・地に立つ

 すらすらと書かれている公式は、すやすやと眠ってる彼の右手で泳ぎ先が乱れていた。机にうっ伏せて眠る三沢の傍へ近づく足音。

「あれ? 寝てるの」
 公式も書きかけだ、と三沢と机とゆめは視線を行き交わしていた。そこへざっくりと起き上がる三沢。茫然とした顔はゆめを見たかと思うと、ゆめのこちらをじっと見据える様子に慌てた。

「おぉ! びっくりした」
「あ、ごめん。すぐに起きると思わなくて。何か変な夢みた?」
「な、何だ……いや、何でもない」
 ゆめは三沢の隣に座ると、強張る頬をじっと見上げた。

「また、決闘の夢?」
「別にたいした事じゃない」
「嘘、顔に描いてある」
「そんなはずはない。あっ、公式……!書きかけだった」
 思い出したように、ゆめから視線を外すと三沢は転がっていたペンを持ちあげた。
 その三沢を見るゆめの表情が陰っていく。

「そんなにうなされる様なら、少し……」
「どうした?」
「いや、少し離れたっていいと思ってさ」
「決闘からか」
 反感を持って返す三沢に、ゆめはためらいながらも頷く。

「何言ってんだよ」
「でも、また負けたらって」
「負けるかって俺はこんなにデッキを持って……ってまぁ、心配してくれるのはありがたいけどさ」
 と、一瞬よぎった弱気な顔を押し込んで、ゆめに笑って見せる。

「俺はどの道で決闘でしか生きられない男だ」
「……」
「それに決闘は何より、知性が勝利をもたらすのだからな。ゆめが心配するのなら、俺はもう負けない」
 安心しろ、俺は更に飛躍する、と、言って三沢はカードを手に明るい表情でゆめに頷いた。その頼もしさに思わずゆめも笑みをこぼす。

「それに、俺にはアイドルたちが付いている」
 三沢はほのかに照れていたかと思うと、ゆめが怪訝に聞き返す間もなく、ざっと立ち上がった。

「えっ、ちょっと待って」
 ゆめが三沢を追って椅子の背に手をつき、振り向いた時には既に誰の姿もなく、ゆめの言いかけた声は喉に戻った。

-完-




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