大事なことだから最初に言っておこうと思うが、ヴァリアーは男所帯である。女もいるにはいるが、その大半はメイドで唯一の例外は最近幹部になったなまえぐらいなもので、メイドたちは機械的に仕事をするだけでろくに口を開くこともないし(これは下手に口を開いてヒットマンの機嫌を損ねでもしたら殺されるかもしれないから、というメイドたちなりの自己保身らしい。その判断は正しいと思う)そうなると唯一の女というのは俺たちの感覚的に言えばなまえだけになるのだが、そんな紅一点の彼女には想い人がいる。ちなみにこれはべつに彼女と歳の近い俺だけが知っている秘密というわけでもなんでもなく、おそらくヴァリアーに在籍しているやつらどころかボンゴレのやつらだってほとんどのやつらが知っているに違いない。そしてその彼女の想い人とやらも、また彼女のことを好いている。
そしてここでもう1度改めて大事なことを言おうと思う。
ここはヴァリアー。男所帯なのである。
そんな若い男女の惚れた腫れたを生暖かい目で優しく見守ってやれるような寛大な心をもった男はいない。


「スクアーロ!この間任務でロシアに行ってきたんだけど、ロシアのお土産持ってきたよ!はい、ウォッカと帽子!」
「いや、ウォッカはわかっけどよお、なんで帽子なんざ俺に買ってきたんだあ?」
「似合いそうだなーって」
「それを言うならおまえのほうが似合うだろうがあ」
「わたし帽子とはかなり相性悪いんだよね」
「被ってみろ」
「え、やだ!」
「テメエ自分はかぶらねえで人にはかぶせようとするなんざ、いい度胸じゃねえかあ!」
「だってスクアーロは美形じゃん!」
「それを言うならテメエだって美人じゃねえか!」
「美人じゃねーし!」


今日も今日とてギャアギャアとまるで中学生かのようなやりとりを交わす2人の頬は赤い。だというのに、こいつらはこれでお互いに片思いだと思っているのだから尚更性質が悪い。というよりどうしてこの状況を見てお互いにまだ片思いだなんて発想が浮かぶのか。理解ができないが、かといって当人たち以外に理解ができるようなやつもいないだろう。ここ最近あいつらがまるで中学生日記のような痴話喧嘩を繰り広げるおかげですっかり閑散としてしまった談話室で仕方なくルッスーリアとクッキーをつまみながら事の顛末を見守るのにも慣れてきたころ、どうやらあいつらは俺にとって非常によろしくない最悪の思いつきを閃いたらしい。ぶっちゃけ、もしこいつらが仲間じゃなければ一瞬にして殺してやったかもしれないと思うほどに殺意は沸いたが、俺もすこしばかりは大人になったようである。
まず、目の前で真っ赤な顔をしたまま視線を彷徨わせている彼女から説得しようと思う。


「…で、めんどくせーけど聞いてやんよ」
「スクアーロ好きな人いるっぽいんだよね…」
「へー、じゃあ俺はこれで」
「聞くって最初に言ったんならもうちょっと本腰入れて聞いてよ!!お願いだから!ベルしかいないんだから!!」
「分かったから泣くのやめろよ…」


まるで子供のようにわんわんと泣きながら俺に訴えかける彼女の右手はそれでも休むことなくお菓子を物色し続けていて、ぶっちゃけこいつのメンタルがだれかに相談することを必要とするほど弱いものだとは思えなかったが、それでも一度不可抗力だとしても乗りかかった船には仕方なく乗っておくことにした俺は優しいと思う。おそらくルッスーリアあたりならティーセットすら片付けてしまっているに違いない。


「どうしてそう思うわけ」
「好きな人いるのって聞いてみたんだけど」
「え、まだその段階?」
「勇気いるじゃん!」
「はいはい、あっそ。で?」
「いるんだって!」
「そりゃいるんじゃね」
「ミカちゃんかなあ」
「誰それ」
「メイドのクールビューティーな子!」
「いや、知らねえし」
「じゃあエリーちゃんかな」
「いや、だから誰それ」
「メイドの小柄なかわいらしい子だよ!」
「おまえメイドと仲良いよなー」
「いい子たちだもん」
「けど、隊長はメイドの顔と名前なんざ一切一致しねえと思うぜ。俺だって一致しねえもん。隊長なんかもっとだろ」
「えーそうかなあ…」
「しし、本人に聞けば?」


我ながらナイスなアシストだ、と思っていると、彼女はなんと真っ赤な顔をしたまま、それでもこれ以上ないほどの名案を思い付いたかのような顔をして「ベル!聞いてきてくれない!?」なんて言いながら俺の手を握ってきたものだから、ほとんど反射神経レベルで彼女の口にテーブルにあったありったけの菓子を詰め込んでやった。ちなみにその様子を見ていたルッスーリアいわく「私なら談話室から飛び出すぐらいのパンチをお見舞いしてるかもしれないわね」だそうなのだから、そろそろあいつらは何かしらの進展を見せないとヴァリアー内のだれかと内戦でも起こすのではないだろうか。それは俺ではないだろうが、もはやレヴィなんかは限界である。
しかし厄介なのは彼女だけではない。この場合厄介なのは、名実ともに初恋真っ只中の彼女ではなく、彼女とは違い慣れているはずの作戦隊長ですらもまるで初恋を知ったばかりの少年のように思考回路を爆発させていることこそが厄介なのだ。


「…で、今度はスクアーロかよ」
「今度はって何だあ」
「こっちの話だっつーの」
「そんでよお、相談に乗ってもらいてえんだが」
「今日の晩飯ならもうシチューに決定してるらしいぜ」
「晩飯なんざどうでもいいぞお!…ただ、シチューはあいつの好物だな。あとで伝えてやったら喜んでくれると思うかあ?」
「たぶん俺の予想だけど、メイドたちがすでにあいつに伝えてると思うぜ」
「メイド片っ端からクビにしてやりてえ」
「やめろよ、もうメイドなんかそうそう来てくんねーんだから。うち万年人手不足じゃんか」
「それはそうだがなあ」
「で、相談ってのはシチューについてだっけ」
「ちげえ!…あいつ、オフ何してるか知ってるかあ?」
「なんで俺に聞いたわけ」


仲いいだろ、あいつと。とかなり不服そうな顔をして言うスクアーロに、そのぐらい自分で聞いてこいと言ってやりたい。というよりどうして俺は自分よりいくらか上の男からこんな初歩中の初歩の恋愛相談を受けているのだろうか。作戦隊長としては尊敬しているが、こと彼女に関してこの男は一気に情けなくなる。そのうちボスからの酒瓶攻撃を喰らう羽目になるのではないだろうか。だが、俺はあえて声を大にしてそれを斡旋したい。こんなもの俺の手には到底負えない。


「つうかオフとか設定してんのスクアーロだろ。自分のと合わせてショッピングにでも連れてってやりゃいいじゃん」
「ショッピングだあ?…好きなのかあ」
「女は大概好きっしょ。それにあいつ車運転できねーから、車出してやったら喜ぶんじゃねーの」
「そうかあ!!ありがとうなあ!!」


ただ、やけに素直に引き下がるところだけは彼女よりスクアーロのほうが善意的だと言えた。まあいい歳をした大人なんだから俺に頼る前に自分で行動を起こせよと言ってやりたい気持ちは山々だが、そこはもう目を瞑ってやるしかないだろう。はじめての本気の恋とやらに浮足立っているスクアーロの様子はそこそこ微笑ましかったし、このままにしておいてやることにする。

だが、ここまで協力しておいて、一向に進展しないやつらの関係性をじれったく思うことだって俺にもある。俺だって神様ではないのだ。いっそ殺してやろうかと思う程イラつくこともある。けれどそれでも、あいつらが嬉しそうに会話をしているのを見ていると和むのだ。いつものじゃれあいをして、緊張したけどすこし手に触れられただの、抱きつけただのと嬉しそうに報告してくる彼女の声を聞くのは俺も嬉しかったし、彼女にそんなふうに甘えられて緩んだ口元を隠しながらヒットマンらしからぬ笑みを浮かべるスクアーロの姿も決して悪くはない。

だからもうすこしぐらいはこのままでもいいか、と思ってしまうのだ。なにせここは男所帯の殺し屋集団。あんなにも清い恋をする人間の姿など、到底見れたものではない。

(14.0824)
あんまりスクアーロとヒロインちゃんが出てこなかったのですが、こんな感じでよろしかったでしょうか…!もしお気に召しませんでしたらいつでもメッセージにてお知らせいただけますと幸いです…!それでは素敵なリクエスト本当にありがとうございましたー!

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