小ネタ
2015/07/18 19:42

あの女には怒りを通り越してほとほと呆れる。
学園のマドンナだかなんだか知らないが、あまりにも癪に触る女だった。
周りの女たちはあんなに騒いでいたのにその女が来ると逃げるように散っていく。
そしてそいつは俺にベタベタと張り付いてくるのだ。
顔見知りからは羨ましいと言われっぱなし。
それにもそろそろイライラしてきている。
付き合えば美男美女ですごく釣り合う、なんて言われることも頻繁だった。


「ねぇ、サスケ。お弁当美味しい?」


隣に図々しくも座る女が鬱陶しい。
そして、こちらを見てくるギャラリーも。
女はまるで自分が弁当を作ったかのように、振る舞う。
この弁当は、サクラが作ったものなのに。
サクラとだって付き合っている訳じゃなかった。
家が近くてたまたま知り合って、色々あって毎日弁当作ってくれることになって。
毎朝家まで弁当を届けてくれる。
俺が好きなのはサクラの方。


「今日も一緒に帰ろうね」

「断る」


なんでも断って、あからさまに嫌がってるのに離れていかないのが日々のストレス。
帰り道だって勝手についてくる。
そろそろ殴ってやりたくなってきた。
せっかくの昼休みも休むことが出来ない。


「ねぇ、朝にお弁当届けてる女、誰?」


さっきまでわざとらしく周りに聞かせるような声で話してた女が、突然声を低くした。


「お前には関係ない。まず、何で俺の家知ってる。気持ち悪ぃ」

「彼女なんだから知ってて当たり前でしょ」

「彼女にしたつもりはない」

「サスケはほんと素直じゃないわね。私のこと好きでたまらないくせに」

「お前みたいな性格ブスの自信過剰女なんか誰が好きになるかよ」

「で、あの女は誰?」


あまりにしつこい。
手を出していない自分を誉めてやりたかった。
サクラの美味しい手作り弁当が不味くなっていく気がする。
腸が煮えくり返ってきて俺は弁当をたたんで、別のところへ移動しようと思い立ち上がった。
こいつのいない場所へいきたい。


「サスケくん!」


聞こえないはずの声に振り返る。
でも教室にその姿はなくて、そりゃそうかと嘆息した。


「サスケくーん!」


今度ははっきり聞こえたその声に、慌てて窓から身を乗り出す。
おぉーい!と大きく手をふった桃髪の笑顔。
なんで、と言う前に、彼女が手に持っている箸を見て、あぁ。と思った。
確かに今日の弁当箱には箸がなかった。食堂から割り箸とってきたけど。
急いで階段をかけ降りて、彼女のもとへ走る。


「サクラ」

「ごめんねぇ。私のお弁当にお箸二つ入ってたの」

「これだけのために来たのか」

「え?お箸ないとご飯食べられないでしょ?重大だよ」


きょとんとするサクラ。
こんな小さなことで学校からわざわざこちらまで走ってくる辺り、律儀で本当にかわいいと思う。
こめかみから流れている汗を拭き取って、髪を手櫛でなおし、照れ臭そうに笑う姿も全部好み。

ひらめく。ちょうどいいと思った。
こんな可愛い女を、野郎が放っておくはずがない。


「サクラ。じっとしてろよ」


返事を待つ前にぎゅっと強く抱き締める。
それこそ、周りのやつらに見える角度で。
サクラの体が熱くなるのがわかる。
触れたついでにとばかりに唇も奪う。
箸を落としそうになっている手をつかんで、少し、体重をかけるように。
薄く目を開けると、強く目をつむって真っ赤にしている顔がある。可愛い。ほんと可愛い。


「好きだよ、サクラ」

「……な、」

「箸、ありがとうな」


俺はそういって踵を返した。
これであの女もよってこなくなるかな。
サクラにも告白したかったしちょうどいい。
弁当を作って毎朝可愛い笑顔をむけてくれるあたり、サクラだって俺のことが好きだと思っていた。
キスしても抵抗がなかったし、確信のようなものにかわる。
恥ずかしくなってこのまま走って学校まで帰ったあと、明日どんな顔して弁当届けてくれんのかなとか心のなかでニヤニヤしながら考える。


「サスケくん!」


……あれ?
俺の予定では、サクラはこのあと走って学校まで帰る、はずだった。のに。


「私だって好きだよしゃんなろーーー!!!」


全生徒に聞こえるくらいに大声で言うもんだから。
俺の方が赤くなって教室まで逃げた。
予想外。どこまでも。


さすが、俺の惚れた女だ。








明日、どんな顔して弁当受け取ろう。


END



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