも俺に優しい。凄く嬉しい。

「これでよし」
「ありがとう、風丸君」
「どういたしまして」

ニッと風丸君が俺に笑ってくれた。
……この笑顔も最後なんだ。俺の前から無くなっちゃう。
風丸君は日本に帰っても円堂君や豪炎寺君、鬼道君達とサッカーを続けるだろう。同じ中学校だしね。
でも、俺は何処に行くんだろう。おひさま園に帰るのかな?

「ヒロトどうしたんだ、そんな顔して」
「風丸君は悲しくないの?今日で最後だったんだよ、俺達イナズマジャパンの最後の試合、終わっちゃったんだよ?もうみんなでサッカー出来ないんだよ!?」

俺達はそれぞれの帰るべき場所へと帰っていく。
みんなはまた普通の中学生活を送っていくんだ。

「俺は嫌だよ、みんなでサッカーまだしてたいよ、ずっとしてたい。なのに、みんなと一緒に朝から晩までサッカーやってご飯食べてお風呂入って寝る事も明日から無くなっちゃうんだよ!」
「……いいわけないだろ、俺だってずっとみんなと一緒にサッカーしてたい、一緒のチームで。ヒロトともずっと一緒に居たいよ」

風丸君を見ると泣いていた。涙がずっと流れている。
風丸君も俺と同じ気持ちだったんだ。
離ればなれになっちゃう事が嫌だったんだ。

「エイリアの事がなくなったヒロトは本当に心からサッカーを楽しんでいた。俺も凄く楽しかった。敵だった相手とサッカーをして。凄く嬉しかった。色んなヒロトを知れて」
「俺も風丸君と一緒にサッカーやって、風丸君にたくさんの事を教えて貰った。でもなんて……何で……」




何で今日で最後なんだよ……

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