俺は優しいねと言われるのが嫌だ。かといって優しくないねと言われるのも嫌だが、優しいと言われるよりはマシだった。以前、優しさという言葉を辞書で引いた事がある。優しさというのは親切で情が深いとそこには記してあった。それはまるっきり嘘だと思う。その答えが物足りない俺は、次に親切という言葉を辞書で引いてみた。すると、親切とは相手の身になって尽くすことらしい。全く持って腹立たしい。
情が深いでもなく、相手の身になるのでもなく、薄っぺらい自分が優しいだなんて言われるのが違和感である。さらにそれを口にする奴らもそれを受け止めて考えに耽る自分も嫌悪感があり、気持ちが悪い。


「カカシって優しいよね」


ほら、まただ。目の前の彼女は緩やかに笑いながら残酷な言葉を口にする。俺の何を知ってそんな言葉を発する?他人なんて興味も情も湧かない俺が優しい?ああ、笑ってしまう。


「なんで笑うの?」


訝しげに問う彼女を見て更に笑いがくつくつと込み上げた。先程よりも笑い声を荒げる俺に彼女の眉間には悩ましげに皺が刻まれている。


「なにがおかしいの?」
「ああ、おかしいよ。何もかもが」


余りにも矛盾ばかりでおかしい。間違ってる。

「だったら聞くけど、俺のどこが優しい?どこが情に深い?本当は薄っぺらい人間なんだ。嫌われたくないから愛想振りまいてるだけ、ただそれだけなんだよ」

あーあ、全て吐き出してしまった。悔恨、という文字が頭によぎったが同時に胸の淀みも消えてゆく気がした。
これで彼女も優しいだなんて決して容易く口にしないだろう。しかし、そんな甘い予想を彼女は糸も簡単に覆してしまった。


「でも、カカシはやっぱり優しいよ」


もう、うんざりだ。聞きたくない。呪縛のような言葉を発する彼女を本当は突き飛ばしてやりたかった。それが出来ないのは自分が心底臆病者だからだろう。無意識に両耳を塞ごうとした俺の手には温かいもので包まれた感触が伝わった。


「じゃあ、カカシはなんでそんなに悲しそうな瞳をするの?」


なぜ、涙を流しそうなの?そう問いかけた彼女の顔がすぐ近くにある。彼女の瞳に映るのは紛れもなく自分であるはずなのに、そこには陰気で鬱蒼とした男が瞳の中にいた。


「本当はそれが優しさなの。人を傷付けたくない思いやり、嘘を吐いて笑顔で隠す我慢も全て」


(綺麗事を並べるな)


喉に突っかえた言葉を吐き出せないのも優しさだと言える?意固地になった俺の心は鉄よりも固くて重い。しかし、彼女の温もりや表情、瞳を見つめていると黒い塊を溶かして蒸発するよう。

俺を強く抱きしめる彼女は本当の優しさを教えてくれた。


メルト、メルト、メルト、メルト、(このまま溶けてしまいたい、)



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