「京楽隊長」



 震えた声で僕の名を呼ぶのは、他の誰でもない、僕がこの世で一番大切な、僕の部下だ。自室までやってきたかと思えば、泣きそうな声でそうやって名前を呼ぶんだから、もう酷いったらない。僕が泣かせたとまでは言わないけど、僕がその原因に一枚噛んでしまったことには変わりない。

 でも、仕方がない、仕方なかったんだ。僕は確かに確認しに行ったんだ。それで彼をこの二つの目で見たんだ。はっきりと、隊舎から僕に会釈する彼を。



「どうして」



 彼女は僕の背中に縋りついて、絞り出すようにそう呟いた。きっと泣いているのだろう。でも僕は、今彼女に触れちゃいけないような気がして、彼女がすすり泣く音を、背中にずっと聞いていた。触れてあげたかったけど、抱き締めてあげたかったけど、今の僕に、彼女にかけてあげられる言葉はないから、ただ黙ってじっとしていた。



「どうして、リサさんが、喜助さんが」



 浦原喜助がリサちゃんや平子隊長に悪魔のような実験をした。そういう結論に達したのが今日だ。リサちゃんたちは虚として処理されそうになっていたのだけれど、あるとき忽然と姿を消したのだそうだ。同じくして、浦原喜助も逃げたらしい。

 彼女にとっては、リサちゃんも喜助くんも同じくらい大切な存在だった。二人は彼女が生きていくのに欠かせない、深いつながりを持った子たちだった。

 そんな二人が、突然彼女の前から消えてしまった。



「京楽隊長、あなたは、騙されたんです、きっと」

「騙された? 僕が?」

「藍染副隊長がやったんです、あの実験は」

「僕はあの夜、わざわざ彼の姿を確認しに行ったんだよ。それに、僕以外に100人以上の隊士が彼を同じく確認しているんだ」

「だから、皆騙されてるんです、そうに決まってます」



 彼女は、喜助くんが犯人だということを、認めたくないように思えた。けれど、中央四十六室の判決は既に出ている。そんな中、確かに審議の最中、喜助くんは藍染の名を犯人に挙げたのだそうだ、けど。


 僕は、見ない方が良かったのだろうか。

 あの夜、あの胸騒ぎに素知らぬふりをして、大人しく布団の中に居た方が良かったのだろうか。そうすれば、今ここで苦しむ彼女に、そうかもしれないねと、頷くことが出来ただろうか。



「喜助さんが、そんな酷いこと、するはずないんです」

「犯人は彼なんだ。……もう、寝なさい」



 ごめんね、ごめんね。

 僕が君を慰めてあげたかった。大丈夫だよ、彼は犯人じゃないよと、そう言ってあげたかった。彼等が君にとって大事な人なのは、僕がよく知っているんだ。大切な人がいなくなる辛さだって、知っているんだ。

 でも僕は彼を見てしまったんだ。彼に犯行は出来ないんだ。

 僕の言葉に、とうとう決壊したように声を上げて泣き始めた彼女にも、僕は手を伸ばしてあげることは出来ない。彼女の悲鳴にも似た泣き声は、僕の心臓を一突きにするみたいに、凄く凄く痛ましかった。


眠れない夜を半分あげる





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