「本人がどうであれ君が当選したのは事実だ。なったからには一年やり抜く。それが基本だ」
「分かってますよ。やればいいんでしょ、やれば」
かなり投げやりな返事だが、実際投げやりだった。僕は生徒会長になった覚えは微かにないこともないが、時空を行き来するトンデモ人間になった覚えはないぞ。
「……まあいい。やっていく内にやり甲斐も出てくるだろう。それから親衛隊の扱いについてだが」
そう、また聞きたくない単語が会長さんから発せられた。
親衛隊って……。
そんなものが存在するの? 男子校に?
「普通にしていれば害はない。そればかりでなく時として利用できることもあるだろう。多少ぶっきらぼうに扱っても芯のある者はついてくる」
「あー、へえー……」
真雪さんについていけない生徒は多くいそうだが、好んで地獄の果てまでお供しませう、という熱狂的なファンもいそうなイメージではある。
でもねえ……、真雪さんについていった方々が、全然違うタイプの僕にお供してくれるとは思わない。
「親衛隊って何人くらいいるんですか?」
「それぞれだ。俺は把握していない。人数についてはあまり興味がないんでな。毎年この時期に大掛かりな人員編成が起こる」
そんなものがあったのか。僕も全く興味ナッシングだ。
「もう新生徒会の親衛隊も作られた」
「もう作られてんの!?」
「……別におかしな話ではないが」
充分おかしい。この僕に、親衛隊??
一体何を守ってくれるっていうんだ。そもそも僕は人望を集めるような性格していないと自分で自覚済みだ。
「近々隊長が挨拶に来るはずだ。逃げるなよ」
「ええー……」
まともな人なら時間を割くのもいいけど──何ともいえないな。
生徒会その他もろもろ親衛隊になど今まで興味皆無だった僕は、どんな基準でどんな人物がその隊長に選考されるのか全く知らない。
だいたい僕の人となりを知らないのにどうして親衛隊に入れるんだ。
その時点で嫌な予感しかしない。
「親衛隊って…つまりその、僕自身を慕っている人で結成するやつですよね?」
「慕うかどうかは関係ない気もするが…大体は顔じゃないのか」
なるほどね。何となくわかった気がするぞ。
僕の人となりを詳しく「知らないからこそ」親衛隊なんかに入れるってわけだ。
えっと、つまり性格で見られるよりは顔で見られるほうが人が集まる…?
「やっぱ納得できない…」
一瞬分かりかけたけど、壁掛けの無駄に装飾づいた鏡を見て改めた。
この童顔じゃ似たり寄ったりに決まってんだろ。成海ならともかく。
ちなみに僕は成海の顔の良さについてはちゃんと認めてる。
「君がどう思おうが親衛隊は既に出来ている。そして隊長を決める権限は君にはない。だが親衛隊をどう扱うかは君の自由だ」
会長さんは扱うっていうか利用するって感じが前面に出ちゃってますけどね。
まあ僕もしばらく様子見でどうしていくか決めていこう。
まずはそのシンエータイタイチョウさんが僕の前にやって来なきゃどうしようもない。
「他にも言いたいことはいろいろあるが、あんまり話し過ぎてもその様子では疲労が蓄積するだけだからここまでにしておく」
少し馬鹿にされてる感が否めないが会長さんなりの気遣いなんだろうか、ようやくひと段落ついた話。
「ここで話したことはもちろん他言無用だ。もし話したら…」
「顔面変形ですよね」
「多分それよりも数十倍は酷いな」
それはもう息の根を止められるくらいだ。
「大丈夫ですよ、話しませんって」
特にタイムトラベルの話なんか、口に出したからには憐れむような眼で見られることが予想付くからな。
もしかしたらすっと無言で飴を差し出されるかもしれない。
想像するだけで寒気が吹き抜けた。おおお。
会長さんが開けてくれたドアを抜け、そそくさと生徒会から出る。
ようやく荘厳なる雰囲気から解放された。
空気MAJIDEおいしい。
「今日のうちに顧問へ挨拶をすませておくんだな」
と、空気淀んだ空間から会長の声。
「こもんって、誰ですか」
「光男」
「……」
……今フツーに呼び捨てにしたよな、目上の方のお名前。
「みつ、お?」
「ああ間違えた、光先生だ」
なんて棒読みだよ。
……光って、え、本名なんか、じゃあ光男ってなんだ。
「ぴかりんでも可だ」
「可能なんだ!」
出会って早々真雪さんからぴかりんと聞けた!
「音楽科だから音楽室にいるはずだ。いなかったら事務室で呼び出しをかけてもらうといい。マスクをしておくのを勧めるが、持っているか?」
素直に首を横に降る僕。
すると会長は内ポケットからマスクを取り出した。
……用意周到ですね。
「えっと、いつも持ち歩いてんの?」
「いつ奴に会うか知れたものではないからな」
氷点下の会長さんの声。邪気が、邪気が零れてます。抑えて抑えて。
「だ、大丈夫ですか……?」
「安心しろ、マスクは清潔だ」
そういうことじゃないんだけど。
会長さんがそこまで嫌悪するのって、どんな先生だぴかりん。
「ご存命を祈る」
「なんか使い方違う気がするんですけど」
気のせいかな。真雪さんぴかりん嫌いだろ確実に。
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