地方にとんでもなく強いヒットマンがいると聞きスカウトに赴けば、そこにいたのはヒットマンとは思えないほど天真爛漫な若い女だった。ただ、その腕が確かなのは事実なようで、平隊員に背後からいきなり彼女を襲わせてみたところ武器を使うまでもなく彼らを床に求愛させることに成功してしまった。そんな彼女にヴァリアーに来るように頼み込み、彼女をこのアジトへ連れてきて一週間。俺はどうしてこんなことになっているのかと我ながら頭を抱えずにはいられない。


「お、スクアーロってばまたなまえに遊ばれてんじゃん」
「言い方を改めろお」
「でもスクアーロが遊ばれてんのは事実じゃん」
「ねー」
「ねー」
「ねーじゃねえよ…」


ぐったりとする俺の背後にまわりこみひたすら俺の頭を編み込んでいく彼女は嬉々としているが、どうにもこうにもこの光景はヒットマンのアジトにはそぐわないような気もするし、なにより俺には似合わないような気がする。というよりどうしてこんなことになったのか。理由を探したいが、そんなものは彼女の気まぐれでしかないのだからどこを探したって見当たるはずもない。彼女の行動は予測不可能なのだ。
たとえば今のようにいきなり俺の髪をいじらせてくれと頼み込んでくるときもあれば、ウェディングケーキを作りたいから手伝ってくれと言ってくるときもある。もはや意味が分からない。だが、そんな彼女のおねだりにできる限りは応えてやろうとしてしまうあたり、俺は相当に甘いのだろう。


「スクアーロの髪は長いから編み込みしやすいねえ」


ただ俺の髪を編み込んでいくだけの光景を見ているのに飽きたのだろう、しばらくしてベルはどこかへ去っていき、あとには俺と彼女だけになった。


「そうかあ?自分じゃやらねえからなあ」
「たしかにスクアーロは編み込みとかやらなさそう!でもかっこよさそうだけどねえ」
「俺は何しててもかっこいいだろうが」
「あー出た。そういうナルシスト発言。イケメンにしか許されないやつ。それで許されちゃうからスクアーロって罪だわー」
「日本にはツッコミってやつがあんだろお」
「ツッコんでほしかったの?」
「当然だろお、でなきゃ自意識過剰なだけじゃねえかあ」
「あはは、ガチで言ってんだと思ったわ」


クスクス笑う彼女が日本人であることを知ったのはついこの間のことだったように思う。ボンゴレへ連れて行ったときに沢田やその仲間たちと流暢な日本語で会話をしているぐらいならまだよかったが、その話の節々で日本に住んでいたことをにおわせるものだから、「日本に住んだことがあんのかあ」と聞いてやれば「いや、日本で生まれたし」なんて驚きの答えが返ってきたのだ。沢田たちは例外として、どうして平和な日本という国に生まれて、イタリアへ移住してきてヒットマンなんてすることになるのだろうか。だがそこは彼女だからだろう。この女が世間一般的にあてはめられるべき定義にあてはめられるような女だとは思えなかった。でなければスペルビ・スクアーロの髪を編み込もうだなんざ思うはずもない。俺を見て恐怖する女は多くいれども、懐いてくる女などほとんどいないのだ。


「どうだあ、編み込みは。うまくできたかあ」
「うーん。うまくできたりできなかったり。でもだいたいうまくできてるよ」
「そうかあ」
「スクアーロの髪、どんなキャバクラ嬢にも負けないぐらいの盛り盛りにしてあげるからね!」
「テメエそんな髪にしようとしやがってたのかあ!!!」
「新しいわたし、デビュー」
「今すぐやめろお!!」


えーだとか言いながら俺の髪から手を離す彼女は、本気でそれをするつもりだったのだろうか。いままでまわりなど注意して見ていなかったが、たしかに見てみればまわりにはコテやらヘアスプレーやら大量のヘアピンやらそういったものが散乱していたのだから頭が痛くなる。いや、ほんとうにこいつの行動は次が読めない。もし敵対しているマフィアのボスがこいつのような考え方をしている人間だったならば、俺は作戦隊長なんてすぐさま下りるだろう。

だが、こういった時間が楽しいのも事実なのである。キャアキャアとはしゃぐ彼女を見ていると、なんだか血なまぐささを忘れられそうな気がする。ただ、生きているという心地がする。いままでに彼女からもらったものは、どれだけの長い時間を生きることができたとしたって、俺1人では手に入れることのできないものだったに違いない。そんなことばかりを考える俺を彼女はどう思っているのだろうか、なんて、聞く必要もないことだ。おそらく彼女は少なくとも俺が死ぬまではここにいてくれるのだろうから。


「わたしヴァリアーに来てよかったなあ」
「いい組織だろお」
「うん、あと、スクアーロもいるし」
「そりゃよかった」
「毎日こんなふうに遊んでいられたらいいのにね」
「仕事して明日も生きてりゃ遊べんだろうがあ。しばらくは俺もテメエも死なねえよ」
「あはは、そうかな」
「少なくとも俺がその場にいりゃテメエが死ぬことはねえなあ」
「っふふ!王子様みたいだ」


そう笑いながら俺の首に後ろから抱きつく彼女はお姫様というガラではないだろう。俺だって王子様なんてガラじゃない。けれど彼女がそう言うなら、それはそれでいいような気がしてきた。結局俺は彼女がこうやってくだらない遊びをしながら満足げに笑っていてくれるならなんだっていいのである。そのためなら俺は髪の毛ぐらい自由に触らせてやるし、車ぐらい出してやるし、ウェディングケーキサイズのケーキを吐きそうになりながら一緒に食べてやる。
だからいつまでもそうして笑っていてくれよ。それだけが俺の心臓を動かすんだ。

(14.0315)

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