「なあA」
「なに?」
放課後の帰り道、いつものようにAとBは道を同じにして下校していた。Bはポケーと口を開けながら空を見ている。
「空にさ、靴って飛んでると思う?」
「なにそれ、頂上現象?」
「いやなんか場面的に合ってるっぽいけど多分漢字違う。超常現象ね。うーん、普通そう思うよね」
Aは手に持っていた本から少し視線を外して、長い睫毛をたたえた瞳をBの方に持って行った。Bのいつものほうけたような顔を確認してから、また紙上の活字に戻す。
AとBが歩く頭上に広がる空、ちょうど二人の上辺りを今スニーカーが通過していた。
「やっぱ超常現象だよなあ……」
「どうした、B?」
「や、なんでも。ところで今日の劇のヤツだけどさ、やっぱ俺よりDがナイトやった方がよくない?」
文化祭の出し物で決まった劇は、王子であるナイトが姫を助け出すために悪の組織と戦うという、誰もがよくあるよくあると頷くものになっていた。
「Dはダメだよ、あいつ敵側のブレインやるってそれ一択だったから。それより俺の姫役の方が問題だ。絶対Cがやった方がいいって」
「あーCはダメだよ。だって森の木1と馬の二役を自分一人でやりたいって聞いてなかったから」
「それが困るんだよなー。姫役って言ったら普通Cだろ。どうして俺が女役……」
Cがやらないことになるなら自分の相手はやっぱり知っている役がいいと思うBだったが、内心ではAがやることになって狂喜乱舞していた。なんたってAのドレス姿が見れるのだ。ドレス姿を見るだけなら召使などでも充分だが、姫はとりわけ自分の相手役。
(これを喜ばずして何を喜ぶ……)
そんなBの思いなど知らず、Aはからっと乾いた空気にため息をついた。
「ところで文化祭いつだっけ?」
「一ヶ月後だろ。あーあ、さっさと台本覚えなきゃ……」
「Aなら一日で覚えられるでしょ。問題は演技だね」
「む……」
「Aの女役、楽しみだなー」
ニコニコとBは鼻歌まで歌いはじめる。そんなBとは反対にAはむくれるばかりだ。
「ね、ほんとにキスしちゃおっか?」
「な、キスがあるのか!?」
「えー、まだ台本読んでないからわかんないけど、そりゃこんだけ定番のやつだから最後はナイトと姫のキスでおわりでしょ。多分みんなはフリでいいって言うと思うけど、本当にしちゃっていいよな?」
「そん、な……、ムリだ! 観客の前でキスなんて……!」
とたんに青ざめるAを見て、Bは面白がるようにこれまた顔には出さず内心ニヤニヤしていた。
「いいじゃん、見せつけてあげよ?」
「…、……!」
今度は赤くなるAに、Bはクスリと笑いを漏らした。
[ 13/14 ]
*← 小説top →#