言葉なんていくらでも取り繕えるから俺は信用しないよ、と公言している高尾は自他共に認める口達者な人間である。だからこそ言葉を信じられないのかもしれないが、それでも高尾の行動は時折常軌を逸していると思う時がある。何もかも行動で示さなければ信じようとしない高尾は、わたしが高尾のことを好きだと言っても適当にあしらうばかりで、そのくせ不安になるとすぐにわたしの愛とやらを行動で試そうとする。それが最初は手作りの菓子が欲しいだとかそんなことを言っているうちはまだよかった。ただすこしばかり面倒くさいだけで、それでも喜んでくれる高尾の姿は素直に愛おしかったのである。

けれどそんなわたしたちの姿を見て「高尾は甘いものが食べられたのだな」と驚いた様子を見せた緑間の姿を見てから、さまざまなところでの違和感に気付き始めた。
そう、高尾は誰もが認める辛党で、甘いものなんてほとんど口にしない。だというのにわたしの作ったものを欲しがる高尾はほとんど嫌いと言ってもいいだろう甘いものを、どうして欲しがったのだろうか。けれど高尾はまわりくどいことを嫌うし、わたしも正直こんなことは本人に聞いてしまった方が早いと思うタイプなのですぐさま高尾に確認を取ったのだが、そのときの高尾は嬉しそうな顔をして「おまえが作ったモン食べたらさ、俺の中におまえが取り込まれていくって感じがするじゃん?だから欲しかったわけ」なんて言うもんだから、すこし気が遠くなった。

高尾は頭がおかしい。それに気付きはしたものの、けれど、わたしはもう高尾から離れるつもりはなかった。ただ愛情確認については狂っているとしか言いようがないけれど、普段の高尾はやはり素晴らしいひとなのだ。一緒にいれば楽しいし、尊敬もできるし、好きだとも思う。そう、好きならすこしぐらいは高尾のおかしな行動にも目を瞑ることができる。
けれどそれは少しだけだ。
わたしだってしてほしくないことの1つや2つぐらいはあるし、そちらがそうやって愛情を確かめるのなら、わたしだってそうされることによって愛されていないと感じることだってあるかもしれない。それを高尾は分かっていないから、こんなことばかり繰り返そうとするのだろうか。


「あ、遅いぜ。もうちょっとでこの台蹴っちまうところだったわ」
「ちょっと、待ってよ、高尾、あんた何してんのかわかってんの?」
「えー?おまえがマジで俺を愛してくれてるかどうかの実験」
「洒落にならないんだけど」
「大丈夫、俺、おまえがマジで俺のこと愛してくれてたら死なないから」


いきなりロープの写真つきでメールを送ってきた高尾が今何をしようとしているのか、簡単に予想が付いた。だからわたしは校舎中走り回って高尾が今どこにいるのかを探したのだけれど、高尾としてはもうすこしぐらい早く到着してほしかったらしい。そんな馬鹿な。あんな場所も何も記載されていないメールを見たぐらいですぐさま高尾のいるところへ辿りつけたら、世の中GPSなんていらない。いっそGPSをつけておけばよかったと思うほど校舎を走り回ったおかげで汗は止まらないし、高尾は想像以上に馬鹿なことをしようとしているし、いっそ気が遠くなりそうだ。

高尾は首に輪にしたロープを巻きつけた状態で、土台にのぼっていた。しかもおそらくだが、もしわたしが高尾に対する愛情を十分に証明できなければ、高尾はその土台を蹴ってしまうつもりなのだろう。ああ、あんなメールを見てあんまりにも焦っていたものだから気が回らなかったけれど、わたしは1人で来るべきではなかったのだ。せめて緑間あたりでも連れてくるべきだった。


「ねえ、なんで高尾はそんなことばっかりするの」
「だって俺不安なんだもん」
「なにが不安なのよ」
「おまえが俺から逃げて行かないかどうか?」
「逃げないよ、逃げてないじゃん」
「だから俺、言葉は信用してねえんだって」
「…じゃあどうすればいいの」
「俺のこと生かしてよ」
「じゃあ降りて。お願いだから!」


ほとんど叫ぶようにして高尾に訴えてみても、高尾は飄々としているままだ。ああ、どうして高尾はこんなことをするのだろう。死んでほしいわけがない。もちろん生きていてほしいし、普通に愛を確認しあって、そこらへんにいるありふれた恋人たちのようにいるのでは高尾には足りないというのだろうか。だとしたらわたしにはもう手の施しようがない。どうすれば高尾が安心してくれるのか、わたしにはまるで分からないのだ。どんどんエスカレートしていく高尾の行動を止める手立てがわたしにはない。


「どうしたら高尾は安心してくれるの、わたしに何ができるの」
「なんでもできるよ、おまえなら」
「そんなふうに躱さないで、わたしは高尾みたいに頭がいいわけじゃないの。分からないよ、最近、高尾のことが分からない」
「俺はおまえのこと、分かってるよ」
「ならどうしてこんなことするの」
「怖がってるよな。悲しんでるよな。でもな、俺も悲しいよ。おまえが俺のこと、理解してくんねーから」
「…許して」
「だーめ、許さない」


まるで天使みたいな顔をして笑う高尾を壊したのは誰なのだろう。あるいは元から高尾は壊れていたのだろうか。そうでないとしたら、やはり、高尾を壊したのはわたしなのだろうか。たしかに高尾には嫉妬深いところがあった。けれどただの友達なのだと説明すれば高尾は理解してくれていた、理解しようとしてくれていた。そんな高尾の意見もそこそこに自分のやりたいようにやっていた罰が、これなのか。
ああ、そうだ。そんなことぐらいたいしたことはないだろう、と思っていたのは、わたしの価値観だった。高尾には高尾の価値観があったのに、わたしはそれらを蔑ろにして、高尾を他の人の定義に無理矢理おさめようとしていたのだ。

きっとわたしが悪い。


「わ、わたし、髪切るよ」
「え?」
「男の子とももう話さない。高尾だけの女の子になるよ。だから、お願いだよ。お願いだから、そこから降りて」
「えー髪切っちゃうの?まあ俺ショート好きだけどさ」
「ハサミ、ある?」
「あるよ」
「貸して!」
「うん」


あっさりとわたしにハサミを貸してくれた高尾は、ニコニコと微笑みながらわたしが何をするかを見守っている。ああ、もうほんとうに、どうしてこんなことになったのか。緑間が見たら何て言うだろう。きっとわたしも高尾も軽蔑されるに違いない。けれど、そんなことを気にしている余裕すらもない。わたしはそのまま床を滑るようにして手元に渡されたハサミを手に取ると、わけもわからないまま長く伸ばしていた髪を切った。ばさり、ばさりと長かった髪が束となって落ちていく。もう、ぐちゃぐちゃだった。床は髪の毛だらけで、その上から涙がぼたぼた落ちていく。そのくせ悲しくて泣いているのか恐ろしくて泣いているのか、わたしにすらも分からなかった。

すると高尾はそんなわたしの姿を見て機嫌を直したらしい。あっさりと台から降りると、自分の首にかかっていたロープを難なく外してみせた。…最初からロープは十分な長さを持っていたのだ。あまりにも切羽詰まっていたものだから気が付かなかった。
しかし高尾はわたしの前にしゃがみ込むと、この世で1番愛おしいものを見るかのような甘い眼差しでわたしを見据え、それから息苦しいほどの強さでわたしを抱きしめた。


「最高だよ、なまえ」
「…し、死なないで、高尾」
「絶対死なねえ。こんなかわいい子置いて逝けるわけねえじゃん!髪の毛短いのも似合ってんね、あ、俺ちゃんとキレイに切ってあげるから安心してな?」
「も、もう怖いこと、しないで」
「しねーよ?」


俺、おまえのこと大好きだから。そう囁く高尾の言葉はあと何日もつだろう。わたしのこの髪は、高尾にどれだけの安心感をあげられただろうか。きっとその答えを知るのはそう遠くない未来のことだ。

(14.0503)
高尾をヤンデレにすると取り返しがつかないぐらいどん底にしてしまう…!すみません…!全然甘くない…!リクエストありがとうございました!!

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