翌日。
学校の授業は何事もなく終了し、いよいよ5時限目が終了した午後、僕は腕を引っ張られ連行されていた。
誰に? 鬼畜眼鏡の真雪さんにです。

休み時間中の2年の教室へ突然乱入してきた会長さんをパシャッている生徒がいたが、会長さんにピントばっちり合った画像の端には「会長さんの腰巾着っぽい奴」として小さく映る僕がいるだろう。想像すると中々厳しいものがある。

廊下を真っすぐ直線コースで進む会長さんに手を引かれる僕は今どんな目で見られているのだろうか。

「ちょちょちょ会長、何してんですか」
「自分の立場を分かってないようだな。会長は君だ」
「いや会長さんは会長さんですから」
「俺はもう会長ではない」
「じゃあなんて呼べばいいんですか」
「馬鹿でも○ョンでも勝手にしろ」
「放送禁止用語!!」

ついでに言うと使い方も違います。いろいろまずいぞごめんなさい。何で僕が謝らなくちゃいけないんだ。

「今会長さんの株ガクッと下がりましたよ」
「会長ではない。下がるなら下がるで都合がいいな。いい加減この立場にも少々不便が出てきた」
「えっ……」「真雪様!!!!」

ほぼ走っているといっていいペースで突き進む僕たちの前から声がやってきた。
見るといたのは僕より身長の低い小柄な生徒。

抜かした真雪さんと僕の斜め45度後ろの位置を崩さずついてくる。

「もうその名で呼ぶ必要はない」
「いえ、真雪様はずっと真雪様です」
「用件は何だ」
「お荷物持たせていただこうかと」
「これから生徒会室へ向かう。必要ない」
「了解いたしました」

流れるような真雪さんとの会話を終えた後、その生徒はすぐどこかへ消えてしまった。

「えっと、今のは」
「親衛隊の隊長だ」
「……」

何か別次元の世界を見た気がする。


親衛隊って常にあんな感じなのか……?
もっとこう、水面下っていうか影からさりげなくサポートする隠密起動的なさあ…。

まるで支配者と下僕のようだった。しかも真雪さんを見る目つきが普通じゃなかった。

「真雪さんにはあんなに慕ってくれる(下僕のような)後輩がいていいですね」

「親衛隊は後輩だけではなく同学年も多い。それに君にだって親衛隊は出来ているんだ。まだ挨拶には来てないのか?」

「音沙汰なしです」

本当は僕の親衛隊なんてないんじゃないか。
こんな行き当たりばったりで決まった会長なんかにお仕えしたいなんて相当の物好きかドМだ。

「まあそれより目先のことだ。入れ」

昨日来たばかりの生徒会室へ入る。鍵は元から開いていて、既に中には数人が待ち構えていた。

「せんぱーい、遅いですよう」

川南の能天気な声が僕を迎えたが、声の先にいたのは川南ではなかった。

短いプリーツに大きな赤色リボンはセーラーによく映えている。その上から羽織られているブレザーにはしっかり高校のエンブレムがあった。
男子校のはずなのに女子用セーラーがあるとはこれいかに。

「……えっと、どちら様?」
「もう、毎回同じ反応するの止めて下さいよー」
「…今日は、明(あかり)の方なのか」
「の方、とかやめて下さい。ちゃんといつでも明です」
「ああ、…うん…」

セーラー服をまとって髪の毛も若干伸びている川南は今日は明ちゃんの日らしい。

ちなみにセーラーは本人の自前だ。推測するに金にもの言わせて作った。
金持ちの趣味は困る。マジで。

川南の女装癖を知ったのは実は出会って二日後のことだったりするけど話せば長くなるからそれは飛ばそう。
しかし生徒会執行になっても女装デーはきっちり守るのか…。

隣に座っている成海が明ちゃんの方をじっと見やってから、次に俺の方を見て気まずそうな顔をした。


僕はふん、と鼻息をつく。

「で、今日は何で集められたんですか?」
「今日限りじゃないと言っただろう。そんなに物覚えが悪くて大丈夫か」

そこまで言われることか……。僕だってちゃんと覚えているもんは覚えている。授業免除、だろ。

「基本的にこの時間は雑務なり会議なりと通して学校行事の運営をはかっていく。校長に持っていく資料は基本的に生徒会の印を通してからで……」

うんたらかんたら。

真雪さんの単調な声に眠気が早くも襲って来た。
もう少しで瞳が閉じそうな僕の前にドンッと紙の山が置かれる。

「……?」
「今日のところはこれだけだ。一枚一枚この会長の印を押せ。一人で審議不可能なら副会長、会計や執行と話しあって通すか破棄するか決定。最後に校長室へ持っていく」

ブラック会社に入社したようだ。

「…この生徒会って、どれだけ権力強いんですか…」
「他の学校を知らないから何とも言えないが、強いのは確かだな。場合によっては校長よりも権限を持つ生徒会長だ。理事長にはかなわないが」
「えっ、会長羨ましいなー」

チャラ男もとい小野がひゅーとヤジを飛ばす。

「何なら今から変わろうか?」
「やだ、めんどい」

自分に正直すぎる男だ。

「あと入寮の件だが、この中で今自宅通いの者は?」

自宅通い、と言われて素直に手をあげる。僕と成海、それから小野も挙手していた。

「3人か。それくらいなら空き部屋の心配はないな。寮の鍵は近々渡されることになる」

……なんか入寮前提で話を進められているけど、僕は入学して一年半以上自宅通いで通してきた。

「あの、なんで鍵ですか? 自宅通いに部屋は必要ないんじゃ」
「生徒会に入ったからには入寮するに決まっているだろう」

どこの法律?

「そんな、お金は」
「免除される」

素敵なサポート体制でした。どうしようお母さんお父さん、早くも息子離れが来てしまいました。


「…明ちゃん」
「はぁい?」
「知ってただろ、入寮しなきゃいけないの」
「普通に考えて当たり前じゃないですかあー」
「何で僕を立候補させた?」
「先輩と同じところに住みたかったからです。えへへ」

えへへ、じゃねえ!
どうしよう凄く殴りたい。いくらフェミニストの僕でも殴りたい。

「まーまー、ここの寮綺麗だからいいじゃんね。むしろラッキー?」

小野はどうしてこんなにポジティブシンキングなんだろう。全く羨ましくないけどね。

「今から荷造りしておくことだな。そのうち業者が君たちの家から荷物持ち出すだろう」

強制的に、を忘れてますよ真雪さん。

いろいろ投げ出したくなった僕はとりあえず目の前の書類に目を通す。風紀委員の見回り強化案や学校の改装工事案件など全く意味の不明なものばかりだった。もう適当に印押していいじゃんね。投げやりじゃんね。他の生徒は生徒で何かいろいろ作業しているし。と思ったら小野は明ちゃんの髪の毛で三つ網して遊んでいた。この野郎。

「「すみませーん、遅れました」」

えい、と一枚目の書類に印を押した所で、ハーモニーを醸した二つの声が入ってくる。扉の先には二人の顔そっくりな生徒が立っていた。兄弟か、双子か。あれ、こんな人たち昨日いたっけ? ともっとよく顔を見ようと思ったが入室してこない。

「お前…僕と声合わせるなっていっただろ」
「てめえこそパクってんじゃねえぞ喧嘩売ってんのか? ああ?」

……何かとてつもなく悪意がこもってる声がするんですけど。
お互いに額をぐりぐりなすり合いながら中へ入ってくるという中々器用なことをしてきた。ぶっちゃけ気持ち悪い。


[ 11/14 ]
*← 小説top →#
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -