(どうも、初めまして) 初めて会った時はそう、眉を八の字に下げて笑うのが特徴的だった。だから、彼の第一印象はよく笑う人なんだとその時、思ったのだ。私も人よりは笑う方だから彼の笑みにつられて口元が緩んでしまったのを覚えている。彼が挨拶と共に差し出された右手の大きさは、すごく大きくて繊細で少し躊躇しながら握手をした。 (お前が好きなんだ) 初めて告白されたのもそう、柄にもなく耳まで真っ赤にさせて私を好きだと言ってくれるカカシを愛おしいと思った。二人の間には夏風が吹き、彼の銀髪が揺れて蝉時雨の声が降り注ぐ。私達は初めて手を繋ぎながら歩いた。その手は汗を掻いていて、暑い所為なのか緊張の所為なのかよく分からなかった。だから、ごまかすように私の温かい手もおあいこだって茶化したんだ。 (結婚でもしようか) 初めてプロポーズをされたのもそう、朱が差した紅葉を栞にして本に挟みながらカカシがポケットから小さな白い箱を取り出した。その箱はカカシの手で開けられ、中には煌めく宝石が埋め込んである指輪が現れた。私はその時、それを幸せの塊だと思ったんだ。カカシの手によりそれが私の薬指にはめられた瞬間、カカシの手と共に世の中が素晴らしく思えたのだ。 や さ し い て の ひ ら 「誕生日おめでとう」 テーブルの上に並べられた俺の好物は勿論彼女が作った料理達。幾年もの季節が過ぎた彼女の腹には今、小さな命が宿っている。少し膨らみかけた腹を見ると幸せな音が鳴った気がした。ソファに座りながら腹をゆっくりさする彼女の手と自分の手を重ねると、柔らかく笑った彼女の指は出会った頃よりも少しだけ皺が出来ていた。しかし、今も昔も変わらないのは温かい俺達のてのひらだった。 「幸せだなあ」 「うん、幸せだね」 そう嬉しそうに俺の放った言葉を一生懸命に答える君が愛おしいんだ。握手で始まり、憧れだったその手は指を絡めて歩く。更に欲張りな俺は指輪を彼女の薬指にはめて、今はこの手で小さな命の尊さを感じている。そうだ、全ての始まりはこの手から始まったんだ。俺と彼女の繋がりは慈愛に溢れた温かい手だった。 重ねた手を握りしめて思い出に酔いしれながらそっと目を瞑った。 |