クラスの子たちはみんな口を揃えて「バスケ部のレギュラーメンツ、イケメンばっかりで羨ましい〜わたしもマネージャーやりたい!」なんて言ってくれるけれど実際マネージャーの仕事は体力勝負なところがあるし、イケメンと言われている彼らがその顔通りに落ち着いた性格をしているかと言われればそうではないし、どちらかというと平均よりいくらか子供っぽい彼らの相手はそこそこ疲れることもある。だが、それでも楽しくなければ部活だって続けてはいないし、わたしはそこそこ彼らのことを友人として気に入ってもいた。
だが、部活の帰りコンビニ寄ろうよ、その一言でまさかこんなに揉めることになるだなんて夢にも思わなかった。


「中華まんとは何だ」


最初は赤司のこの一言から始まった。
だが、この言葉を聞いた瞬間に青峰をはじめとしてレギュラーメンバーたちはまるでこの世の終わりのような顔をして、それから各々のオススメの中華まんを語り始めたのだが、ここまではわたしも微笑ましく彼らを見守ることができていたのだ。うんうん、中華まんを知らないキャプテンに何がいいか教えてあげたいんだね、そうなんだね。まるで子供が父親に今日食べた美味しいものを懸命に伝えようとしているような姿に胸があたたまるのを感じていたころから20分後、わたしはやつらがどれだけ我の強い人間だったかを思い出したのである。


「だから中華まんは絶対あんまんだし〜」
「俺も紫原に同意なのだよ。あんまん以外は邪道でしかない」
「みどちん気が合うね〜」
「あんまんなんて子供の食べるものっス!絶対ピザまんっスよ!」
「僕からしたらピザまんも子供が食べるものだと思いますけどね」
「なら黒子っちは何派なんスか!」
「僕はカレーまん派です」
「意外すぎるわ」
「あーカレーも美味しいよね〜」
「紫原!裏切りなのだよ!」
「どちらかというと俺はスナックが好きなだけで、餡子教に入信してねーし」
「誰が餡子教だ!」
「うるせーんだよおまえら!絶対肉まんだろ!」
「肉まんなんてスタンダードすぎるのだよ。赤司は絶対にあんまんだろう」
「よりにもよって中華まんであんまん選ぶ意味がわかんねーわ」
「なまえっちはどれ派っスか!?」
「心からどうでもいいわ」


もう20分はずっとこの調子で、かわいそうな赤司はこの中でナンバーワン中華まんが決まるまで中華まんデビューすることができないらしい。かわいそうな赤司。わたしのオススメは何だ?と聞いてくれたけれど、ぶっちゃけわたしにそこまでの中華まんへの愛着信はないし、オススメを語るほど積極的に食べたいと思ったことがないので少し言葉を濁しておいたが、なぜか当の本人である赤司ではなく中華まん口論を繰り広げている彼らからすればそんなわたしの態度は気に入らなかったらしい。


「中華まんが食べたくなるときがないだなんて、学生だったら絶対にありえないっス!なんかこだわりあるっしょ!」
「何その学生の概念。そんなのみんながみんなそうなわけじゃないでしょ。さつきだってそんな飢えてないじゃんか」
「桃っちは女子力高いから」
「黄瀬早死にしたいの?」
「目が怖いっス!」
「女子ならやはりあんまんだろう」
「あんまんとは女子が食べるものなのか?」
「いや、女子をはじめとして万人に受け入れられるもっとも美味い中華まんなのだよ」
「平気な顔してウソ吐くなよ!赤司信じちゃうだろ!」
「というより赤司くんが気になったものを食べればいいんじゃないでしょうか。僕たちのオススメなんて気にしないでいいですよ」
「だが聞いてたらすべて気になり始めてきたんだ」
「赤司が思いのほか可愛いんだけど」
「なら肉まんで!」
「ピザまんっス!」
「あんまんなのだよ!」
「カレーまん美味しいですよ」
「いっそ全部食べちゃえば〜?」
「さすがに買い食いで中華まん全盛はは勇ましすぎるだろ」


さあ!さあ!とそれぞれの意見を絶対に曲げるつもりのない各々だが、おそらくこのままだとあともう20分はここで立ち往生することになるだろう。これはもう遅くなると母さんに連絡でもしておくべきなのだろうか。そんなことを考えながら制服のポケットに手を突っ込みつつ彼らを見守っていたのだが、なぜか彼らの中では自分の勧めた中華まんを赤司に食べさせたやつが勝ちだとかいうルールにいつの間にか変更されていまっていたようである。
我先に!とコンビニに突撃した青峰を筆頭に、慌てたように黄瀬が後を追い、緑間、紫原、黒子、そしてなぜだか赤司までもがそれに続き、とうとう残されたのはわたしだけになってしまった。


「わけがわからん…」


たしかに買い食いしようぜ!と誘ったのはわたしだが、どうしてわたしだけコンビニの前に残されたのか。いや、追いかければいいのだろうが、あの熱気に入り込む余地がどうしても見つけられなかったのだ。まあちょっと買い物をするぐらいならそんなに時間もかからずに帰ってくるだろうと覚悟を決め、適当にスマホでネットを繋いで時間を潰していたのだが、彼らが帰ってくるのは予想通りかなり早かった。そしてやはりというべきかそれぞれの手には中華まんの入っている小さな袋が握られていて、もしかいてこのコンビニの中華まんを買い占めたのではないだろうか。それぞれが1つ以上の中華まんを手にして笑っている。


「ちょ、買いすぎじゃね…」
「赤司に食ってもらう分と、自分の分」
「食いすぎだろ家帰ったら晩御飯あるんでしょ」
「このぐらい食べた内に入らないのだよ」
「緑間も意外に食べるもんね」
「僕はきみと半分しようと思いまして」
「嬉しいけどそれならわたしの今の気分も聞いてから買いに行ってほしかったな!それカレーなんでしょ!うちの晩御飯カレー確定してんだよ黒子さん」
「大丈夫です、カレーまんは正義ですから」
「あれ、こんな話通じない子だったっけ」
「ほらほら赤司っち!ピザまん食べてみて!」
「肉まんもやるよ!」
「あんまんもやるのだよ」
「俺もあんまん買っちった〜これで赤ちんのあんまん1つ分になったね〜」
「カレーまんも差し上げます」
「……おまえらの分の中華まんがなくなるじゃないか」
「俺らは俺らの分買ってあるから大丈夫っスよ!」
「はじめて食べるのだろう。なら、1番美味しいものを知ってほしいのだよ」
「だってさ赤ちん〜」


これ俺らからの気持ちだから!と差し出された半分に割られた5つの中華まんを目の前に困惑する赤司の横顔は嬉しそうだ。まあ、こんなふうに買い食いに赤司が付き合ってくれることは稀だから、こいつらもすこしはしゃいでいるのだろう。どれだけバスケが天才的にうまくったって、彼らだってただの中学生。友達とこうして買い食いをしたりするのが楽しくないはずがないのだ。
ニコニコと人畜無害な笑みを浮かべながら中華まんを差し出す彼らの手からそれらを受け取る赤司の口角はこらえきれずに緩みっぱなしで、こんなところを見たら虹村主将は何て言うだろうか。そう思いながらわたしもコンビニへと入る。こうなったらみんなで半分こずつにしていろんな中華まんを食べようと思ったのだ。こんなふうに食べる中華まんが美味しくないはずがない。おかげでキレイにコンビニの中華まんをすべてお買い上げしてしまったわけだが構うものか。みんながこんなに楽しそうなんだもの。


「わたしも買ってきたー!」
「腹いっぱいになって晩飯食えなくなっても知らねーぞ」
「いいのいいの!こっちのほうが大事なの!」


コンビニの前で突っ立ったままぺりぺりと中華まんの包装を破いてかぶりつくわたしたちの姿を見かけたらしいクラスの友達に「選手とマネージャーが仲いいのっていいよね」と次の日声をかけられたが、それはわたしも同意する。他の部活は選手とマネージャーには距離があるものだと聞いたが、わたしたちにそんなものはない。こんなにも楽しい部活は他にないと思う。あいつらには言ってあげないけど。

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