※一応情事後シーン
※念のため閲覧注意










 様子を見に行ってやってくれ、と藍染隊長が突然言わはったのがつい数秒前。はあ、と自分でも間抜けと思うくらいには気の抜けた返事と一緒に首を傾げたら、アイツはさも可笑しそうに喉の奥で笑った。



「どういう意味ですか」

「なかなか起きてこないからね、少しやり過ぎてしまったかもしれない」



 それだけで全てを察した。ほんまに何処までも下衆な奴や。彼女を弄んでいることも、それをボクにわざわざ見せることも、全部自分が愉しむためだけのもの。なんて奴や、ほんま。今すぐにでも殺したくなってくる。

 どうしようもなく不愉快やったんで、早々に話を切ろうと、素直に了承して彼の自室へ向かう。今頃はウルキオラが人間の少女を捕らえに行っているんやろう。どんどん暴走するあの人に、またおもちゃが一つ増えるんや。あわよくば、それに目がつられて彼女から少しでも手を引いてくれればいいのにと、そんなことを思った。ボクも負けず劣らず最低やなあ。まあ、ええけど。


 ノックをしても返答は無く、ゆっくり扉を開けてみれば、部屋の真ん中にある大きなベッドの上で、女の子が眠っとった。やっぱりや。近付いて念のため確認して、さてどうしたものかと考えてみる。服も床に散らばっとるし、毛布に隠れてるけどまだ裸やし。もう互いに寛容しすぎて、そんなことでどうこう言う仲やないんやけど、一応ボクは男でこの子は女の子、やから。



「んぅ、……ギ、ン……?」



 なんて、悩んどるうちにお姫さんは目を醒ましてしもた。ボクを呼ぶ声がまだ眠たそうやったんで、うん、と頷きながらその前髪にそっと触れる。寝汗をかいたらしく、額が少し汗ばんどった。嫌な夢でも見てたんやろうか。



「まだ寝とって、なまえ」



 彼女の髪はさらさらで、いくら掬い取っても指と指の隙間からするりと落ちていってしまう。そんなことを繰り返していたら、やがてくすぐったそうに彼女が小さく笑った。久々に見た、なまえの本物の笑顔やと思った。

 いつからやったっけ、この子が妙に影の差したような笑い方をするようになったのは。

 それをさせたのは紛れもなく藍染惣右介その人で、それを踏まえてもまたボクはアイツが気に入らんかった。アイツはいつでもボクの大切なひとの大切なもんを奪っていく。そうして自らが傷付けた人々を高みから見下ろしては、その足掻き様を嘲るんや。

 ベッドの縁に腰をかけると、新たな荷重を受け入れてスプリングが軋んだ。なまえがボクの服をつまんでは見上げてくるので、何や、と問いながらその手のひらをそっと包んだ。ずっと眠っとったんやろに、えらい冷たくなっとる。そのとき目に入った白い首筋に、鬱血した後が色濃く残っていた。

 傷だらけの彼女が、ギン、と呟く。



「寒い、よ」

「……せやねえ」



 せやね、なまえ、ほんまにほんまに寒いね、ここは。その理由が、ボクらの居場所がここやないからやったら、どれだけ良かったことか。


 やがてか細い寝息が聞こえてきた。それでも服は掴まれたままやったから、ボクもそこに腰掛けたまま、彼女の体温を背中に感じていた。じわりと広がる温度があたたかい。どうか、このつながる体温からボクの温度も彼女に渡って、少しでもその寒さが収まりますようにと、二人きりの静かな世界で、ボクはただ祈っていた。



壊死した笑顔から切り落とす





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