「別に睨んでなんかいません」
「どうだかね。ああ馬渡くん、本当にこっち来て大丈夫だよ。それに君、マスクしてるだろう」

指摘されようやくマスクの意味が分かった。

「……会長さんにいつもこういうことしてるんですか」
「こういうことだけじゃないかな」

……ぴかりんだめだろ。そりゃ真雪さんもマスク渡したくなるわ。光男とかぴかりんとか言いたくなるわ。こちらがお礼申し上げなきゃいけないぐらいだ。

僕は警戒しながらも成海のやや斜め後ろに戻った。

「さて、じゃあこっちも自己紹介しようかな。光 鉄男。年齢ヒミツ。ご覧の通り音楽教師に生徒会顧問で愛しているのは幸平。興味あるのは幸平だけだから今後一切君を襲ったりしないよ。ご心配なく。これから一年よろしくね。面倒だからサポートはあまり出来ないと思うけど」

どこからツッコミいれればいいのか分からない。分からないけど。

……鉄男って顔かよ!

略して光男だった。
でも僕はぴかりんで通すとしよう。なんか後光発しているから。
真雪さんのくだりは……もういいや。下手に首突っ込んだら負けと思おう。

「じゃあこちらも改めて。新生徒会役員になりましたので挨拶をしにきました。2年G組成海泰周、副会長です」

成海が言ったからには僕も続かなければならないだろう。本当は今すぐ部屋から出て行きたい気分だった。センチメンタルフィーリング。

「同じく。2年F組馬渡春幸、…会長、です」
「ああ、さっきも言ったけど、この学校は生徒でほぼいろいろやるから顧問なんて名ばかりなんだよね。顧問もくじ引きで決めたし」

なんという適当さだ。


「活動については頑張ってもらうとして…それより、耐性がないのが来になるな」
「耐性?」
「君、さっき超反応で逃げただろ。まさか男嫌いとか?」

男嫌いって問題じゃないような。

「いきなりモーション取られたら誰だって逃げますよ」

「ふーん。別に男がそこまで嫌ってわけじゃないんだ。迫られたことは?」

「せま……?」

何言ってんだ、この人。

「……うん、何も知らないらしいね。よく今まで無事でいたなあ。もしかして誰か守ってくれてる人がいるとか?」
「先生の言ってること意味わかんなーい」
「タメ口張ってんじゃねえ」

表情崩さず。

よく分からん人だ。
とりあえずタメ口厳禁らしい。

「先生のおっしゃる意味が不明です」
「ウソウソ。一度言ってみたかっただけ。あはは、タメ口でいいよ」
「てめぇさんの言ってること意味不明です」
「……成海くん、どうすればいいと思う?」
「そのうち知るから心配ないと思います。というか俺、守ってる人なんで」
「左様ですか。じゃーいいや」



なんかノケ者にされてる気がする。でも意味不明な会話は無視に限る。

「まーこれからあんなことこんなこと知っていくと思うけど、幸平も耐えたから。会長としての任務、一年頑張ってね」
「がんばらない程度にやってきます」
「成海くんも」
「はい。では、失礼しました」
「した」

おじぎ一つかまして音楽とおさらばした。
扉が閉まったときにはまた繊細な音がポロロンポロロン流れていた。ぴかりん……真雪さんに何回殴られたんだ。顔変型できるのにね、あの人。

「あれ、そういえば成海ももう前の副会長と会ったの?」

「会合終わってすぐ会った」

抜かりねえ。



成海はどこか行くところがあるとかで玄関に辿り着く前に別れた。

なるべく関わりわりたくないのはやまやまだけど、これから先どこまで成海と接しないでいられるか。
ゲーム感覚で頑張ってみるしかないようだ。

すっかり帰るのが遅くなった僕は真っすぐ帰路に着こうとするが。

「なんなななななああな殴ってください!!!!!!」

この声を聞いた時点で変質者が出たと通報しようと思ったけど下駄箱の前で土下座されたら携帯出す気力も殺げた。

現状把握、大事。

下駄箱から下ばきを取り出して振り向いたら見知らぬ人間に土下座されてました。相手制服着用中。

……把握しようとしたところで無駄だった。

「…………」
「ええ、あああっ! 無視しないで下さい! ここで放置プレイはそれはそれでそそりますけど…あー! そそるぅっ!」
「ふう、今日も散々な一日だったなあ」

土下座したまま喚く人間の前を素通りして僕は家へ帰った。
全く、本当に散々な一日だった。



「……てか、あれ誰だ?」

家に帰ってやっぱり変質者は通報しとけばよかったかなと。
もう二度と僕の前に現れないなら、いいか。次見たら通報しよう。学校の秩序乱れているのはよくないしな。

「会長、ね」

引き継ぎ、終了。
顧問への挨拶、終了。

つまり。

なってしまった。
生徒会長、なってしまった。
なんだってこんなことに。

「うあああああ……」

鞄の中のマスターキーが光った。
なくしたら大問題、瞬間接着剤でどこかに着けておかねばならない。
どこに着けようかと思案している内、途中で面倒になって考えるのをやめた。

『明日から5時間授業ですねー! 楽しみです』

「……え、明日、から?」

川南からのメールで、そういえばそんな話もあったなと思いだした。
一時間授業免除。
さっそく面倒な壁にぶち当たりそうだった。


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