「なまえって赤司くんと仲いいよね、なんで?」
これはわたしが中学時代もっともよく言われた言葉だろうと思う。まあたしかに、わたしと征十郎とにほとんど共通点は見られないし(征十郎はバスケ部でわたしは帰宅部だ)まわりから見れば不思議に見えるのかもしれないが、わたしたちは幼馴染である。そりゃあちいさなころから毎日のように遊んでいれば仲良くもある。その仲の良さが多少年頃の男女のそれを逸しているとはいえども、それは征十郎が寂しがりだからだとわたしは本気で思っていたし、そんな征十郎の隣にいる時間はわたしにとっても安らぎだった。
そんな征十郎を見て緑間は「赤司はおまえに依存しているだけなのだよ」とあきれたように言っていたけれど、その言葉は妙に的を得ていたと思う。そうだ、征十郎はわたしに依存していた。けれどそれとおなじぐらいには、わたしも征十郎に依存していたのだろうと思う。


「征十郎、最近大変そうだね」
「ああ、大会が近いからな」
「ふふ、キャプテンって大変」
「それはそうだろう、キャプテンが楽をしてどうする」
「そうだね、征十郎がキャプテンであることは、勝利への一番の近道だと思うよ、だけど征十郎が倒れていい理由にはならないから、しっかり休んで」
「……そんなに顔色が悪いのか、僕は」
「ううん。他の人にはまったくわからないと思うけど、征十郎微熱あるでしょ」
「…おまえには敵わないな」


そう肩をすくめてみせる征十郎は風邪でもひきはじめているのだろう。中学のときはさすがに微熱まではわからなかったが、こうしておなじ高校に進学してそれこそ毎日のように一緒に過ごすようになってそんなことまでわかるようになってしまった。マネージャーとして部活の時間まで一緒にいるからだろうか。自分でも気が付かないほど些細なことでも征十郎のことなら気が付いてしまう。

それは、わたしが四六時中征十郎のことを見つめているからだ。けれど、征十郎が気が付かないうちにわたしに多くのものを許しているからでもある。


「そういえばクラスの女の子が征十郎のこといいなって言っていたよ、紹介してほしいって言ってたけどどうしようか」
「いらないよ」
「はは、忙しいもんね」
「それもあるが、おまえに割く時間が今より少なくなってしまうのがいただけない」
「幼馴染離れできそうにないね」
「おまえもだろう」
「そうだね、わたしもだけど、征十郎ほどじゃないかも」
「僕のなにがおかしい」
「わたしの前の彼氏、すごく怖がってたよ。学校も辞めちゃって。征十郎は何を言ったの?」
「ああ、それなら仕方がないだろう」
「どういうことよ」
「あの男はおまえには不釣合いな男だったし、あんな男を相手にしていたらおまえが僕を構ってくれなくなるじゃないか」


さも当たり前のことのようにそう返してくる征十郎の言葉は、いつだって正しいけれどいつだって歪んでいる。ことわたしに関しては、征十郎は正常な判断すらできない。それはいっそ、狂気じみていると思うときすらある。
けれどそこまでして征十郎に求められることこそが、わたしの存在理由であると本気で思っているわたしが、もうつべこべ言うことはできないのである。

わたしと一緒にいたい。たったそれだけの理由でわたしからいろいろなものを奪っていく征十郎が、わたしがいなくなったらどうなるのか、1度試してみたことがある。
彼氏ができたからごめんね、とたいして好きでもない男をしあわせいっぱいに紹介したそのとき、征十郎はひどく寂しそうな顔をしたけれど「僕のことも忘れてくれるなよ」と言った。けれど彼氏であった男はその言葉を聞いて征十郎とわたしの間にある幼馴染以上の関係性に気が付いたのだろう。わたしに、征十郎となるべく関わらないでほしいと言った。だから、そのとおりにしてやったのだ。
すると1週間もしないうちに葉山さんがわたしを呼びに来た。大変だ、大変だ、赤司が大変なんだ。そう言ってわたしの手を引いて部室へと連れて行った征十郎は、目をうつろにさせたまま、「なまえがどこかへ行ってしまう」と「強くなろう」だとか、そんなことを繰り返しながらひたすら練習をしていたものだから、わたしはそのまま征十郎を抱きしめるために走り出した。

それから、わたしの彼氏だった男は入院して、退院して数日もすれば自主的に学校を退学した。


「そんなこと言ってたらわたしずっと売れ残りになっちゃうじゃない」
「心配しなくていいよ、そうなれば僕と一緒にいればいい。おまえと結婚するのだって楽しそうだ」


そう言いながらひどく満足そうに笑う征十郎に、それ以外の選択肢なんてないのだろう。きっとわたしたちはこれからもずっと変わりなく傍に居続ける。死ぬまで、ずっと、生きている限り、征十郎はわたしから離れようとはしないしわたしも必要とされているうちは離れようなんて思いもしないだろう。
征十郎は力を持ちすぎた。だからこそ不安定に揺れる。その揺り幅を調節してやることができるだけの人間が、あまりにもいなさすぎることも問題だ。わたしとてそれができるわけではない。けれど、すこしだけ触れることはできる。それはほんのすこしだ、けれど、だれよりも深く触れることができる。そんなわたしを、征十郎は絶対に手放しはすまい。いくら征十郎といえども、孤高を愛することはできない。


「それも、アリだね」


だけどわたしとて、おなじことだ。きっと征十郎を逃がさない。わたし以外のなにも見えないといった熱に絆された目でわたしを見据える征十郎の手から、わたしはあえて逃げないのだ。

(14.0315)

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