とりあえず無視するのもいただけないので、僕は茶髪のそいつにさながらブリザードのような視線を送っておく。
「えっと……誰?」
「ひっでぇなあー。カイチョーさんなら執行メンバーくらい全員把握しといてよ。俺は小野 敦。G組で、執行ね」
G組ってことは……多分学年で一番学力の高いクラスの奴だ。
ちなみに僕はF組で一つ下のランク。お受験にしちゃー結構ギリで入学した。
さっきも言ったけど、この学校は割に(無駄にともいえるが)一部の生徒だけ偏差値が高い。
G組と言えば、ガチガチの理系ばっか集めて、毎年最低でも四分の一は医学部を出しているような特進クラスだ。
なによ、こいつ、いかにもその……ね、○○っぽいのに。暴言じゃないけど、決して暴言じゃないけど、世の中少し不公平じゃないのか。
「で、小野先輩も執行やめたいんですか?」
人見知りという言葉が最上級に似合わない川南が、さっそく元気よく小野へ尋ねる。
「そーそー。俺ちょっとダチと賭けやってさ。負けて罰ゲームに生徒会立候補ってワケ。そのダチが勝手に名前書きやがったの」
「どっかで聞いたような話だな」
「なんのことですかぁー?」
ちらり、と僕は川南の方を見るが、川南は明後日の方向へ顔をそらす。自覚はあるみたいだ。
罰ゲームで生徒会立候補か……。て、そんなに酷いの? この組織。
僕の中の雲行きが怪しくなったところで会長さんがこほんと咳払いをした。
「騒々しい。馬渡、生徒会長になるにはもう少し静かにしろ。それから今更辞退なんて学校長に駆け上がっても出来ないから諦めろ」
「ええっ!?」
本気で辞退の手続きを踏めばなんとかなるだろうと思っていたけど、そう甘くはないらしい。
顔色を変えた僕を小野がニヤニヤと見る。お前だってやりたくないクセに。
「まあ、そんなに辞退したければ、学校を退学すれば辞められるんじゃないか」
現実を突き付けた会長さんの言葉は、何のフォローにもなっちゃいなかった。
「ていうか先輩、諦め悪いですよー」
川南の明るい声がムカつく。
誰のせいだ!
「じゃあ生徒会長は終わりだ。次、副会長の成海、次はまともな挨拶を」
「あ、はい」
成海……。いたのか。
いや、当然副会長なんだからいるのは分かってたけど。あまりそっちの方向を向かないようにしていた僕は存在をすっかり忘れていた。
小野の隣に座っていた成海が立ち上がる。
「副会長の成海です。一年頑張りたいと思います。よろしく」
低く通る声で、成美は当たり障りなく自己紹介を終えた。
そうだ、こうやって何でもそつなくこなすやつだった。
高い身長、艶やかな髪の毛、長い睫毛に長い手足。
僕と付き合っていたときと、何一つ変わってない。
「ほえー……、副会長、すっごいめんこいですね」
耳元であがる川南の声が呆けている。
「めんこいって何だよ」
「確かにめんこいとはちょっと違いますね。美形というか、カッコイイです。こうやって近くで見ると違いますねー。めちゃくちゃ整っていますよ」
まあ確かにその言葉は否定出来ない。
成海は完璧人間だ。一つの欠点を抜かせば。
もう話すことも一生ないもんだと思っていたから、実際僕にとってこの状況は芳しくない。
成海が副会長で、僕が会長で。
イヤすぎる現実を打破しようにも退学しかなさそうだし……八方塞がりだ。
「よし。他の執行は……まあまたいつかの機会だな。とりあえず今日はこれで散会にする。明日になれば元役員が一人一人のところへ向かうから承知の事。それから馬渡は最後この部屋に残るように」
「え、なんで」
「それじゃあ終わりだ、各自退室してくれ」
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