◎ ◎ ◎


私立荒川高校。僕の通う男子校だ。
私立の男子校というだけで僕にとっては最悪の環境なんだけど、寮制というところがまたミソになっている。
つまり、まあ。
そういうこと。

と、言葉を濁していても始まらないから、入学当初に僕が初めて知り合った奴からの言葉を引用しよう。

「つまりさ、同性愛者が多いんだよね!」

そんな爽やかに言われても。
同性愛者って。この場に限っていってしまえば女のいない環境に飢えた男が方向性を完全に間違えたってことじゃんね。

いや、この僕だから偏見はもちろんないです。ないですよ。

私立で寮制っていうからお坊っちゃまが集まっているかといえば、実はそうでもなかったりする。
中高一貫だけど僕みたいに高校から入ってくる生徒も少なくないし、中々に偏差値はあるから、学校の雰囲気は「世間外れ」ってわけじゃない。
……はずだ。

全寮制じゃないから自宅通との割合も半々だし。かくいう僕も自宅通だ。

家から近いんだよね。だから入学しちゃったんだよね。

で。
その「微妙過ぎる」学校の、晴れて生徒会長に当選しました、馬渡春幸、ピチピチの17歳です。一昨日誕生日でした。
同性愛者じゃありません。
過去に恋人はいたり、しかもその元恋人が副生徒会長になってたりしているんですけど、違うんです。あれは全くの誤解なんです。

「先輩ー、何してるんですかあ。早く行かないと、始まっちゃいますよー」

己を振り返る間にも川南は元気に僕の腕を引っ張って行く。
あの悪夢の休み明けから早3日。
今日は生徒会の「引き継ぎ会」とやらがある。

この引き継ぎ会が終われば、僕は第何代目だか知らないけどこの学校の生徒会長になっちゃう、らしい。

当選っていうからなんだと思ったけど、実は生徒会長の立候補は僕しかいなかったわけで。

信任 不信任で投票ってなればそりゃ信任の方が多いでしょ。JK。

それもこれも川南の巧みな働きがあったらしいけど……聞きたくもない僕は特にその辺りについて言及しなかった。
なんたって僕はこの2日間休んでいたんだから。




学校休んでいたら生徒会長に選ばれていたなんて馬鹿げた話、ファンタジーの域だ。
現実から目をそむけたくて親には反抗期と言い訳をして家に引きこもっていたけど、この2日間は本当に暇を弄ぶだけだった。

オマケに昨日の夕方から夜にかけてはひっきりなしに川南からのメールが届き(いちいち中身を全部確認していないけど、多分全部「明日は来てください」っていうパケ無駄遣い内容だ)いい加減ストレスの限界にもキていた。


それならば。
ここで発散するのも手だ。

……と、思い学校に登校したはいいけど、僕の気分はどん底になりつつある。
授業を終えて帰ろうとしたら引き継ぎ会ときた。
なんでこのタイミングで。

ていうかメールで来いっていってたのはこれだったのか。

おのれ川南……。

出来ることなら今すぐ川南の腕を振り払って家に帰りたい。


「先輩? 一人で何ぶつぶつ言ってんですかー。ほら、入りますよ」
「嫌だ」

僕が拒否すると、川南はええっ!?とわざとらしすぎるくらいの反応を返した。

「だってここ入ったら生徒会長なんだろ」
「はあ……何当たり前のこと言ってんですか?」
「僕は生徒会長になりたくない」
「今更じゃないですかあー。当選しちゃったんですから」
「お前が勝手に当選させただけだろっ!」
「痛いっ! ちょ、先輩っ、武力行使はダメですって!」

「……何騒いでるんだ」

生徒会室の入り口で僕と川南がギャンギャン騒いでいると、中から声がした。明瞭すぎるその響きに僕は疑問を覚える。戸、挟んでるよね?

「早く入って来い。馬渡くんに川南くんだろ? もう2分12秒過ぎている」

12秒て。
もうて。

「ほら先輩っ! 入りますよ!」
「あっ、おまっ……!」

いろいろツッコみたいところはあったけど、僕は観念して川南と共に生徒会室の扉を開いた。


───実は、僕はこの学校のことをあまりよく知らなかった。
自分の通う学校だけど、自分が生活していければそれでいいし、ましてや生徒会のことなんて気にも留めていなかった。

今更ながらに思う。

もっと生徒会について、知っておくべきだった。

そうすれば、この瞬間、この扉を開けることは───例え川南の頭に杭を打ち込んででも、しなかったのに。
なんで杭かって? 別に適当だけど。


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