「さあて……どういうことか説明してもらおうかな? 川南くん?」

なるべく殺気立った雰囲気を出して──実際に殺気立っていたんだけど──僕は川南の前に仁王立ちした。

「会長ーっ! 良かったですね、 見事に当選ですよ!凄いですよ!」

「だからっ……! どういうことだって聞いているんだよ! これ!!」

バン、と大きく壁に貼られた模造紙を叩くと、掃除をしていた周囲の生徒が驚いて僕たちの方を見た。そして慌てたように掃除を再開する。


「どういうことって……、何言ってるんですか? これから春幸先輩の時代が始まるんです」


……なんのこっちゃ。



この11月という微妙な時期にインフルエンザにかかった僕。
それに何故か謎の腹痛まで重なって、結果的に二週間ぶりの登校になっていた。

そこで真っ先に玄関で目にしたのが「生徒会選挙当選結果」の紙。

「春幸センパイッ!! おめでとうございますー!」
と、僕を待ち構えていたようにそこにいた子犬一匹。

川南は僕の一個下の後輩だ。入学当初から目をつけられ、気付けば物凄くなつかれていた。とりあえずその騒がしい後輩を無視して紙の内容を確認すると───。

『生徒会長 馬渡 春幸(マワタリ ハルユキ) 副生徒会長 ……』

……見事に大きな大きな行書体で、僕の名前が書かれていたという次第だ。

いや。
いやいや。

「大変でしたよー。まず先生を説得して、本人がいなくても生徒会長立候補するように手配して、それから推薦責任者を───って、痛いっ! 先輩、痛いですっ!」

「当たり前だ、痛くしてるんだからな」

ドヤ顔で話す川南を叩く以外に僕の選択肢があるか。ない。

「全てお前のせいか……」

「え、俺だけじゃないですよう。猫澤くんも藍内くんも───ていうか、みんな先輩に投票したんですから」

「ああもういい。うん、大体分かったから。つまりお前のせいってことだな」



学校に来たら生徒会長になってたって。

生徒会長って。

え、どうすんの、僕。

「とにかく、引き継ぎが終わったら先輩は晴れて生徒会長です。あっ、ちなみに俺も執行に立候補したらー、当選しちゃいましたー。っていうか先輩さっきから痛いんですけど……えっ、余計痛く……あたたたた……」

呑気に話す川南の言葉なんて、聞いちゃいられなかった。


「あ、それからあ」

妙に間延びした川南の声が鼻につく。元々こんな感じだからしょうがないけど。

でも結果として、僕は次の川南の言葉を聞いて、灰になった。


「副生徒会長は、成海先輩って人になったみたいですよ」

「…………はい?」


不覚にも間抜けな声を出してしまった僕を余所に、川南が模造紙を指差した。その動きを追って、僕の視線も模造紙の左側へと移動する。


『副生徒会長 成海 泰周(ナルミ ヤスチカ)』

成海 泰周。

「俺はよく知らないんですけど……どんな人か知ってますか? 先輩?」
「いや……え? 成海?」
「はいー。ものっそいやる気なさそうな演説でしたー」
「ああ……うん、成海ね。うん、どっかで聞いたこと、ある、ような」



って、それ。

僕の元彼!


「まあ。これからいい生徒会作って行って下さい!」


こうして、僕の久々のスクールライフは最悪の幕開けとなった。


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