たしかに文化祭の出し物がメイド&執事喫茶になった時点で、わたしがどちらの配属になるかは分かっていたことではあった。そしてぶっちゃけそんなわたしの姿を見て青峰の反応も、分かっていたことではあったかもしれない。


「…おまえのクラスメイド喫茶って聞いてきたんだけどよ、おまえメイドじゃなくね?」
「そうだね。執事だね」
「いやいやおかしいだろ」
「いやいや逆に考えて。わたしのメイド服とかどこにも需要ないから。執事のほうが需要あるから」
「俺に需要があんだろーが!」
「おまえだけだろそれ!」
「つうかおまえが1番かわいいじゃねーか!1番かわいいやつがメイド服着ねえでどうすんだよ!」
「それもおまえだけだわ!」


相変わらず恥ずかしいことを廊下であろうとお構いなしに喚き立てる青峰が引くことはないだろう。というよりわたしの分のメイド服なんて最初から用意されていないし、今日はとりあえず執事でいなければならない。それにわたしの執事はわりと女子生徒にウケがいいらしく、中性的な執事がいるらしいと学校中で噂になっているらしい。まあ、中性的という言葉が本人にとってもおなじように褒め言葉であるかどうかはべつとして、そうなればクラスメイトたちだって俄然わたしに期待する。そして残念なことに、期待されればされるほど頑張ろうと思ってしまうのがわたしの性質なのである。

しかし青峰だってそう簡単には折れない。仮にも彼氏である人間にこんなことを言うのは彼女として間違っているような気もするが、こいつはわたしが出会ってきた人間の中で1番ぶっ飛んでいてなおかつ自分の意見を曲げない。まあそんなところも好きだけれど、それでも最終的に巻き込まれるのはいつだってわたしだ。


「脱げよそれ」
「えーやだよ」
「なんでだよ」
「まだ仕事あるもん」
「いいだろそんなもん。サボれよ」
「あんたサボってばっかだとクラスで干されるよ」
「この強面でか?」
「自分で言っちゃうのそれ」
「あーでもまあ、他の男にメイド服のおまえ見られんのは嫌かもしんねえわ。それならまだ執事のほうがマシかもな」
「そういう嫉妬はしてくれるんだ」
「当たり前だろ。つうか、やっぱ俺が嫌だわ」
「は?」
「せっかくきれいなんだからよ、もっときれいなおまえが見てえし、男装なんざするようなレベルの女じゃねえってことをまわりのやつらに教えてやりたくなった」


それってどういうことだ、と聞こうと思った。けれど青峰の行動はいつだって早い。あいつはすぐさまわたしのクラスメイトを捕まえると責任者を呼びつけ、そしてわたしに半日の休憩を渡すように言いつけた。…まあ、予想はつくだろう。片やただの女子高生、片や強面の190cmの男子。どちらが勝つかなんて説明する必要はないと思う。
そしてかなり強引にわたしの休憩時間を勝ち取った青峰はそのままわたしの手を取ると、比較的楽しそうな笑顔を浮かべながらわたしをどこかへと連れて行った。

だがまあ、わたしだって青峰と文化祭を回ってみたいという思いはあった。だからこそこうして青峰に連れて行かれるのはこれっぽっちも迷惑じゃあないし、今のわたしは執事なんてナリだけれど、それでも高校生らしく文化祭デートでも楽しもう。そんなふうに考えていた時間がわたしにもありました。


「…で、あんたは今わたしに何してんの」
「メイクだろ。上のほう見てろ」
「いやそれは分かるんだけどさ、ていうかわたしも聞きたいことがまとまらないわ。何この状況。わたしはこれからどうなるの」
「きれいになるんだよ」
「日本語が難しい」
「まあもともときれいだけどな」
「嬉しいけど日本語が難しい」
「うっせーな、俺のクラスの出し物ミスコンなんだよ」
「ミスコン?」
「ドレスとかメイク道具とか揃えてよ、それで着飾った女どもが出てきてそれに生徒が点数つけんだよ。そんでミスコンが決定するらしい」
「そんなのクラスの出し物で出るんだね」
「毎年どっかのクラスがやってるらしいぜ。まあまあエントリーもあったみてえだけど、おまえは出んなよ」
「え、なんでよ」
「絶対優勝するだろ」


俺が紹介した女がミスコンになったらちょっとやらしいからな、とかなんだとか言いながらメイクを勧めていく青峰には今の真っ赤になったわたしの顔なんて映っていないらしい。まあいつだって良くも悪くもゴーイングマイウェイな男なのだ。こんなときわたしの顔色なんてこいつは伺ったりしないだろう。けれどどれだけ長い付き合いだとしてもこんなことを言われて平静でいられるわけがないじゃあないか。だからわたしは必死になって視線をあちこち彷徨わせたりして顔の熱を逃がすことだけに専念することにした。
だがその間にも青峰によるわたしトータルプロデュースはつづいていく。
あれよこれよと持ってこられた衣装やらアクセサリーやらを身に着け、そして最後青峰が出してきたヒールはこちらがびっくりするほどヒールの高いものだった。


「青峰このヒールはちょっと…」
「履け」
「こんなん履いたら180近くなるんだけど」
「それでも俺よりはチビだわ」


どれだけ渋ったところで青峰に力で勝てるはずもないわたしはそのままそのヒールを履かされたけれど、たしかにわたしの身長はそれでも当たり前だが青峰よりいくらか低かった。…まあ、それでも女子の身長とは思えないし、やっぱりヒールを履くとこんなに大きくなるのかと自己嫌悪に陥りそうにもなったが、それでも青峰がやはり嬉しそうに笑うものだからもうこれでいいのだと思うことにした。
そして「ヒール慣れてねえだろ、エスコートしてやるよ」と差し出された青峰の手を取ると、そのまま教室から出る。のだが、異様だった。いや、何が異様かと言われると説明に困るのだが、何かがおかしいのだ。けれど違和感はある。だからこれは一体何なのだろう、と頭を悩ませていると、どこかからカコーンとなにかが落ちる音がした。

そこにいたのは今吉さんとさつきで、その瞬間に叫びだしたさつきの声を聞いて、ああ、違和感の正体は人の声が一切しなかったことだったのかとはじめて気が付いた。


「どうしたの!どうしたのなまえ!」
「えらいべっぴんさんになったなあ」
「元からこいつは美人だっつうの」
「知ってたけどさ!知ってたけど、もー大ちゃんったらたまにはいいことするんだね!」
「たまにはって何だよ」
「ねえねえねえ!なまえ写真撮って!」
「え、え、え…?」
「ええなあ、ワシも混ぜてえな」
「え、え!?」
「だったら俺も入れろよ!」


さつきが叫びだしたと同時にいろんなひとの動揺が聞こえてくる。アレは誰だ、とか、いやあれは青峰の彼女だ、だとか、あんなキレイだったか?だとか。いままでに聞いたことのない言葉がたくさん、たくさん聞こえてくる。
たしかに今は身長もとびきり高いし身長だけ見たらとてもじゃないけど女の子らしくないけれど、それでもこんなにもたくさんのひとが、わたしのことをキレイだと言ってくれている。

ああ、もうなんだか自分の気持ちがわからない。たしかに嬉しいのだけれど、それでも、混乱しているのだ。だから青峰のほうを見上げたのだけれど、そうすると青峰はいつもよりも近い位置から意地悪く笑って「やっぱりおまえはキレイなんだよ」なんて言って笑うから、もういてもたってもいられなくて廊下だというのに青峰に抱きついてしまった。


「うわー新聞部やらかしたな」
「いいじゃねえか、俺あの写真もらったぜ」
「いつの間に!恥ずかしい!」
「おまえの分ももらったけど、いらねえの?」
「…いる」


そしてそのわたしが青峰に抱きついている写真は新聞部にリークされ、後日学校新聞の見出しにおおきく掲載されることになるのだが、それはそれである。

(14.0121)
ひさしぶりに青峰連載を書いたので緊張しました…!素敵なリクエストありがとうございましたー!!


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