謙遜が美徳であると言われる文化の中でも、あからさまに自己を卑下することはいやらしい。そして僕は自分が優れた人間であるということを正確に理解していた。だがこれは決して喜ばしいことではない。誰よりも優れているからこそ、僕は常に正しくあらねばならなかったし、勝ち続けなければならなかった。そのプレッシャーに耐えることができる人間がこの世にどれだけいるというのだろうか。少なくとも、僕は僕以外にそんな人間を知らない。だからこそ、そんな僕が求めたのはつがいのような女性だった。そこらにいるような女になどまるで興味が沸かない。僕と同じである必要はないが、ストレスにはならない程度に僕と同じことができる女でなければ、隣に連れることはできないだろうと考えた僕が選んだ相手は、なるほど僕に1番近い女性だった。


「征十郎、待った?」
「いいや、待っていないよ」
「ごめんね?どうしてもシャワー、浴びたかったの」
「おまえなら汚くなんかないのにね」
「そう言う問題じゃないのよ」
「分かってるさ。何年の付き合いだと思ってる」
「そういうところ好きよ」


クスクス笑いながら何の抵抗もなく僕の膝の上に跨る彼女に流れている血は、僕とまったく同じものだ。その証拠に彼女の背を隠すほどの長い髪は僕と同じ色だし、瞳の色だって同じ。だというのに僕のものとはまったく違うように感じられる触り心地の良い髪を僕が気に入っていることを知っている彼女は、決して髪を短くしようとしない。そして僕がそれに気をよくしていることを理解しているのだろう彼女はそんな僕を見て猫のように目を細めるのだからたまらない。やはり僕には彼女しかいないのではないだろうかと思うほどだ。父さんは僕たちがこんなことをしているだなんて、知りはしないだろう。爪の先ほども僕たちに興味や関心などないひとだ。僕たちが勝利し続ける限り、僕たちに与えられる自由は永遠そのものである。


「明日は何の予定もないの?」
「ないよ、調整してきたからね」
「わたしもよ」
「なら、この2日間はずっと一緒にいられるな」
「ほんとうは毎日でも一緒にいたいくらいなのに」
「さすがに僕たち2人だけでこの家に住むのは骨が折れるだろう」
「掃除も料理も面倒だしね」
「高校を卒業すれば、手頃な部屋を借りて住もうか」
「それ、素敵」


そう言いながら僕にキスをする彼女の唇はやわらかくて、ふわりと香る石鹸の香りにどうしようもなく欲情した僕は、おそらく性的倒錯者なのだろう。どう考えたってまともじゃない。同じ血の流れている双子の妹に恋愛感情を抱く時点で狂気の沙汰ではないというのに、その妹と身体を重ねるのだ。おそらくこの世に神とやらが実在するのであれば、こんな僕たちを見てさぞやお怒りのことだろう。だが、神はここにはいない。今ここにあるのは僕たちだけだ。もし実在したとしても実際のところこれっぽっちだって意に介することはないし、仮に天罰が下ったとしても彼女から身を引くつもりなど毛頭ないが。


「征十郎」


彼女は基本的にキスの時目を閉じない。彼女は自分の美しさに誇りを持っていて、尚且つ、自分の顔だけでは飽き足らず、そんな自分と似た顔をしている僕の顔ですらも四六時中見つめていたいらしい。ちゅ、ちゅ、とまるで子供がするようなキスばかりを繰り返す彼女の唇を舌で割れば、彼女はいたずらっ子のような瞳をさらに細めながら先ほどまでの幼いキスがウソのように舌を自ら割り込ませてきた。だが、これを教えたのは僕だ。何も知らなかった彼女は、僕がそうあってほしいと思っていたとおりに成長して、今僕に甘えている。
だから他の女になど欠片も興味が沸かないのだ。彼女以外の女を抱くなんて、吐き気がする。おそらく欲情すらできないだろう。将来的にもしかすると父さんが僕たちにと結婚相手なんかを連れてくることがあるかもしれないが、そういった営みがまるでできなかった場合はどうなるのだろうか。僕たちの過失となるのだろうか。…まあ、いい。まだまだ先のことだ。今は考えない。


「いつかわたしたち、離れ離れになるのかしら」
「そうはさせないさ」
「わたしたちが勝っていられる内は?」
「おまえは負けるつもりなのか」
「まさか。負けるのなんて大嫌いよ」
「僕もだよ」
「なら一生このままね」
「おまえは嫌なのかい」
「征十郎と離れるなんて、負けるのと同じぐらい考えたくない」


そんなくだらないこと言わないで、と僕を押し倒す彼女とならどこまでも堕ちていけるとさえ思う。もし誰かを愛するということがその人と不幸を共にしてもいいと思えるほどの自己犠牲を伴うものならば、僕はすでに彼女とその覚悟を決めているのだろう。どこまでも、どこまでも。彼女が僕を連れて行こうとするのならその行先などどこでも構わない。ただ2人だけでいられたらそれだけでいい。

だが、僕だって分かっている。この世に蔓延る許されないことには何かしらの理由が用意されているのだ。きっと僕たちの愛は許されない。僕たちの中でしか完結されないこの恋は、いずれ終わりを迎えるだろう。そのときがいつなのかは分からない。ただ、それが死ぬときであればいいと思った。そのためなら、何だってできるとも思えた。そんな覚悟で彼女を引き連れて、終わりを迎えたい。何を失っても、彼女さえ傍にいれば、それでいい。

(14.0901)
柳さま、こんな感じでよろしかったですかね…!もしお気に召しませんでしたらいつでもメッセージにてご連絡いただけますと幸いです!素敵なリクエストありがとうございました。

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