ハニートラップを仕掛ける4



タオルをぐいっと引っ張られ、外気に晒された胸を両腕で抱くように隠して、ナナシは悲鳴を上げた。

「ま、待って!無理……やっぱり無理!」
「あの男に散々迷惑を掛けられて、僕は心身共に疲れ果ててるんです。あなたは人身御供に出されたのだから、責任を持って僕を慰めるのが仕事ですよね?」
「言い方!」

口調は丁寧で、落ち着いた低音が耳に心地よいはずなのに内容が酷い。ナナシが文句を言うと、男は首を傾げて少しだけ考え、こう言い直した。

「……僕の慰みものになってください?」
「さ、最低……」

ナナシはわなわなと震えた。これだけ顔が良いのだから、甘い言葉でも囁いて女をその気にさせるのは容易だろう。いくらでもやりようはあるのに、わざとナナシが屈辱を感じる言葉を選んでくる男に対し怒りが湧いてくる。が、すんなりと腕を退けられて褐色の大きな手がナナシの胸を包み込んだ時、怒りなどは霧散してしまった。

「や、」

白く柔らかなふたつの膨らみが体温の高い両手の中に収められ、むにむにと揉みしだかれる度にその褐色の指と指の間から柔らかな肉がはみ出る。男の肌の色との対比で、形を変える自分の胸がどのように弄ばれているのかはっきりと認識してしまい、ナナシはぎゅっと瞼を閉じた。無意識にやめさせようと両手で男の手首を掴むが、どうにもならない。顔を背けたナナシの耳に、男の唇が近付く。

「あなたは情報を受け取りに来たんでしょう?なら、僕から聞き出してみてはどうですか?」
「え……?」
「ベッドでは男も女も口が軽くなるものです。……あなたを陥れた人間にひと泡吹かせてやればいい」

ナナシが目を開くと、男が楽しげにそう囁いた。もし本当に情報を入手できるならナナシだってそうしたいが、ハニートラップを仕掛けると分かっている人間相手に、情報を渡すはずがない。

「……っ……そんなこと、できるわけ……」
「僕は誰にでもこうするわけではありません。あなたが可愛くお願いしてくれたら、喋ってしまうかもしれませんよ?」

眉目秀麗な男に諭すようにそう言われて、ナナシは惑った。確かに、このまま一方的に男の好きにされるよりはいいかもしれない。男の企みに気付くこともできずに、ナナシはこくりと喉を鳴らす。

「ほら、どうするんですか?」

ナナシは口を開いた。





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