その会長さんの言葉を機に、執行の奴らはわらわらと部屋から退室していく。
僕もそれにあやかろうと……流れにのっては、みたけど。

「日本語が聞こえなかったのか」

100%を越えるほどの予想的中、会長さんが僕の首ねっこを掴む。

いや、フツーに痛いって、それ。


あっという間に二人きりになってしまった室内。

「……あの、何ですかあ? 僕も皆と一緒に帰りたかったなー……って」

会長さんが訝しげな目で僕をみる。そんな目でみるな。
僕だってどんなキャラだよと思ってるんだから。

「そうしたいのもやまやまだったが、明日以降に俺が会いに行ってもお前は逃げる気がしてな」

なんと人聞きの悪い。

「えー、そんなー……。じゃあ、今も逃げるかもって、お考えにならなかったんですか?」

言うがはやいが、僕は一気に扉へダッシュ。
素早く戸を引…………けない。

「No problem.」

背後から恐ろしいまでの完璧発音の英語が飛んできた。
僕の背中を汗が伝う。
ああ、こういうの冷や汗っていうのかな。

「まったく……そんなに嫌ならどうして立候補などしたんだ」

生徒会室の鍵をチャラリと揺らす会長さん。

……内側からも施錠可能の部屋なんて存在したんだ。

いつの間にかけたんだよ。

ていうかこれ軟禁か?
あ、いや実行犯も中にいるだから全然安心か。
むしろこの人といたら冬山で遭難しても大丈夫な気がする……。



て、なんで立候補したんだ、だって?

こんなんに立候補するやつがどこにいるか!

「川南いたでしょう? あいつが勝手に提出したんですよ、僕の名前」

会長さんに愚痴っても仕方ないけど、誤解は解かなきゃいけない。
たまりませんよという風にため息混じりで僕は説明した。


「ふぅん。そうなのか。まあどうでもいい」

どうでもいいのかよっ!

思わず素でツッコミそうになって俺は出そうとした右手を左手でもって必死に押さえ込む。

仮にも一個上で、しかも天下の会長様だもん。僕は知らなかったけど。

……あれ、仮じゃないか。 
それよかもう会長でもないか。
……ビミョーなラインだね。

「何変なポーズを取ってるんだ。とにかくこれを受け取れ」

前のめりのままの僕を相変わらず怪訝な顔つきで眺めながらも、会長さんは僕に銀の塊をよこしてきた。

それはちょうど今彼が僕の前に振りかざした生徒会室の鍵。

それが会長さんから渡されて。

あ、あれ……。これ脱出可能展開じゃないの。

ああこの人あれだ、
意外と天然ちゃんなんだな。
ギャップ萌えって感じ☆

「言っておくが、これで今俺の話を聞かずに鍵を使ったら一発顔が変形するのをお見舞いすることになるが、それでもよければ今考えてることを実行しろ」

……はいごめんなさいでした調子乗って星マークとか付けちゃって。
この人はあれか、顔変形とかサラリと出来ちゃうんですか。

ハッタリとか言わなさそうだしなあ……。

そう思うと急に服の下のムキムキ筋肉が見えてくるようだった。錯覚って恐ろしい。

「や、やだなー。僕がそんな失礼なことするわけないじゃないすかーハハ、ハ」

どうでもいいけど、さっきから僕が喋るたびに会長さんの中での僕のキャラがズレていっている気がする。

気のせいか。気のせいと信じよう。

「……で、これは?」

この部屋の鍵なんてことはもう分かりきっていたが、体裁は大事だから一応聞いておく。

しかし返ってきたのは予想の斜め上。

「今更聞くな。この学校のマスターキーだ。」

はい?
マスターですって?

マスターキー……って、この鍵あれば、この学校中の鍵何でもかんでも開けれるっていう、あの?

「え、そんなの生徒が持ってていいんですか」
「生徒会長だからな」

な、なんだってー。
と、棒読みもいいところの声が僕の中で炸裂。
いや結構マジで驚き。

「会長だからって」
「だから会長だからだ」




権力強いな会長!
その内世界制服できちゃうなぁ! もう!

……やってられん。

「えっと、これをですね、なくしたりしたら」
「とりあえず問題が起きてから被害に応じて賠償だな」

何だか急に手の中の鍵が重たくなった。
どうすりゃいいのこれ……。

「代々会長から会長へ受け継がれるものの一つだ、もちろんマスターキーは他にも校長や教務が管理しているものがある」

ご丁寧にどうも。そうじゃなゃ荷が重過ぎる。
まあ今でも十分重いけど。
この学校の会長って一体なんなんだよ。

「それからその変な口調、やめろ」

変な口調も何もこれは個人の自由……とはいいたかったが、また変に睨まれても困るので僕は反論しなかった。

まずい、いい具合に丸め込まれてるぞ。

「……で? 後はなんですか?」

正直これだけでお腹一杯だったけど一刻も早く解放してほしい僕は早急に話を進めようとする。

「あとは、その棚に三年分の記録ファイルが入っているからまた目を通しておけ。」

過去の記録ね。
あと一年で目を通す機会があるかも怪しいファイルは、非常に分厚い。

「さて。前置きは止めて、本題だ」

会長さんが改めてこちらへ向き直る。

本題?

今までの全部前置きだったの?

どうも嫌な予感がする僕に対し、もう話すのが面倒とでもいうふうにため息する相手。

そんな仕種でも様になるんだからイケメンとは何て得なんだ。くそ。

「どうせ何も知らないんだろうから丁寧に説明するぞ。まあ知らなくて当たり前だが」

いや、何の話かも分かりませんし。

「ときに、Time Travelというものを聞いたことはあるか」

と、またカンッペキな発音で。


……えっと、発音が良すぎるせいで、何か聞き間違えたかね?

たいむ、とらべる。
僕が言うと完全にひらがなになるからな。ちゃんと聞き取れたかどうか怪しい。



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