小説 | ナノ









「コーヒー飲む?」
「うん、飲む」

コーヒー苦くて俺好きだよ、なんてヒロトは言った。
そういえばヒロトはコーヒーみたいに苦いのばかり飲んだり食べたりしている気がする。
小さい頃の事を思い出しても、おやつを食べてる時もヒロトは甘いモノをみんなで食べていたという記憶が無い。
甘いモノが嫌いなのだろうか。

「ヒロト」
「何?」
「……甘いもの嫌いなのか?」

俺がそう言うとヒロトは飲んでいたカップをソッと机の上に置いた。
そうだな、と頬を触ったり髪を弄ったりしている。
ヒロトは言いにくい事を言う時はよく手が落ち着かなかったりしていたな。
細かなクセや小さな頃の記憶は良く覚えているのに好きなモノとか全く知らない俺が居た。
なんだかちょっと寂しいって思ったり。

「甘いモノが嫌いってわけじゃないの。ただ……」
「ただ?」
「甘いモノを食べて甘いって感じた事がないの」

甘いって感じた事が無い?
どういう事かサッパリ分からない。甘党すぎて普通の甘いモノじゃ足りないって事なのだろうか。
でもヒロトって甘いモノ大好き、というイメージが全く無い。

「甘党でもないよ、俺でも分からないけど甘いって思えないの」
「どんなモノでも?」

ヒロトは、うん、と頷いた。今まであらゆる甘いモノを食べてきたらしい。
和菓子、洋菓子。コーヒーに砂糖を10個入れただとか。
想像したら吐きそうになった。砂糖10個って。

「俺病気なのかな」
「……さあな、俺は医者だからわかんねぇ」
「晴矢が医者か……想像出来ないや」

ひでぇな、と思ったけど自分でも医者は無いな、と思った。
でも、甘いって感じた事が無いのはさすがにどうなんだ。
実は俺はヒロトと一緒に喫茶店に行ってケーキを食べたいって考えたりもしていた。
でも、甘いって感じ無いのにケーキを食べてもつまらない。何か原因でもあるのだろうか。

「そういえばだけど」

ヒロトがつっと人差し指でカップの口周りをなぞる。
その姿がとても綺麗で見とれてしまった。どんだけ俺はヒロトが好きなんだ。

「俺達ってキスとかしたことないよね」
「ブッホァ!」

急すぎて俺は飲んでいたコーヒーを吐いてしまった。何を急に。
だってまだキスなんて早い。
俺がそう思ってるとヒロトは汚いなぁと笑いながら俺の方へと向かってきた。

「ほら……口の周りに付いてる」
「お前が変な事言うからだろ」
「だってホントの事じゃん」

ヒロトはタオルを持ってくるね、と言い俺の元から離れようとした。
おい、行くな。
気付いたら俺はヒロトの手を掴んで自分の元へと引き寄せた。
ヘタレヘタレ言われ続けた俺が好きな人、ヒロトを抱きしめるなんて。

「何、口の周り舐めて欲しいの?」
「……」
「ふぅ」

ヒロトは何かを諦めたように少し背伸びをして俺の口元をぺろぺろ舐めだした。
くすぐったい。
もう零れたコーヒーも無いのにヒロトはずっとぺろぺろと俺を舐め続ける。

「もう無いだろ?」
「んっ……ん」

さすがに恥ずかしくなって止めようとするけどヒロトはやめてくれない。

「晴矢甘い」
「え?」
「晴矢が甘い、どうしてだろう」

甘い?
甘いって今まで感じた事が無いんじゃなかったのか?
でも俺が甘いってどういう事だよ。

「何だ最初から簡単な事だったんだ。晴矢を舐めれば甘かったんだ!」
「はあ?何言って、うわぁ!」

急に俺を押し倒してヒロトは俺の口をぺろぺろを舐め続けた。
俺の理性保てないんだけど。

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