女の子という生き物はだいたいいつの時代も年上の男に憧れるものである、というのはたしかにわたしも一般論だとは思う。クラスの女子たちはいつも年上の男が同年代の男の子たちと比べていかにセクシーで素敵かということを延々語り散らしているし(ただし8割は妄想だ)結婚するなら経済力も包容力もある年上の寛大な男がいい周囲の目を憚ることなく公言しているぐらいだ。それはもう彼女たちのこだわりはよっぽどなんだろうし、実際比較的男性が年下の女性を好む傾向にあることを踏まえれば、なるほど世界はうまく作られているのだろう。
だが、わたしは特にと言って年上の男性に憧れはないし、こだわりもない。恋人にする男なんて気が合えばそれでいいと思っているし、どちらかというとそんな彼女たちが憧れるような高級フレンチでのディナーやドライブデートなど提供されたところでうまく馴染めず居心地が悪いだけだろうと心底思う。

だが、それはわたし個人の意見であって、第三者からわたし自身がどのような評価を受けるかはまったくもって別次元の話であるらしい。


「チャオ!今日も元気そうで安心したぞ」
「昨日あんな元気だったのに今日いきなり不健康になってるほうが驚きでしょうに」
「俺は気に入った女のことは気に掛けずにいられねえ性分だからな」


そう言いながらニコニコと見た目は紳士的に微笑む男は、ツナの家庭教師であるリボーンだ。だが、クラスメイトの女の子たちがこぞって「イケメン!」と騒ぐ彼が見た目どおりに素敵なだけの紳士ではないことをわたしは知っている。だからこそため息をつくしかないのだが、彼はこんな見た目をしておきながらその道では有名なヒットマンだ。まあたしかにちょっと危なそうな雰囲気も出ていてたしかに年頃の女の子たちがあこがれる年上男性の理想像を完ぺきに形成してしまっているような男だが、わたしはこんなバイオレンスあふれる刺激なら遠慮こうむりたいし、どうしてわたしにこんなに言いよってくるのかは分からないが、それすらも実はやめていただきたいぐらいである。


「またこんなところまでわたしを迎えに来て、ビアンキさんが嫉妬しますよ。あんなきれいなひと嫉妬させるなんて」
「美人を嫉妬させるのはいい男の特権だぞ」
「それはそれでいいんですけど、わたしの命の危機すらもたらされますからね」
「俺が守るんだから心配いらねえよ」
「どうだか。いつも一緒にいるわけじゃないでしょう」
「なんだ、いつも一緒にいてほしいのか?」
「ぜひ遠慮させてください」
「素直じゃねえな」


あと、リボーンさんとはまともに会話が出来ない。これもわたしが疲弊していく原因のうちの1つだとは思うのだが、どうやらリボーンさんはわたしの反応を見て楽しんでいる節があるようなので、きっとこの気疲れする会話は延々とこれからも続いていくのだろう。まったく真意がわからない。ビアンキさんをはじめとした、あれだけきれいな愛人たちがたくさんいらっしゃる中で、わたしを遊び相手に選ぶ時点で理解なんて遠く及ばないのだけれど、実際このひとはどういうつもりでわたしの近くにいるのだろう。
そう聞いてやりたい気持ちは山々だがどうせはぐらかされるのは目に見えて分かっている。だからわたしはリボーンさんが勝手に奪い取った荷物の心配をするがてら、一緒に家まで歩いて帰るのだ。こんな日々がもう3カ月近く、毎日続いている。


「そろそろ寒くなってきたな。次迎えに来る時は車で迎えに来てやるぞ」
「車運転できたんですね」
「車でもバイクでも。おまえの好きなもんで迎えに来てやる」
「べつにどっちでもいいです」
「俺に会いたくねえとは言わねえんだな」
「本人を前にして言えるわけないでしょう」
「おまえは言えるだろうが。まあ、嫌われてはねえことがわかったからな。それで今はいい」


イタリア人だからなのか、女性の扱いに慣れているリボーンさんと歩くとき、リボーンさんの歩幅はぴったりわたしとおなじだけだ。だからわたしがストレスを感じることはない。それにわたしが気付く前にドアをあけてくれたり荷物を持ってくれたりするもんだから、もしかするとわたしはそのうちこれに慣れてしまうんじゃないだろうかなんて危機感もある。そうなったら救いようがない。だってどこの男がこんなことを当たり前のようにしてくれるというのだろうか。もしかしたらわたしはこのまま一生彼氏ができないまま死んでしまうのかもしれない。
ただ、それをリボーンさんに言うのは癪だ。だからいつも言わない。そしてそれを覆い隠すようにいつもよりもむっつりとした顔をして歩くわたしはそりゃあまあ可愛くないんだろう。まあべつにリボーンさん相手に可愛くふるまう必要性があるとは思えないからそれはそれでいいのだけれど。


「リボーンさんって暇なんですか?」
「ツナに聞いてみろよ」
「ツナはリボーンさんは多忙なんだって言います」
「その通りだろう」
「なのになんでわたしに毎日あうんですか」
「惚れた女に会いたいのに理由が必要か?」
「そういう冗談ばっかり」
「冗談じゃなかったらどうする?」
「は?」
「どうするんだ?」
「……し」
「し?」
「知りませんよ!!」


おそらくわたしの顔は真っ赤だろう。そしてそんなわたしの顔を見てリボーンさんは「まだまだ子供だな」と笑いながらわたしの頭をなでてこようとする。そんな手から逃げるのはまず無理だ。それにリボーンさんはわたしよりずっと運動神経もいいし、身長だって高い。リボーンさんがわたしになにかをしようとして、それからわたしが逃げることは実質できないのだ。それによくわからないことに、わたしもそれが嫌ではないのだから。
だから、そのまま恥ずかしくて逃げてしまったわたしの後姿を見てリボーンさんがうれしそうに笑っていたことなどわたしは知らないし、ちょっとした紫の上計画を講じていたらしいことも知らないし、その数年後、リボーンさんから真っ赤なバラの花束と一緒に情熱的な愛の告白をされることになることも、わたしは当然知らなかったわけである。

(13.0118)
美佐さま!大変お待たせいたしました…!書いててとても楽しかったんですけど、こんな感じでよろしかったですかね…!!!また何かありましたらなんなりとお申し付けください(土下座)それでは素敵なリクエストほんとうにありがとうございましたー!


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