水の国のアリス

 




--Story

私は水が嫌いだ。
怖いのではない。嫌いなのだ。
あのゆらゆらと透き通る先の先に、私は怯えている。
けれどそんなことを私は絶対に口にしないのだ。
泳げないただの口実だと、人は蔑み。
可愛らしい言い訳ねと姉は私を可愛がるから。



Chara

アヤハ

アリスと呼ばれる少女。
水に対して拒否反応を起こしているが人前では平然を装う。

【あの時私は何を血迷っていたのだろう。
大好きな姉に手を惹かれてボートにでも乗りましょうと言われて浮かれていたのかもしれない。湖なんて見るだけでも吐き気をもよおしそうな所なのに。
「大変、オールがないわ。ちょっと待っていてねアヤハ。先に乗ってはダメよ?」
そう言って姉がふわりとしたドレスを翻し、館へ戻っていく。
一人でなど決して乗るものかと先ほどまで近づいていた湖から距離を置く。
『アリス』
水がぱしゃんとはねる音にどきりと身体をびくつかせる。
一瞬、人の声のように聞こえたその音は魚が跳ねた音のようだった。
後ろを振り返って湖を見れば、虹色に輝く魚がとびはねていた。
『アリス、アリス』
魚は身を捩らせながら尾鰭を必死に動かしてぱしゃんぱしゃんと飛び跳ねる。
そして私はいつのまにかその魚に目を奪われ、気づけばあと一歩で湖に落ちるところまで来ていた。
「っ!」
『怖がらないでアリス』
空耳だと思っていた声がより鮮明に耳にその音を残していく。
『湖の中をのぞいてごらん』
ひどく懐かしいその声に惹かれて私は湖を覗き込む。今思えばなんとバカなことをしたのだろう。
『ほら、見てごらん。可愛い可愛い顔が見えるだろう』
「何も見えないわ。可愛げのない私の顔だけ」
『そう可愛い可愛いアリスの顔だよ』
あの虹色の魚はどこへ消えたのか、さっきまでぱしゃんと飛び跳ねていた音は急に途絶えてしいんと静まりかえる。
「私はアリスではないわ」
『キミはアリスさ』
「私は可愛くないわ」
『そうキミは可愛くない----ほら見せておくれよ。キミノオクニネムルカオヲ』
「ひっ!」
突然透明だった水は黒く濁り、渦を巻いて私はそのまま頭から湖へと転落していった。】


アヤハの姉&水の女王 シオン
 
(アヤハの姉)
聡明で穏やかな女性。アリスを何より可愛がっている。
可愛らしいものが大好きでメルヘンチック。

「アヤハ、水はとても神聖なものなのよ」
姉は何度もそう言った。
まるで信仰宗教のように。何度も何度も。
「命はすべからく水で出来ているわ。聖水とはよく言ったものね」
湖にそっと手を浸しながら姉は綺麗ねと笑う。
けれど私はどんなものよりも姉の笑顔が綺麗だと思った。



(水の女王)
アヤハの姉と容姿がそっくり。
アリス(アヤハ)に触れようとするとその部分から泡へと変わってしまう。
アリスが奥の世界に導かれることのないように番人をつとめている。
アリスが水を嫌うように仕向けた張本人。

「アリス!この奥に進んではダメ!あなたの知る必要のないことよ!」
彼女がそう叫んだ瞬間に水の壁がたちのぼり、私は身体を震え上がらせた。
何本にもなるその壁は勢いよく天までのぼり、進行を防ぐ。
「お願いよアリス…」
水の壁の向こうで彼女は涙を流して訴えかける。
「でも私は行くと決めたの」
震えよ止まれ。こんなものただの水しぶきじゃないか。
そして私はその壁に身をぶつけて進む。はりつく水が気持ち悪い。
けれど、彼女は先ほどこう言った。“この奥にはあなたの真実がある”と。
私自身が私の真実を知らないでいることは正しいのかどうか。
そんなこと分からないけれど、知りたいと望むなら進めとイソギンチャクは言っていた。
立ち向かえる勇気があるのならいけばいいとイルカはそう言っていた。
ばしゃばしゃと激しくふりかかる水を振り切って私は女王の横を通り過ぎた。
彼女は絶望に満ちた瞳で手を伸ばし、私の肩に触れた瞬間、彼女の手は泡となった。
触れた肩の水はなぜかとても暖かい感じがした。
「ごめんなさい、私は行くね」

「ああ…愛しいアリス。この身はあなたに触れることもできない。
けれど私の使いはあなたを止めることが出来る。おゆきお前たち。アリスが深開部に辿り着く前に…おゆき」



チソラ

物知りイソギンチャクの擬人化。姿は小さく小人程度。
アリスの肩に乗るのが大好き。
水の国のことを色々知っているが答えは必ず教えてくれない。

「ゆらゆらと揺らめくこの世界は全てゆらゆらゆがんでいるのさ」
「どういうこと?」
「綺麗なものをそのまま信じ込んではダメだよアリス。綺麗だからこそ穢れているものもある」
そういうと、彼は頭についた触手を伸ばして小さなオキアミを掴み、口へと運ぶ。
「知りたいと望むなら進みなさいアリス」
「何を知りたいと私が望むの?」
「それは君にしか分からないよアリス。他人の思考を読むことは僕には出来ない。自分の思考すら読めないものもいる世界でそのような質問はナンセンスさ」
そうして彼は深い深い蒼に飲まれていく。ゆらゆらと彼の姿がゆらめきながらゆっくりと消えていく。
「待ってよ。私はどこに行けばいいの」
「進めばいい。知りたいなら。深くまで」













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