浮気をする男なんてクソだと思っていた。それならばイケメンでなくてもいいから、気が優しくて大事にしてくれる素敵な人とずっと一緒にいたいとも思っていたし、実際わたしが今までに付き合ってきた彼氏はそういうわたしのことだけを大事にしてくれる人たちばかりだったというのに、どうしてわたしはこんな男を恋人に選んでしまったのか。
わたしの恋人である男の口癖は「すこし優しくしたぐらいで期待するほうが馬鹿なのよ」である。正直こいつは近い将来女の子に刺されてもおかしくはないと思う。


「もう何人目だと思ってるのかな玲央」
「さあ。数えてるほうがいやらしいじゃないの」
「開き直るほうが性質が悪いと思うけどね」


ニコニコ笑いながらわたしの爪先にマニキュアを塗ってくれる玲央はたしかにわたしによく尽くしてくれるし、こいつの浮気性さえ知らない子たちからすればなるほど「できた彼氏」ではあるのだろうと思う。だが、こいつは隙あらば女の子に優しくして、その女の子が自分に惚れれば何度か遊んで、飽きれば捨ててしまうようなクズである。ならどうしてまだそんなクズと付き合っているのか。理由は簡単だ。わたしもこいつに遊ばれる女の子たちと同じなのである。この柔らかい物腰といっそ清々しいほどの徹底した女の子の扱いのうまさから逃れられないだけなのである。こいつに弄ばれた女の子たちは決まって「玲央の隣にいると誰よりも女の子らしくなれる気がするの」と言う。それもそのはずだ。こいつは男でありながら女にも近い感性を備えている。そんな玲央からすれば、女の子がどんな言葉を求めているかなんて考えるまでもなく手に取るように分かることなのだろう。そんな器用さに騙された彼女たちを憎いと思うことはない。


「今回の子は可愛かったじゃん」
「なあに、妬いてるの?あなたも可愛いところがあるじゃない」
「まあ、いいよ。そういうことにしておいてくれても」
「あらそういうところは可愛くないわ」
「どういうことよ」
「思ったことはちゃんと口にするべきよ。あなたの我儘ぐらい受け入れられる男じゃないと恋人にしちゃダメ」
「我儘言ったって叶えてくれないじゃない」
「あなただけを好きでいてほしいってこと?」
「そうね、端的に言えば」
「浮気なんて癖みたいなものよ。結局はあなたが1番好きで何度も戻ってくるんだから、気にしないで」
「だからそれを浮気した張本人が言わないでよ…」
「わたしを許してくれるあなたの優しさが好きよ」


いっそ女よりキレイな笑顔で笑う玲央の浮気癖はどうしたって治らないらしい。そりゃそうだ、本人に治すつもりがまるでないのだから手の打ちようなんてあるはずがない。だが、やはり恋人に浮気されても平気でいられるほどわたしだって強いわけじゃあない。悲しくもなるし泣きたくもなる。どうしようもなく詰りたくなるときだってあるし、いっそのこと他の人を選んでしまった方が今は辛くても幸せになれるのではないかと悩む夜だってある。
だというのにこいつはそんな夜に鍵ってわたしのところへやってきて、またわたしに優しくするのだ。そうして離れられなくする。玲央の瞳に見つめられてすこし甘やかされただけで、わたしは彼を許してしまうのだ。そんなわたしの弱さが彼の浮気を助長しているのだろうということには、すでに薄々気が付いている。それでもわたしだって治らないのだから、もういっそお互い様だ。

でも言ってやりたい。
わたしだって限界なのだ。
こんなふうに甲斐甲斐しくマニキュアを塗ってくれる程度じゃ満足できない。わたしだけ見てくれないと嫌だ。こんなので絆されてやりたくなんてない。離れたくなんてないけど、離れてしまいたい。


「玲央は、好きな人とかいるの?」
「嫌ね。あなたが好きよ」
「そういうのじゃなくて、ほんとに好きな人」
「別れ話なら聞かないわ、わたしはあなたが好きだもの」
「わたしは玲央が好き。誰よりも好き。玲央のことしか見えない。重いって思ってくれてもいいよ。玲央がわたしだけのひとになってくれたらいいのにって毎日思ってるんだよ」
「泣かないで」


わたしの涙はそんなに安くなんてないのに。玲央は細い指先でわたしの涙を拭うと、まるで子供でも慰めるみたいに簡単にわたしを抱きしめた。

この腕は麻薬だ。


「あなたを不安にさせてしまってごめんなさいね」
「そう思うなら、浮気なんて、やめてよ」
「あなたが1番よ」
「浮気しないってウソでもいいから言ってよ」
「あなたにウソなんて吐けないわよ」
「どうして浮気なんてするの」
「癖よ。ただの」
「…馬鹿じゃないの」
「不安にならないで。わたしは何があってもあなたのところへ帰ってくるわ。あなたが好きじゃなくなったら、戻らない。それだけあなたは信じていてくれればいいの」
「…クズじゃん」


玲央は返事をしなかった。
ああ、もう、とんでもない男に捕まったものだ。逃げられる気もしない。優しく細められた瞳の奥で男の独占欲がぎらついて、どうやってもわたしを逃がさないと言葉より鮮明にわたしに伝える。見せかけの優しさなんていらない。言葉で誤魔化されてなんてやりたくない。わたしはただ、彼に誠実でいてほしいだけなのに。彼とわたしの価値観は大きく違う。わたしの当たり前は彼にとって当たり前ではないのだ。たったそれだけで、こんなにも近くて遠い。

(14.0901)
いかがでしたでしょうか玲央姉…!浮気する対象が男か女かでめっちゃ迷ったんですけど、これでよかったんですかね…!もし何かありましたらメッセージからお知らせください!素敵なリクエストありがとうございました。

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