とうとう、今夜、するのかな。彼女は二人がけのソファに腰を沈めながら、この上なく緊張していた。こんなに緊張しているのは高校入試の時か、初めてネイバーと戦った時か、はたまたそれらも優に超えるぐらいかもしれない。
 もともと、予定が一日空いていたふたりは、太刀川の部屋で会う約束をしていた。誘ってきたのは太刀川からだ。毎回、デートの行先は、彼女が行きたいところをリクエストするのがふたりの通例だが、今回は珍しく太刀川の方からリクエストがあった。『日曜も夜まで予定ないからお前泊まってけよ』思わず、その時飲んでいたバナナジュースを盛大に吹き出しそうになった。泊まりって……泊まり!?付き合ってから初めての泊まりデートに誘われたのだ。頭の中が大混乱する彼女を他所に、太刀川は涼しい顔でタブレットでYouTubeを観ていた。そんなことがあったのは、三日前。
 この三日間、あらゆるサイトを行き来して情報を入手し、徹底的に事前準備を行った。放課後にデパートに直行して、貧相な胸が少しでも華やぐように、いつもは買わないワコールで高めのブラジャーを入手したり、ボディスクラブで入念に毛穴を広げて体じゅうのムダ毛をすべて刈り取った。彼氏の家に泊まる時に注意すること、といったネット記事も、単語のひとつひとつを暗記するかのごとく熟読した。疎かになりがちな足の爪だって揃えたし、完璧だ。今の自分は完全に武装された体である。自分にとって初めてとなる、セックスの準備と意気込みは万端だ。
「風呂、湧いてるから先入ってこいよ」
 ソファの上でガチガチに固まる彼女に、浴室から出てきた太刀川が声をかけた。
「い、いただきます……」
「なんだそれ。なんかよそよそしいな?」
 彼女の不自然な挙動に、太刀川は面白そうに笑いをこぼした。されどもそれに反応する余裕は無い。体を強ばらせながら、不安げな足取りで浴室まで向かった。しばらくして、シャワーの水がタイルを弾く音が鳴る。太刀川はさっきまで彼女が座っていたソファに深深と腰を下ろし、テレビのチャンネルを回した。ろくに興味の引かれる番組は無かったが、消去法で、犬と猫の映像がひたすら流れるバラエティ番組を選んだ。
 太刀川が気の抜けた顔でテレビを観始め、二十分あまりが経過した頃、浴室の扉が開き、髪を滴らせたルームウェア姿の彼女が出てきた。ちなみに、このショートパンツに前ファスナーの着いたパーカーがセットになったルームウェアも、この日のために新調したばかりのものである。
「あの、お先にいただきました」
「おー。ドライヤーそこにあるから」
 太刀川がそこ、と指さしたベット脇のコンセントに、ドライヤーが繋がれていた。彼女がスイッチを稼働させると、ナマエと入れ替わるようにして太刀川が浴室に消えていった。ドライヤーの温かい風を肌に受けながら、悶々とこの先のことを考える。壁に掛けられた時計では、時刻は二十時を過ぎたばかりだった。寝るにしては早すぎる。けれど、さっきふたりで夜ご飯を食べたばかりだし、何をして時間を潰せばいいのだろう?私はお酒飲めないし……。そもそも、世のカップルたちは何時からセックスを始めているんだ?漠然とした疑問が彼女の頭の中を駆け巡っていた。
 彼女は眉間に皺を寄せ、悩める表情を浮かべながらひたすらドライヤーをかけていた。太刀川が風呂からあがってくるまでに、こっそりと調べてみようかとも考えたが、インターネットでピンポイントで彼女の欲しがる的確な解答が出てくることも考えづらく、諦めた。髪を乾かし終えたら、無心で犬と猫の映像を眺めながら、太刀川を待つ。
「トリートメントどれだか分かったか?」
「棚にあるのを勝手に使いました」
 薄い紺色のステテコに、英字がプリントされたTシャツを着た太刀川が部屋に戻ってきた。乱雑に髪をボディタオルで拭き取りながら、冷蔵庫の中を見回した。
「おまえから貰ったヨーグルト食べるわ。いる?」
「い……いらないです」
「そ?」
 ついさっき、入念に歯を磨いたばかりだった。思わず頷きそうになったところを慌てて断った。太刀川はそんな彼女の様子には気にせず、濡れた髪のまま、銀のスプーンでナマエが差し入れたフルーツヨーグルトを食べ始めた。
 その後、太刀川とソファで肩を並べ、無益なテレビ番組を見続けていた。途中、太刀川がテレビタレントに向かってツッコミを入れたり、ひとりごとのような感想を呟いたりしていたが、となりの彼女は時間が経過するにつれ、緊張の糸もますます張り詰めていき、テレビの内容も太刀川の言葉の中身も気もそぞろで聞いていた。
 キリがよく、番組が終わった頃だった。太刀川は大きな欠伸を宙に放った。
「なんか眠くなってきたな。そろそろ寝るか」
 いよいよ来た!ごくりと生唾を飲む。ゆったりとした動きで部屋の電気を消し、先にベットに潜った太刀川は、自分のとなりのスペースをぱんぱんと叩いて彼女を呼んだ。彼女は忍び足になりながら、セミダブルのベットに潜り込んだ。
「おやすみ」
 太刀川は愛する恋人の前髪をかきあげて、まるいおでこに口付けをした。軽いリップ音と共に離れていく感触に、彼女は僅かに身をよじらせる。次に来るだろう、彼からの触れ合いに身を固くして待っていた。しかし、一向にそれはやってくる気配は無かった。怪訝に思った彼女が恐る恐る太刀川の顔を確認すると、太刀川は自分の方を向いたまま目を閉じていた。もしかして、寝始めている?
「け、慶さん!」
「……ん?」
 彼女は思わず半身を起こし、太刀川に叫んだ。くぐもった声で返事が帰ってくる。
「どうした」
「あの、その……」
「うん」
「えっと、つまり……やらないんですか?」
「なにを?」
「……その」
 経験も無く、初心な彼女には名称を口にするのもはばかられる。もごもごと口淀みながら、太刀川のTシャツの裾を引っ張った。暗闇の中で、必死に目で訴えてくる彼女の姿に、太刀川はなるほどと合点がいった。
「なんだ、今日抱かれるつもりで来てたのか」
 さらりと、何の恥ずかしげもなく言い遂げる太刀川に彼女は分かりやすく顔を赤くした。太刀川の言うことは正しくその通りなので、否定も逃げも出来ない。彼女はTシャツを掴んだまま、じとりと太刀川を見つめた。
「……する気、ないんですか」
「うーん、無いつもりは無いんだが、今日はやらなくていいかとか考えてた」
「なんで」
「いや、おまえが初めてなのに最初からがっつかないだろ」
 彼女は目を丸くした。太刀川が処女の自分に気を使ってくれてることに驚いた。勝手なイメージだが、彼は割と、そういうことに無遠慮な性格だと思っていた。
 自分を気遣ってくれることは嬉しい。けれど……。今日のこの時間のために、頑張って準備をしてきたんだ。彼に剥かれるために可愛らしい装いをして、彼に喜んでもらうために体の隅々まで綺麗に整えてきたのに。これでは三日間の努力が水の泡である。
「……慶さん」
 彼女は小さく太刀川の名を呼び、訴えた。暗闇に紛れるその声は、寝台の上の生娘が必死に勇気を振り絞っているものだった。いつもとは違う彼女の姿に、太刀川の眠気も途端に覚めていく。
「本当に、やらないんですか」
「……」
「今日のために、私、ちゃんと予習してきました。爪も切ったし、歯も綺麗にしたし 」
「……あー」
「あと、可愛いブラジャーも付けてます」
 ここまで来たらほとんど意地だった。太刀川の手を掴み、自分の胸へ強引に押し付けた。薄いナイロンの生地越しに、太刀川の手が初めて微かな胸の膨らみに触れる。自分の激しくなる鼓動も、この厚い手のひらに太刀川へ伝わりそうだった。
 確か、こういう状況のことを表す的確な言葉があった。太刀川は上体を起こしながら、先日の記憶を思い返していた。この前、諏訪さんが宴の席で自分の恋愛話をしていたときに、横で聞いていた東さんがそのようなワードを口にしていた気がする。スエゼンだかシチズンだかを食わないといけないとか言っていた。
 太刀川は彼女の名前を低く囁いて、空いている方の手のひらをナマエの顔のふちに添えた。暗がりの中でも、彼女の瞳は透き通るほど煌めいている。瞳の中に扇情的な顔色で、目の前の獲物を見つめる雄の姿を映していた。食いしばるように固く閉ざされた口元を解すように、自分の唇を重ねた。
「ん、むっ……」
 太刀川の分厚い舌が彼女の小さな口内をこじ開け、蹂躙する。舌先は歯列を潜りぬけ、柔く弱々しいナマエの舌を捕まえる。舌尖を彼女の舌根に絡ませ、毛糸玉を転がすようにてろてろと纏わりつかせた。彼女の口から苦しげな吐息が篭もれる。
 太刀川はキスを続けながら、彼女の肩を掴み、ゆっくりとベットのシーツの上に押し倒した。彼女に握られた手を解き、スウェットのファスナーに指をかける。ちゃちなプラスチックのストラップを下げれば、熟れた桃の皮を剥くようにみるみると彼女の柔肌があらわになった。エロくて便利な服だなと、太刀川は感心していた。彼女がわざわざこの時のために仕入れた武装は、太刀川の気に召したようだ。
 彼女は挙動不審に目を泳がせながら、自分の頭のそばにあるシーツを怖々と掴んだ。部屋の中は暗いが、真剣な眼差しで自分の体を見下ろす太刀川の顔はくっきりと分かった。ブラジャーの隙間から指を差し込まれる。初めて自分の胸に触れ合う別の体温の感触に、気がおかしくなりそうだった。
「おまえ、こういう趣味なのか」
「……慶さんが好きそうなの、選んだだけです」
「まじか」
 彼女の胸は、黒地のシックなデザインで縁取られたブラジャーに包まれている。太刀川の手によって、胸の先が擦られる度、体をびくつかせるため、谷間に飾られたビーズのチャームも震えていた。あどけない恋人の顔の下に、こんな色香を漂わすようなセクシーな下着が埋め込まれているとは。この胸には非常に気分をそそられる。これはギャップ萌えというやつだろうか。自分のために選んだという彼女の申告も、太刀川の気分を高揚させた。簡単に外してしまうのは、もったいない気がする。
 太刀川はブラジャーの肩の紐をずり下げ、中身の乳房を剥き出した。仰向けに小さな膨らみがふたつ、先を尖らせて佇んでいる。
「んっ……あっ」
 太刀川の親指と人差し指が、両胸の先端を擦り合わせた。固い指の腹が敏感な部位に擦られる度、彼女の中をぞわぞわとした感覚が流れ出す。強く指の圧で押し込まれたり、わざとらしく人差し指の先で弾かれたり、太刀川は彼女の表情を確認しながら指の動きを変えた。
 彼女の体の緊張も、適度に解れてきたのが分かると、太刀川は左の胸先に顔を埋めた。太刀川の顎の髭が皮膚に触れ、擽ったさを覚える。すると、太刀川は、先程口内を荒らしていた舌先で、胸の尖りを弾いた。彼女の口から、声にならない声が零れ落ちる。太刀川は口を開き、小ぶりな左胸を食みながら、舌を上下に動かした。右胸は変わらず、指先ですり潰している。
 顔の向きを変え、口を窄めて乳首に軽く吸い付いた。何度かバードキスを落としていると、太刀川の歯の先がナマエの穂先に引っかかり、彼女の口から「ひゃっ」と甲高い声が出た。なるほど、こいつは噛まれるのが好きなのか。太刀川は愛撫をしていた右胸に顔を沈めて、前歯の上下で先を挟み込んだ。甘く噛まれる度、彼女は必死にいやいやと首を振ったが、目に涙を浮かべて抵抗する姿は、かえって男の欲情を煽ぐだけなのである。
 するりと、太刀川の手が彼女の白い内腿を撫で上げた。水面に落ちた花びらを掬うような、丁寧な手の動きに、自分の恋人の新たな一面を知る。こんな風に優しく太刀川に触れられたのは、初めてだった。
 ショートパンツと足の隙間から、太刀川の手が忍び込む。ショーツの谷間を縫うように、つうっと中指が上へ走った。恐らく汗ばみでは無い、じんわりと湿った感触に太刀川は喉を鳴らした。ショートパンツに手をかけ、するすると彼女の足から剥ぎ取った。上の下着と揃いのデザインのショーツを眺める。
「おまえ感度いいじゃん。すげえ濡れてる」
 太刀川は愉しそうに、ショーツ越しに指を陰核に添わせた。中指の爪先でカリカリと削るように擦られ、彼女の体に甘い電流が走る。
「ひっ……ゃ、それ、やめて」
「抱かれに来たんだろ?ちゃんと頑張れ」
 ぼんやりとする頭の中で、まるで稽古をつける師範代のような口ぶりだと、彼女は思った。初めから想定していたことだが、自分は太刀川の好きなままに弄ばれ続けている。
 太刀川は、彼女の腰を浮かし、ショーツを脱がせた。いよいよ真っ裸にされた彼女は、羞恥のあまり顔から火が出そうな思いだった。
「あまり、見ないでください」
「いや無理だろ」
「うぅ……慶さんも脱いでほしい」
 そう懇願すると、太刀川はそれもそうかと頷き、自分のTシャツとステテコを脱ぎ出し、ボクサーパンツ一枚となった。太刀川の逞しく鍛えられた肉体が露出され、思わず凝視してしまう。呆然と太刀川を見上げる彼女に、太刀川は笑い声を立てた。
「おまえな、見すぎ」
 そのまま、彼女の太ももを掴みあげ、股の合間に顔を近づける。彼女は思わずベットの上で跳ね上がった。
「だめ!やだ、汚いから」
「あ、おい暴れるな」
「む、無理……」
「大丈夫、大丈夫」
 大丈夫なもんか!彼女は釣り上げられた魚のように体を反り返して抵抗するが、太刀川の腕の力によって強引に開脚させられた。太刀川が自分の股の間に、吐息がかかる距離に顔を近づけて、ナマエは今すぐ舌を噛みきってしまいたくなった。恥ずかしすぎて、死んじゃいたい。見られていると分かると、殊更に体の奥がじんと熱くなって、彼処がひくひくと疼いてくる。口では嫌がってるが……という在り来りな低俗雑誌の煽り文句が、太刀川の脳裏に浮かぶ。恋人のマゾヒズムな一面を発掘してしまった。元より、恋人の余裕のない顔が大好きな太刀川には、ただのご褒美である。
 彼女の割れ目はみっちりと周りの肉で覆われていた。先程、ショーツ越しに擦ったからか、薄らと陰核が剥き出されている。自身のものを挿れるには、阻んでいる肉壁を割り広げ、徐々に拓いていかないといけない。太刀川は舌先で花芽を押し広げ、唾液で周りを濡らした。
「ひぃやっ」
 ビクン、と彼女の腰が跳ねる。太刀川は気にせずそのまま舌の動きを続けた。自分で弄ることも覚えていない処女なため、未開通の入口は舌を差し込んでも跳ね返される。たっぷりと濡らして、浅いところから解していく。
「け、いさっ……あっ」
 彼女の瞳の中に涙が浮かぶ。得体の知れない、未知の感覚に体が支配されていた。クチュクチュと、聞きなれない水音がナマエの鼓膜をくすぐり、さらに彼女の羞恥心を煽った。
 彼女の性感帯は、太刀川の舌によって広げられていた。中々、いい塩梅になってきたんじゃないか?太刀川は右手を太ももから離し、軽く折り曲げた中指を彼女の中にゆっくりと沈めた。吸い出した陰核を舐め上げながら、中の薄い裏側を指で弄る。
「やっ、それ、やだぁ」
「やだじゃないだろ」
 きゅうきゅうと太刀川の指を締め付けながら、彼女は必死にシーツの波をかき寄せた。口からは意味の通じない喘ぎ声がだだ漏れる。唾液と愛液でぐしょぐしょになったそこに、太刀川はもう一本の指を挿入した。二本の指が腟内を掻き回す。指を締め付ける度に、彼女の白い下腹もつられて振動していた。
「はぁっ……あっ……」
 まだ中は狭いが、指はすんなりと抜き差し出来るようになってきた。指の関節を伸ばせば、子宮口にも届く。
「………──」
 太刀川が静かに名前を呼ぶ。黒い瞳が暗闇の中でもギラギラと光っていた。彼女は息も絶え絶えになりながら、獣の情欲に濡れた太刀川の顔を見つめていた。
「なあ、挿れていいか?」
「……聞かないでくださいよ」
「ちょっとオネダリしてみろ」
「ぜったい、ヤです」
 なけなしの尊厳を死守すべく、髪を乱し真っ赤な顔で噛み付いてくる彼女が、太刀川にはひたすら可愛く映っていた。昼間の、何も知らない純朴な少女の彼女も愛らしいが、自分の手によって乱され、綺麗に顔を歪める彼女の姿は他のものには替えがたい。自分だけが知れる、唯一のものだ。先程から、ボクサーパンツを押し上げて主張している自分の芯が、より固く膨張していくのが分かった。彼女だけでなく、太刀川だって限界だ。
 太刀川はベットの壁際に掛けられたラックのボックスの中から、黒い箱を取り出した。思わず目を丸くする。こんな場所に隠されていたなんて。太刀川は小包の封を切り、ボクサーパンツを脱ぎ捨てて、自身のそこに宛がった。彼女は何かの実験観察をするように、じっくりとその光景を見つめていた。何もかもが、初めて見る光景である。
「痛かったらちゃんと言えよ」
 もし痛いと言ったら、辞めてくれるのだろうか?でも、辞めてほしくない。彼女はキュッと目をつぶった。破瓜の痛みは誰だって怖い。それよりも、自分のせいで太刀川が気持ちよくなってくれないことの方が怖かった。
「いっ……ぅ、あっ……」
 ずしりと、強烈な圧力が腟内にかかる。自分の股が破り裂けてしまいそうな痛みに襲われた。下腹部が圧迫され、彼女の体が弓なりに反られていく。自分の歯を食いしばって、苦悶の表情で耐え抜く彼女に、太刀川は優しく口付けた。舌を絡ませ、うまく脱力出来るように、甘い口付けを重ねていく。汗ばむ額から前髪を払い除ければ、彼女の表情もゆっくりと和らいでいった。中のきつい締めつけも、少しの可動域を許すぐらいの余裕が生まれてくる。太刀川はゆっくりと腰を押し付けた。
「あっ、まって……ま、まだ、うごかない、で」
「動かないと一生終わらないぞ」
「ゃだ……まだ、むりっ……」
 腰を捕まれ、がくがくと揺さぶられる律動に、体の芯まで打ち付けられる。肉と肉がぶつかる乾いた音と、繋がった箇所から溢れ出す水音が、厭らしく部屋の中に響いた。彼女には、もうそんなものに構っていられる余裕はない。ひたすら自分の中を犯してくる太刀川の熱で、体じゅうに電極を付けられたように痺れが走っていた。痛みによる苦しさと、繋がれたことの多幸感と、熱にうなされたような不思議な感覚が、彼女を包み込んだ。蕩けた顔で喘ぐ恋人の目元に、太刀川は優しくキスをする。
 抽挿の動きが段々と激しくなる。子宮口の入口に遠慮なく亀頭が打ち続けられる。太刀川が彼女の片足を上に持ち上げ、壁をなぞるように、最奥をぐりぐりと押し付けると、彼女は目を見開いた。言葉にはならず、吐息だけが口から這い出でる。体が震え、シーツを手繰り寄せる手にも、力は入らない。けれど、腟内は強く太刀川にまとわりついていた。熱く、太刀川を掴んで離さない彼女の体に、太刀川も苦しげな息を漏らした。自分の血脈がどくどくと走り出しているのが分かる。
「けい、さん……すき、だいすきっ……んあっ……」
「……おまえ、今煽るな」
「んんむっ」
 無理だ、もう出る。乱雑に手のひらで彼女の口を塞いだが、太刀川は限界を感じていた。すぐそこまでにせせり上がってくる。
「んんんっ……ぁあっ」
 太刀川が思いっきり中を突き上げた。彼女の体はピアノ線のように、末端まで強ばった張りを見せた。どくどくと、委縮する膣の中で鼓動が走る感覚が伝わる。太刀川は眉間に皺を寄せ、大きく息を吐いていた。薄いゴム越しに伝わる熱さに、彼女はこれで終わったんだと、理解した。
「はぁ……おい、大丈夫か?」
「……はい」
 汗ばむ顔で息を荒くする彼女の頬を、太刀川は優しく撫でた。ぼんやりとしながらも、ちゃんと太刀川を見つめ返す彼女に、心の中で安堵する。途中からは自分の余裕も無くなり、激しくしてしまったことは、若干反省している。
「慶さん、嬉しいです」
 彼女は小さく笑いながら、自分の頬に添えられた太刀川の手に擦り寄った。流石に、一時は痛みと苦しさでもう続けてられないとも思ったが、無事に最後までやり遂げたことに安心した。
 達成感と喜びで顔をほころばせる彼女に、太刀川はピシャリと何かに打たれたような感覚を覚えた。こんな可愛い生き物が、存在してていいのかよ?出し切ったばかりのあれが、また固さを帯びてくるのを感じた。もう一回、誘ったら怒られるか?

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