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 海岸から森へ入れば、やがて木々が開けた先に街が見えてくる。この三日間でメーラの島内構造をすっかり記憶していたローと三人は、一切の迷いを見せずに小道を駆けていた。木の葉は、傾き始めた太陽の赤い光を隙間から零し落としている。

 ローは鬼哭を、ペンギンとシャチは拳銃を、いつでも抜けるように気を張っている。ベポもまた、いつ木の影から敵が奇襲してくるかわからないのだから、酷く辺りを警戒していた。夕暮れが毒々しく彼らの視界を染め上げれば、ああなんということか、胸の内に燻る不安がゆるゆると沸騰していくのである。そして、こういう場合の自分の第六感が不幸ながらよく当たってしまうことを、ローは経験則で知っていた。

 空気を切って駆け抜ける、そのほんの一瞬に混じった血の匂いを、彼らはけして逃さない。

 ふと上げた視界の隅っこ、逞しく天に登る大木の幹の裏から、投げ出された青白い手が見えた。

「ミラ!?」

 哭くように叫んだのは、三人と一匹の、果たして誰だったのか。今となっては分からないけれど。

 我を忘れて全力で駆け寄れば、木の影で倒れていたのは確かにミラその人だった。額の右側から血を流し、全身がすっかり弛緩している。流石は医者といおうか、即座に脈を確認したローが頷くのを認めてから、三人は彼の指示を待った。頭を怪我しているのであれば、恐らく安易に動かさない方が良いのだろうと判断したのだった。血は止まっているようだから、そこまで神経質になる必要もないのかもしれないが、念には念を、だ。

 そのとき、他人の気配を感じ取ったのだろうか、気絶していたはずのミラが、ほんのわずか、身じろいだ。「ミラ、」とローが呼ぶのに、また身体が無理矢理動こうとするので、慌てて諌めた。

「動くな、大人しくしていろ」

 血に濡れた右瞼がぴくぴくと痙攣するのだから、きっと告げられた命令の意味くらいは理解できているのだろう。とにかく船へ運ぼうと、傷だらけの身体に手を添えた、その、とき。

「フッフッフ、遅いじゃねェか」

 それはあまりに耳に慣れ過ぎた、それでいて二度と会いたくなかったひとの、声。で。

 咄嗟に、きっと事態を把握するよりも早く、鬼哭を抜いたローのもとへ、糸の刃が迫る。捉えきれなかったそのわずかな零れが、彼の頬に一筋の赤い線を描いた。「船長!」と誰かが叫ぶ。弱々しく息をする女の目が、ほんの少しだけ開かれる。船長、と、その唇が形作るが、音は、紡がれない。

「何でお前がここにいる、……ドフラミンゴ!」

 ふつふつと湧き上がる感情に、なんと名前をつければよいのか。ただローは、こんな島に上陸させてしまった自らの判断を悔やみ、腕の中にある弱った命に、謝罪することしかできなかった。


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