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 春島に行った。
 色鮮やかな桜が咲き誇る町並みを、ミラやローと一緒に見て回ったのを、シャチは憶えている。桜餅を頬張り顔を綻ばせた彼女を、微笑ましく見守っていたローの姿だってちゃんと憶えている。

 夏島にも行った。
 火傷するのではないかと思うほどの陽光を、しかしものともせず上陸の喜びを胸に駆けて行ったクルーを、ローとミラは揃って笑っていた。彼女はやはり女の子だ。日焼け止めを塗ってから行きますねと言って、ビーチで転がり遊ぶシャチたちに思わず吹き出していた。日差しを浴びながらみんなで食べたアイスは、信じられないほどに美味しかった。

 秋島にだって行った。メーラとは別の秋島だ。
 その地特有のブランドになっているというぶどうは、数に限りがあって、クルーの争奪戦になったものだ。海賊どうしでの食料争いはえげつないもので、ミラが弱冠引いていたので、シャチが自分の勝ち取ったそれをいくつかわけてやった。

 冬島では雪が降っていた。
 つなぎ一枚で外に飛び出たミラは、空から落ちてくる白の粒に手を伸ばし、それが音もなく消えていく様に見惚れていた。あのとき、クルーの誰よりも早くコートを持って彼女のもとへ走り寄ったのは、誰だっただろうか。


 よくよく思い返してみれば短い航海でも、それはあまりに濃密で楽しくて騒がしくて海賊らしい充実した時間だったから、彼らはそれがとても長い間だと思えるのだ。まるで彼女が、ハートの海賊団の結成当初からいたかのように錯覚できるのだ。彼女が、自分たちとなにひとつ違わない海賊の一員であると、疑うことなく信じられるのだ。

 信じていたかったのだ。

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