部活終わりに何かみんなで食べに行くとかって、めっちゃ高校生っぽくないですか。もとはと言えばそんな高尾の言葉から毎週金曜日の部活終わりは何かをみんなで食べに行くというのが毎週の恒例行事になったわけだが、身内ながら秀徳高校は例外なく皆我が強い。ちなみにあたしはというと特に食べ物の好き嫌いもなければこだわりもないので、みんながどこに食べに行くかの論争には基本的にかかわることがないのだが、今日はどうやら長い戦いになりそうである。


「だから今日は1年のリクエストを聞いてくださいって!」
「1年っつってもお前だけだろうが高尾!誰が金曜の死ぬほど走り終わった後に韓国料理なんか食いに行きてえんだよ、明日家族とでも行けよ!」
「俺の家辛いのみんなダメなんスよー」
「俺だってダメなのだよ」
「だからといってスイーツ食べ放題なんか食べれたもんじゃねえだろう。部活終わりに甘いものも結構しんどいぞ」
「パスタやカレーも置いているのだよ」
「それしか選択肢がないっていうのもなあ」
「女子は甘いもののほうがいいだろう?」
「あたしに救いを求めないでよ、あたし辛いのも甘いのも人並み以上にいけちゃうタイプなんだよ」
「この邪道が」
「かなり辛辣な言い方するよね緑間って!絶対味方してやんねえ!」


ちなみに今の戦いでは宮地さんはこの間高校の近くにできたハンバーグ専門店に行きたくて、大坪さんや木村さんは別になんでもいいけど高くつくよりファミレスでいいんじゃないのかという中立意見派で、高尾は何が何でも辛いものを食べたいらしい。しかも厄介なことに、大坪さんや木村さんは特にこだわりがないためにどこにでも最終的に決まったところに行ってくれるが、他の三人は今自分が食べたいものを最優先させたがるところだ。週ごとに人を変えてそいつが行きたいところに行けばいいじゃないか、という折衷案も出たには出たが、結局それでは納得できないと3人が主張したために毎回この話し合いはされるのだが、ぶっちゃけかなりのロスタイムだと思う。

しかしまあ、ハンバーグやらスイーツやら韓国料理なら尚更ファミレスでいいじゃないかと思わなくもないが、部活以外にすることもなく家族から貰っているお小遣いを大量に蓄えている彼らからすれば、たまに仲間と外食するのなら少しいいところに行きたいらしい。良く分からないが、明日も朝から練習があるのだから早く決めてご飯を食べて早く帰って寝たい。


「大体こんなのいつまでたっても決まるわけないじゃないですか。今までならある程度妥協案が出せたかもしれないけど、今回まるでジャンルが違うんですもん。もうこうなったらファミレスしかないですよ」
「おまえは食のこだわりがねえのかよマネージャー」
「ないですよそんなもん。だからいっつもこういう立ち位置なんじゃないですか」
「分かってねーななまえ!俺らこれ以外に贅沢なんか許されてねえんだぞ!ちょっとぐらい我儘も言いたいじゃねえか!」
「そうなのだよ」
「おまえらは比較的いつでも我儘放題だろう」
「そう言わないでくださいよ木村さん!」
「いや木村さんは正しいよ」
「そうだぞ木村は正しい」
「おまえも我儘だぞ宮地」


辛いものは食べたくない、甘いものは食べたくない、ハンバーグなんてありきたりすぎる、とひたすら同じような論争を繰り返す彼らの戦争は終わらないだろう。そろそろ部活が終わって20分経つが、このままでは家に帰って母親御手製の晩御飯をたべていたほうがいくらか利口な時間帯になってきた。
だがこういう場合、場を切り開くのはいつだって我らがキャプテンだ。


「体力勝負で勝ったやつが決めればいいんじゃないか」


…また時間のかかりそうな勝負方法を提示してくれたものだ。


「しかもそれでシャトルランって部活終わったのに全然終わった気がしないですよね」
「悪いなマネージャー。シャトルランの準備だけしてきてくれないか」
「まあここまでしときゃあいつらもしんどくなってきてどこでもいいやみたいな雰囲気になるんじゃねえかな」
「ああ、それが狙いですか」
「ああ。まあ、アップするほど真剣にやられるとは夢にも思ってなかったがな」
「長くなりそうですよねー」
「あんまり遅くなりそうだったらあいつら放置して俺らだけファミレス行くか」
「もうすでに行っちゃいたい気分なんですけど」
「準備ができたのだよ」
「絶対負けねえっスよ!」
「うっせーな負けろよ1年ども」
「3年の意地を見せてください宮地さん。はーい、じゃあスタートラインにみなさん立ってくださーい」


はぁい、はじめーなんて間の抜けたあたしの合図から始まったシャトルランだが、結果だけ知れればいいのであたしも大坪さんも木村さんもそれぞれがカバンから来週までに提出の課題やら教科書やらを取り出しひろげだした。あの走っている連中はそれなりに頭がいいから関係のないことかもしれないが、ここは天下の秀徳高校。決してあたしたちの成績が悪いわけではないのだが、進学校に通っている生徒ならではの苦労とやらもこちらサイドには確かに存在しているのである。
そして数学と現代文を片付けた頃、ちらりと様子だけ伺ってみたのだが、もうすぐカウントも100になろうかというところにまで差し掛かっているというのに、あのフィジカル面においては化け物並の強靭さを誇っている3人組はまだまだこれからだとでも言わんばかりの軽やかさで走っていたものだから、とりあえず英語も片付けてしまうことにする。あーあ、ここの和訳あとで緑間に聞こうと思ってたのにな。もしこれで緑間が負けてしまったりした日には最後、きっと緑間はどれだけ口説き落としてもあたしの英語なんて見てくれないだろう。こんなことになるぐらいなら、すこしぐらいは緑間の肩でも持っておいた方がよかったのか知れない。


「あ、そういや今日友達から焼肉食べ放題のクーポン貰ったんですよ」
「お、どこのだ?」
「駅前に新しくできたやつです。ほら、前ハンバーグやってたところ」
「ああ、あそこか。結構値段安めなのにメニュー豊富なところだろ?学生向きって感じらしいな」
「そうらしいですねー。前のお店のご主人がそのままやってるみたいなんで、ハンバーグも出してくれるみたいですよ。ほら、このクーポンおひとりさま1枚限りでハンバーグ無料券もついてるんです」
「……すげえな」
「それにここスイーツも割と凝ってて、アイスとジェラートがあって、おしることかもあるらしいですよ。どんだけ肉のコスト落としたいんだか。焼肉とおしるこって絶対合わないですよね」
「あーたしかにそれはあるかもな」
「あとキムチもやっぱりそこそこ置いてあるらしいですよ。焼肉屋さんって結構キムチ置いてあるけど、ここは割と店主がキムチが好きみたいでいろいろ揃えてあるみたいです。辛さとかもわりと融通きくって友達が言ってました」
「………おーい宮地ー、高尾ー、緑間−、聞いてたかー。聞こえてたら走るのやめてすぐ支度しろー。マネージャーがクーポン引っ込めようとしてるぞー」
「そんなクーポンがあるのならはじめから出すのだよ!!!!」
「えーもったいないかなって」


ぶっちゃけ家族と行くときにでも使おうと思っていたものだが、ここまで長引くのなら仕方がない。それにバスケ部のマネージャーなんかしていたら家族との外食だったままならないのだ。結局有効期限がきれて使おうとしたときには使えなくなっているのがオチである。
とりあえず英語も不安要素を除いてはすべて完成したのでそれらをカバンに詰めながら「片付けぐらい手伝ってくれよ!」「そうなのだよ!」と喚いている高尾と緑間の叫びを一切放置して自分1人だけ身支度を整えていく。どうしてあたしがあんたらの我儘にそこまで付き合ってやらなくちゃいけないんだ。その機械なんかを出してやっただけ有難いと思ってほしい。それに大坪さんだって「出すだけでいいぞ」と言ってくれたのだから、あたしが手伝う義理もない。面倒なことはやらないのだ。それでもマネージャーかと言われれば、部活内はマネージャーだと答えてやるだけである。

しかし空腹には勝てないらしい。そのまま走るのをやめてシャワールームへ行ってしまった宮地さんはともかくとして、高尾と緑間も宮地さんとほぼ同じタイミングで体育館から出てきた。それでもシャワーだけはきちんと浴びていたのかほのかにシャンプーのいい香りだけはするのだが、あの短期間で準備ができるこいつらの身支度をしている一部始終を一度でいいから見てみたいと思う。おそらくせかせか動いている緑間に「邪魔なのだよ!!」と一喝されつつ肘で殴られて終わりだろうが。

しかし店を決めるだけでもここまで時間がかかる上に結局来週も似たような論争が繰り広げられることが分かりきっているというのに、どうしてあたしたちは毎週こうしてご飯に行くことは譲らないのか、なんて、これが高尾の言っていた高校生っぽさなのだろうか。気の合う友達と騒いでいるのが楽しい、ご飯を食べると嬉しい、明日も頑張ろうと思う。また来週も行きたい。もっと思い出を作りたい。


「さすがなまえだな!」
「ありがとよマネージャー」


後ろからまるで男子の部活仲間にするようにあたしに抱きつく高尾やあたしの頭を撫でる宮地さんの大きな手を受け止めながら、あの店を決めるだけだというのに無駄に疲れる数十分も無駄じゃないような気がしてくるのだから笑えない。まあ、いつもこうしてあたしの提示する店に行くことになるのだが、毎週このご飯会が楽しみでクラスの子たちにお勧めのお店を聞いたり携帯でそれぞれの好みを抑えたお店を調べたりしていることなんて、あいつらには絶対に言ってやらない。

(15.0123)

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