耳を劈く絶叫。絶望に満ちた悲鳴。その人物が誰であるのか手に取るように理解できる私は、夢の中から飛び起きて、急いで自室から駆け出した。斬魄刀の帯刀も忘れない。目指す場所は、東大聖壁。東大聖壁だと、あの男が言っていた。私とギンと要は、それを知っている。



「公事と私事を混同するな、雛森副隊長!」



 私がそこに辿り着いたとき、瞬歩を乱用しすぎて情けないことに息はすっかり上がっていた。ギンの羽織が靡くその向こうには、刃を交える吉良くんと雛森ちゃん。そして、その更に奥の壁に、斬魄刀が一本突き刺さっていた。呆然としている皆、それを見て、言葉を失っている。ああ、そうか、鏡花水月だ。雛森ちゃんの切れ方からして、おそらく"見"えているのは、彼の死体か何かだろう。どうしたらいい、と焦る思考回路で必死に考えていたら、可哀想な雛森ちゃんが呻き、あたりに爆風が吹き抜けた。小さく悲鳴を零した私を、気を利かしたギンが笑いながら盾になってくれる。



「ギン、イヅル君が、」



 私の言葉を遮るようにして響く、女の子の怒号。次いで飛梅がこちらに飛んできて、ギンの頭上を通り抜けて壁を爆破させた。これ、少し軌道が逸れてたら完全に直撃じゃないか。全身の血液が遡っていくみたいだ。へたりと座り込んだ私の頭を、ギンが大丈夫だとでも言うように、撫でてくれた。



「僕は君を、敵として処理する」

「やめて、イヅル君!」



 叫んで私が駆け出すより早く、盛大な刃物音が響く。雛森ちゃんの剣を踏み抑えて、さらに自分の斬魄刀で吉良くんのそれを受けるのは、日番谷隊長だ。動くな、と低い声で二人を制すと、混乱する雛森ちゃんを叱咤する。そこに紛れもなく惣右介の死体を見る彼にとっては、とても冷静で的確な判断だろう。

 側にいた乱菊や修平くんに二人を連行させ、日番谷隊長は鏡花水月を見つめている。何もないそこに惣右介の死体を認めながら、そこをじっと見つめている。全てを知っている私には(恐らくはギンにも)それはとても滑稽だったけれど、私はどうしてもそんな少年を笑うことが出来ないでいた。

 ああ、ちょっとずつ、けれど確実に、全てが終わる日が近付いている。酸素が減っていくような心地がする。どうしてこんなに息苦しいの。



「市丸。先に言っておくぜ。雛森に血流させたら、俺がお前を殺す」

「そら怖い。危ない奴が近付かんように、よう見張っとかなあきませんな」

「……お前もだ、みょうじ」



 突如出された私の名に、情けなくもびくりと肩が跳ねた。去っていく日番谷隊長の背中はまだ子供らしく小さくて、それなのに、その中に携えている覚悟はきっと並じゃない。

 日番谷隊長。あなたにも譲れないものがあるだろう。護りたいものがあるだろう。けどそれは私だって同じだ。百年来のこの覚悟を、刺し違えてでもあの男を殺す決意を、あなたやあなたの大切なひとのためだけに揺らがすわけにはいかないんだ。私には私なりの矜恃がある。それがあなたのものと互いに壊し合うことでしか存在し得ないのならば仕方ない。そのときはあなたたちの全てを踏み躙ってでも進むしかない。

 だから、そのときは。



「ご容赦、ください、……日番谷隊長」



 私の言葉が届いたか、はたまた届いたとしても私が考えていた通りの意味で伝わったかは定かではない。きっと、殺さないでくれという懇願にも取れるような言葉の選び方だった。別に彼にどう伝わろうが、正直構いはしないのだけれど、ギンだけはその意味をちゃんと理解して、ずっとその手のひらを私の頭の上に乗せてくれていた。

まがい物の酷い華やかさといったら

(Title by アセンソール)






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