生きてる世界には果てがある。そしていつかは消えるであろう、この肉体も精神も、私自身までもが。きっと、私なんか最初からいなかったみたいに世界は変わらず、前に進むのだ。


ねぇ、大好きだったあの曲のフレーズが思い出せないよ


あんなにもレコードが擦り切れるほどに聴いたのに。いつだってこの曲のような温かい恋人同士になれたらいいね、なんて二人で夢見ていたのに。なんで思い出せないのだろう。


ねぇ、あなたから貰ったシルバーリングがくすんでしまったよ


貴方に指輪をはめてもらった時には目が痛くなるくらいにキラキラ輝いていたのに。あの頃よりも少しだけ皺が増えた左手の指輪には少しだけ濁りを帯びていて、同じくらい寂しくなった。


始まりがあれば、終わりがある。幸せなことも不幸せなこともそれは同じ。いつかは擦り切れたレコードのように、錆びた指輪のように、消えてなくなるのだろう。




でもね、大好きだったあの曲のフレーズは思い出せなくてもいいと思ったの


だって、二人で聴いていた事実は変わらないもの。あの時、肌を包む柔らかい春風と共にこの曲と同じ風景を過ごせたから。擦り切れたレコードの表紙を見る度にこの曲の恋人同士のあり方を優しく語るあなたを思い出せるから別にいい。


あなたから貰ったシルバーリングがくすんでしまってもいいと思ったの。


だって、それはあなたと一緒にいられた証だから。灼けた指輪の跡を握りしめれば、幸せな気持ちになれる。錆びた年月分ほどに大切な日々だったから、忘れないようにと薬指にはめ続けるよ。



オーロラになった



俺と過ごした日々は宝物だった

聞き慣れた優しい声色で言葉を発する彼女はいつものように口元を緩ませた。冷たくなりかけている彼女の左手の薬指には俺がはめた指輪。
ああ、いつの間にか俺達は年を取ったんだね。
より一層、強く握りしめた手には俺と同じほどの皺ができていた。


カカシ、ありがとう。


その言葉を残して、彼女は、目を、伏せた。ううん、俺こそ、たくさんの思い出をありがとう。


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