友達いわく、わたしはイケメンと縁があるらしい。
休日に一人でぶらっとウィンドウショッピングをしようと外出すれば、ふらついた拍子にヒールのストラップが千切れてしまい倒れ込む寸前に長身のイケメンに支えられ「大丈夫かい?」なんて優しい言葉をかけられたと思ったら、「せっかくだから靴を見に行かないか」なんて誘われてうっかりデートのようなものをしたかと思ったら、「今日は楽しかったから連絡先を教えてよ」なんて夢のような一言をいただき、その日の夜に「またデートしてね」なんてメールがきたときは心臓が止まるかと思った。
またある時は、友達との待ち合わせ中に子供が持っていた風船を手放してしまい大号泣しているところに出くわして、その風船が木にひっかかっていたものだから小さなころの勘を思い出しながら木に登ってその風船をとってみたところ、降りるに降りれなくなり、困っていたところに現れたこれまた長身のイケメンが「ほら、降ろしてあげるっスよ」なんて申し訳なさ過ぎる申し出と共にわたしをドラマさながらの救出劇で助け出してくれ、その上友達が来るまで話し相手に付き合ってもらったりした。その後その友達から「アドレス教えてほしいって言ってるんですけどいいですかね」と言われたので快く了承したところ、なんと相手はあのイケメンモデルの黄瀬涼太だったというのだから驚きの連続だ。

そんなこんなでわたしのまわりにはイケメンが溢れている。しかし、そのイケメンは決してわたしを取り合ったりはしない。わたしのために争わないでーなんてドラマみたいなことは起こらない。
学校中でイケメンだと騒がれているらしいわたしの騒がしい幼馴染は会うたびにわたしにドロップキックをしかけようとしてくるし、塾が一緒だった先輩はわたしの服装にいちいちダメ出しをしてくるし、今度会ったらあの特徴的な眉毛を一切の個性のない眉毛に変えてやろうかと思う程だ。そんな感じでわたしのまわりに集まるイケメンたちはわたしに対しての容赦が一切ないことで有名だというのに、これは一体どういう風の吹き回しだというのか。神様のイタズラか。


「なまえちゃん、こっちのジェラートも美味しいよ」
「なまえっち、こっちのトルコ風アイスも超おいしいっスから!」
「うん、お腹いたくなるね!」


そんなこと気にするなんてかわいいなあ、と笑う氷室さんと、食べきれなかったら俺が食べてあげるっスから!とはしゃぐ黄瀬くんとに挟まれたわたしは、さながら動物園のパンダばりの注目を集めている。こんなに注目を集めることなんてきっと一生涯ないだろう。非常に気まずい。
けれど普段からおそらく注目を集めまくっているイケメン二人は意に介さずと言った様子でわたしにそれぞれのアイスを進めてくるのだが、わたしはあまりお腹が強いほうではない。おそらくそんなに食べたらトイレに引きこもらなければならなくなるだろう。

いや、その前にどうしてこんなことになったのか、それを説明する必要があるだろうか。

まず、わたしはいつものように休日何の予定もなしに一人で街に繰り出した。この時点でおそらく黒子は「友達いないんですか」とわたしに憐みの目を向けてくるのだろうが、わたしは一人で外出するのが好きなだけであって、友達がいないわけではない。
すると出先で氷室さんに会った。
せっかくだから一緒にお茶でも、というところで、黄瀬くんに会った。
わたしとしてはこんなところで友達二人に会ったものだから珍しいこともあるものだと、黄瀬くんにも手を振ったのだが、その瞬間の黄瀬くんの表情の変化といったらさすがモデルだと感服したぐらいだった。
まるで飼い主に出会えて尻尾を振るかわいらしいワンちゃんのような笑顔から、いきなりヒットマンのような冷徹な表情に変わったのだ。

そしてそれからは氷室さんと黄瀬くんに挟まれて、ずっとこんな調子である。

悪いがわたしもあまり状況を理解していない。


「というかお2人とも予定があったんじゃないんですかね」
「せっかくなまえに会えたんだから予定なんて後にずらせばいいじゃないか。そんなこと気にしなくていいんだよ。優しいなあ」
「え、優しいんだろうかこれは」
「そうっスよ!俺だって別に仕事ってわけじゃなかったし、なまえっちと遊べるほうが楽しいし、なまえっちさえよければ一緒させてほしいっス」
「えー…まあ2人がそう言うならそれはそれでいいんだけど」


まあ、1人でショッピングを楽しみたかったなんて口が裂けても言えない雰囲気の中、とりあえず2人から分け与えられたアイスを両手に道を歩くわたしの姿は一体どんなふうに見えているのだろうか。わたしならどんな欲張り女だとこっそり笑ってしまいそうになるかもしれない。だがわたしだって別にどちらのアイスも食べたかったわけではないのだ。どちらかといえばアイスよりもジュースが飲みたかった。やっぱりこれも口が裂けても言えないことではあるが。

しかしどうしてこの2人は休日の予定を後伸ばしにしてまでわたしと一緒にいたいのか。わたしが黒子に友達いない扱いを受けるのはまだ分かるとしても、この2人なら休日に一緒に行動するような友達なんて腐るほどいるだろうし、その中でわざわざ会ったばかりのわたしをチョイスする理由がよくわからない。

しかしそんなことを言ったら最後、2人は持ち前の優しさをフルに披露してわたしに気の利いた言葉をかけ続けてくれるのだろう。そんな気まずい時間をわざわざ繰り広げることもない。とりあえず2人がわたしと一緒にいたいというのであれば、2人ともそうそう会えるような人たちではないし、黙って行動を共にしよう。


「なまえっちはいっつも休日とか何してるんスか?」
「えーぶらぶら一人ショッピングしたり、映画見に行ったり、友達とカラオケに行ったり?一般的な高校生って感じの過ごし方してるよ」
「へー!ショッピングなら俺も連れてってよ!俺結構女の子の服選ぶのとかうまいよ!それにショッピング好きだし」
「あーうまそうだね」
「映画も新しいやつで気になってるのあるんスよ!よかったら今度一緒に行かねっスか?なまえっちも気になってるのとかあったら俺わりと試写会とか融通しやすいし」
「それすごいな!ぜひ一緒したいわ」
「それならディナーは俺とどう?俺結構いいレストラン知ってるんだよ」
「氷室さんはそういうの詳しそうですよね。氷室さんそういえば趣味ダーツなんでしたけ」
「ダーツに興味があるのかい?」
「すこし!おしゃれじゃないですか」
「なら今度教えてあげるよ」
「あはは、氷室さんが暇なときにぜひ!」
「なまえのためならいつでも空けるさ」
「部活は?」
「それなら俺だってそうっスよ!」
「いや、だから部活は?」


それはそれだと笑う2人にとってわたしと遊ぶことは部活よりも大事なことなのだろうか。わたしのまわりには部活に青春のすべてを捧げているやつらばかりだから、なんだかうまく飲みこめない。しかし彼が大丈夫だというのであれば大丈夫なのだろう。いや、黒子に一度相談しておいたほうがいいのかもしれないが、なんというかこの2人と一緒にいると普段慣れない女の子扱いへの対処方法が分からなくて戸惑いを隠せなくなってしまう。そんな姿を見て「かわいいなあ」なんてからかってくるものだから余計にどう反応したらいいのかわからなくなってしまって、もう何でもいいから誰か助けになるような人が現れないだろうかと周りを見渡すが、そんな都合よく知り合いが通りかかるはずもない。わたしにはこの2人は早すぎたのかもしれない。

しかもわたしのバックを自然に持ってくれたり、段差があるところに差し掛かると手を取ってくれてエスコートしてくれたりと、近頃の男子高校生とやらはここまで女の子への扱いに対して紳士的になっていたのか。完全に取り残されている気分である。


「でも次は2人がいいなあ」
「いや、次は俺と2人で遊んでほしいっス」
「いや、別に2人で遊ぶのは構わないんだけど、なんでわたしなんだ。わたしと2人で遊ばなくてももっと仲のいい友達なり美人なお姉ちゃん連れたほうがいいんじゃないですかね」
「なーに言ってんスか」


ほんとにわかんないの?俺たちの考えてること。
そう言いながらわたしの目を覗き込むイケメン2人の整いすぎた顔が視界いっぱいに埋め尽くされたかと思えば、両方の頬にやわらかい何かが押し付けられた。
…なんというか、まあ、ドラマみたいな展開だと思いこそすれ、いざ自分がそんな環境に陥ってしまったら笑うこともできないらしい。

これはもう黒子に相談したってどうにもならないに違いない。それどころか、憐みの目を向けられるだけだ。今まで彼氏の1人もいたことがなかったというのに、神様とやらはどうやらかなりの気まぐれで人の運命を左右してしまう人のようだ。

(15.0720)

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