相合傘


※名前変換なし



「……雨」

 今晩の夕飯や明日の朝食の材料を買い終えて店から外に出ると、数十分前まで静かだった道路に大きな雨粒がバラバラと音を立てながら勢いよく落ちていた。突然の豪雨に店の入口で立ち留まっている人やこの雨の中を走って帰る人の姿が見える。
 店で新たに傘を買って帰ろうにも両手が塞がった状態では持つことが難しい。家までそう遠くはないし急いで帰ろう、と仕方なく土砂降りの中に足を踏み出す。

「おい待て。風邪引くぞ」
「わっ!? 消太さん、どうしてここに……?」
「仕事帰り。急に降り出したから傘持ってないだろうと思ってな。この時間帯はいつも買い出しに行ってるだろ」

 同時に頭上から聞き覚えのある声が聞こえて反射的に顔を上げた。目の前にはヒーローコスチュームに身を包んだ彼、相澤消太の姿。
 濡れてしまわないようにと此方にビニール傘を差し出しているが、一人用の傘では明らかに広さが足りない。その間にも傘地からはみ出している彼の肩に雨水が染みて服の色を濃くしていく。

「あ、ありがとう。でも、消太さんの方こそ風邪引いちゃうよ。私はさっき買ったものが濡れなければそれでいいから」

 傾いた傘を戻そうと中棒に触れた時、手に下げていたレジ袋を横から伸びてきた手に軽々と取られる。傘は傾いたままだ。

「駄目だ、風邪引かれても困る。それに」
「それに?」
「……たまには、こういうのも悪くないだろ」

 小さく呟かれた声。それは雨音に遮られずにしっかりと彼女の耳に届いた。顔を逸らして口元を押さえている珍しい彼の様子にくすりと笑みがこぼれる。

「酷くなる前に帰るぞ」

 彼はもう片方のレジ袋も手に取ると自宅に向けて足を進め始めた。両手が空になった状態で歩くのも申し訳なく思い、大きな手からハンドルを取ってお互いが雨に濡れない位置で固定する。
 雨粒に当たらないように狭い傘の中、二人はできる限り近寄って歩いた。

 自宅に帰り、部屋着に着替えた後。
 雨の日も悪くないな、と彼はほんの少しだけ緩めた表情を浮かべていた。




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