「なまえちゃんの彼氏この間見たよ!年上のイケメンだったよね、どこで知り合ったの?」そんな不愉快すぎる質問はそれこそ耳にタコができるほど聞いてきた。そしてそのたびにあの男の粘着質っぷりに辟易とする。あのころはただ子供をからかっているだけだろうと思っていたが、まさか高校生になってもストーキングまがいの愛のアプローチとやらが継続するだなんて、あのころのわたしはまったくもって想像もしていなかった。
だがわたしもわたしでこれだけの年月あの男に纏わりつかれていればそれなりにあの男の無茶ぶりにも順応してしまうようである。


「なまえって運動神経いいのに部活とかしないんだね」
「あーわたしは部活禁止だから」
「門限とかが厳しいの?」
「いや、親じゃなくてストーカー」
「え?」
「学校終わるのが遅いのはダメだって言われたからね。部活には入らない」
「ちょっと待ってちょっと待って。ストーカーのためにそんな制限かけてるの?部活本当はやりたいなら一緒にバレーしようよ。即レギュラーだよきっと」
「部活やらないのはわたしが面倒くさがりだってのも大きいからバレーはやんないよ」
「それにしてもストーカーって…。警察とかには相談した?」
「そのストーカーは背が高い男前風の黒ハットの男だよ」
「え?彼氏じゃないの?」
「何度も言ってるじゃん。彼氏じゃないよ。ただのストーカー」


しかしあのストーカーは何かと使えるのも事実だ。
菓子パンばかり食べてると身体を壊すぞ、なんてお前はわたしの母親かと言いたくなるようなセリフと共に渡され始めた弁当はだんだんとレベルがあがってきている。今ではうちの母親より料理上手なぐらいだ。もうそろそろ作ってもらいはじめてから1年にはなるだろうか。最初はイタリアンしか作れないと明言していたリボーンの弁当はどこの高級レストランだと言いたくなるようなラインナップだったが、今は小さな弁当箱に所狭しと並ぶ和食のどれもがわたしの好物ばかりで箸が進む。結構な偏食で実の母親すらも手を焼いていたわたしが弁当箱を完食するほど食べられるだなんて、とここ最近は母親もすっかり感動しており、父親ともいつの間にか懐柔していたらしいリボーンは家族公認の婚約者のような存在になってはしまっているが、わたしからすればいくら使えるといってもあんな男はただのストーカーである。
ただ、わたしの話を聞いても葛城さんはあまり理解ができないらしく、「いや、だからそれ彼氏じゃない…?」と首をかしげているが、あんな男が彼氏だなんて笑い話にもならない。ただのロリコンストーカー野郎だ。ただこの考え方は獄寺はおろか山本にも理解してもらうことはできないが、恋愛なんてのは当事者同士の了解があってこそ成り立つものである。わたしがストーカーだと感じているのなら、それがすべてだ。

ただ、ストーカーだなんだと喚いているのは彼氏ではないことを証明するのにそれが一番手っ取り早いからだ。たしかにわたしたちは恋人同士ではないが、友人でもない。どちらか片方が程度はどうであれ相手に好意を抱いているのであれば、好意を抱かれている人間はその対象を友人と呼んではいけない。それはあまりにも酷だろう。妙なわたしのこだわりだ。

だがそれならわたしたちの関係は何なのだろうか。たしかに、毎日学校までバイクや車で迎えに来てくれるリボーンの誘いに応じるわたしの姿は、ストーカーに対するものとは明らかに異なるだろう。


「チャオ!今日は早いじゃねえか」
「いつもと同じでしょう」
「ただ俺がお前に会いたかっただけかもな」
「そんな歯の浮くようなセリフ、よく言えるものね」
「惚れた女を口説くのに抵抗なんざ感じてる暇ねえだろ」
「イタリア男ってのはみんなそうなの?」
「イタリア男がみんなそうなわけじゃねえ。俺がそうなんだ」
「ふーん」
「逆にこんないい女を放っておくほど日本の男ってのは見る目がねえのか?」
「そこらの男の手に負えるようなおしとやかな女じゃないからじゃない?」
「なら尚更俺にしとけ」
「考えとく」
「今日はえらく俺に優しいじゃねえか」
「ただお弁当が美味しかっただけよ」
「そう言ってもらえて光栄だぞ」


相変わらず校門に立っているだけで女子生徒の注目を一身に集めるリボーンの隣に並ぶのにももう慣れたものだ。前までは女子の歓声やら妬みやらが煩わしく隣に並ぶのも嫌がっていたものだが、女子たちの扱いにも手馴れてきた。それに高校生になって彼女たちも少し大人になったのか、露骨ないじめはなくなってきたのである。まあそれも葛城さんいわく「なまえちゃんがキレイだから誰も太刀打ちできないって思ってるところがあるし、誰も挑まないんだと思うよ」だそうだが、わたしはそんな高嶺の花ではないと思う。現にここまで生きてきてリボーン以外の男に告白の一つもされたことがないのだから。

そして当たり前のようにわたしのカバンを持ったリボーンのエスコートに従い、流れるように助手席に座り込む。それを確認して運転席に乗り込んだリボーンを見て思うのは、なぜこれほどまでに整った顔をした男がわたしのように歳の離れた女の子に好意を抱くようなロリコン野郎に成熟してしまったのかということだ。よっぽど複雑な家庭環境があったりだとか、ヒットマン独特の劣悪な幼少期を過ごしていたとしか思えない。
しかし沢田いわく「それ全部本気で言ってるんだとしたら俺はなまえちゃんを疑うよ…」だそうなのだからわたしの味方なんてのはもうほとんどいないようなものである。


「どっか寄りてえところはあるか?」
「どこも」
「何だ、いつもどっか行きたがるくせに」
「クラスメイトに見られて彼氏と間違われた」
「もう彼氏みてえなもんじゃねえか」
「勘違いしないでよ。あんたはわたしにとってただのストーカーよ」
「ストーカーの車になんか大丈夫なのか?」
「もう知った仲じゃんか」
「言ってくれるじゃねえか」
「ねえ」
「なんだ」
「そろそろわたしのことが好きなんて冗談やめたら?」
「どういうことだ?」
「ビアンキさんみたいな美人が傍にいてわたしを選ぶんだとしたら、わたしはそれこそほんとにあんたの頭を疑うわ」
「俺はなんでおまえがそこまで自分を卑下するのかわからねえがな」
「わたしは平凡な女子高生だもん」
「勝気なところがまた好きだぜ」
「口説くのは癖?」
「これで落ちてくれりゃ言うことはねえな」
「安い女に見られたもんね」


ゆっくり進む車は、おそらくわたしが途中でどこかに行きたいと言いだしても大丈夫なようにしてくれているのだろう。まったくどこまで気遣いをしてくれるつもりなのだろうか。


「こんなに優しくされたらわたし他の男じゃ満足できなくなりそうだわ」
「だから俺にしとけ」
「無理矢理な理論ね」
「どうせここまできたんだ。俺以外の男で満足できるわけねえぞ」
「すごい自信じゃない」
「当たり前だ。おまえを落とすのに何年かけてると思ってる」


自分でも分かっているのだ。おそらくわたしはもう他の男では満足できないようになっているのだろうし、わたし自身だっておそらくは他の男に合うようにもつくられてはいない。けれどここで簡単にこいつのものになってしまったら最後、永久にわたしがこいつに負けてしまうような気がして素直に頷いてやる気にならない。
こいつのものになってやってもいい。
けれど、それはこいつに負けたという形にしてはならない。
ここまできたら簡単に頷いてやるつもりはないし、長丁場になると分かっているのなら、わたしを手に入れたいという覚悟を骨の髄まで見せてくれなければ。


「ばーか、まだまだだっつの」
「ああ。何年かかってもおまえを手に入れてやるつもりだぞ」


嬉しそうに笑うリボーンにわたしの本心は伝わってしまっているのだろうか。
けれど、そろそろクラスメイトたちに彼のことをストーカーだと伝えるのはやめようと思う。


(15.0530)

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -