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彼がやっとのことで目を開けると、目の前には少女の姿があった。
「せっちゃん!」
何度目かの名前を、幼い声は嬉しそうに呼んだ。
その大きな黒い瞳に、自分が写るんじゃないかと思う。
「…起きた?」
ぼうっとした頭で動かずに見つめていると、少女は首を傾げて尋ねた。
[せっちゃん]はようやく目が覚めたように、ふたつまばたきをする。
「…おはよう。まちは朝から元気だね」
通りで重いと思ったら、布団の上に[まち]が乗っていた。
「だいさんのごはん、おいしいもん」
よいしょと体を起こすと、せっちゃんは少し笑った。
「大さん、怒ったでしょ」
「どうしてわかるの?」
少女がまた首を傾げる。
「おいしいねって言ったら、だいさんあたりまえだって怒るの」
まちは、板前の大さんを父親のように慕っている。
照れ屋の彼がそれを隠すように、不機嫌な顔で料理している姿が頭に浮かんだ。
「きっと、嬉しいから怒ったんだよ」
笑いながらそう言ったが、まちは納得していないようで首をかしげた。
「あ、せっちゃんの朝ごはん、あるよ。もうお客さんがくる時間だから、まち持ってきてあげたの」
襖の向こうを指して、まちはせっちゃんを見上げる。
そこにはきっと、朝食を乗せたお膳があるのだろう。
「うん、ありがとう」
せっちゃんはまだ眠そうに、寝ぐせのついた頭を掻きながら言った。
「せっちゃんはいつもお寝坊さんねって、お母さん怒ってたよ」
「…そっか、お揃いだね」
「お揃い?」
「まちは大さんに怒られたし、僕はみ代さんに怒られたでしょ。だからお揃い」
「まちとせっちゃんお揃い!」
にっこりと笑うと、少女の顔もほころんだ。
「…さて、今日の朝ご飯はなにかな?」
あくびをかみ殺してからせっちゃんは尋ねる。
しかしまちは、おすまし顔になってまだだめ、と襖を開けない。
「お着替えしなきゃご飯はあげないの」
「…み代さんに言われたの?」
そう尋ねると、まちは今度は素直に頷いた。
「あーあ、み代さんにはかなわないな」
食べたらすぐに、二度寝をしようと思っていた。
そんな魂胆など、大人にはお見通しらしい。
「やれやれ、昨日も遅かったのにあんまりだ」
寝間着から袴に着替えると、まちは後ろからお布団も畳んでねと追い討ちをかけた。
「…まちにもかなわないや」
振り返ったせっちゃんは苦笑する。
これから一緒に遊んで貰うのだ、せっちゃんに寝てしまわれてはまちが困る。
少女は嬉しそうに笑った。



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