高尾和成はだれもが認めるパーフェクトな彼氏であると思う。そりゃイケメンだし身長だってバスケ部にしては小さいにしてもわたしとは20cm近くも離れているし、運動神経は抜群だし、人当たりは最高だしコミュニケーションスキルの高さはいっそ緑間にすこしぐらい分けてやればいいのにとこちらが同情してしまいそうになるほどだ。その上高尾はフェミニストで、女の子が重い荷物を持っているのをご自慢の目で見つけるや否やすぐさま駆け寄ってその子から荷物を取り上げ、持っていかなければならないところまでそれを運ぼうとするし、女の子が教室に入ろうとしたらまるで執事のように恭しくドアを開けて出迎えてくれたりする。まあそれは高尾いわく「見えてたら誰でもするんじゃねえの」だそうだが、きっとみんなが高尾とおなじような目を持っていたとしたって、あそこまで率先して女子の手伝いをできる男子はそう多くはないだろうと思う。
まあそんな高尾和成の彼女であるわたし自身は特に特筆することもないいたって普通の女子学生なのだが、なんというかまあ、高尾和成はもしかすると女の子に優しくしないと死ぬ難病にでもかかっているのではないだろうか。


「高尾、荷物ぐらい自分で持つから!」
「だーめ。今日は辞書入ってんだろ?重いんだから俺が持ってくって」
「大丈夫だってば!」
「俺から取り返せたら自分で持っても良いぜー?」
「そんな高いところにあるバック取り返せないっての!!しゃがんで!しゃがんでよ高尾!」
「やーだー」


そんなかわいいことを言いながらわたしのバックをあえて高く持ち上げる高尾は、最初からわたしにバックを持たせるつもりなんてないのだろう。だが緑間いわく「毎日のことなのだから諦めればいいのだよ」だそうなのだが、そうはいかない。たしかに高尾はそれをまったく苦としていないようだし、わたしが荷物を持っている方が心苦しそうな顔をしているのだから、よっぽど重いものでもない限り持ってもらえばいいのかもしれないが(ちなみにこれを高尾に言ってみたところ「重いものならなおさら俺が持つわ!なまえはなーんも持たなくていいの!」なんて返答が返ってきた)でもそれに素直に甘えることができないのがわたしである。
今日も今日とて取り返すことは不可能だろうが、高尾の制服がしわにならない程度につかみながらぴょんぴょん飛び跳ねて対抗してみるも、まったくもって手どころか指先がかすりそうな気配すらない。

やはり諦めるしかないのか、と思いながらも懸命に跳ねていると、高尾はもう今にも笑い出しそうな顔をしながらわたしのバックを持っていないほうの手でわたしの腰に触れてきた。だから思わずビックリして高尾の制服を掴んでいた手を離してしまったのだが、その瞬間高尾が勝ち誇ったような笑みを浮かべたものだから、きっとわたしはまた間違えてしまったのだろう。たとえば、朝、わたしがバックを左肩にかけていればバックをとられなかったかもしれなかったように。

だが、誰がこんな事態を予測できただろうか。次の瞬間わたしの身体は高尾の片腕によって抱き上げられていた。


「のわあああああ!」
「色気ねえ叫び声〜」
「いや、そりゃこんな声も出るよ!なんていうか、抱き上げないでよ!重くてごめんってば!」
「テンパってんの?謝ってんの?」
「両方!」
「てかなんで謝ってんの?」
「お、重いから…!」
「重かったら片腕であげたりしねえって!」


こんなんもできるぜ〜なんて笑いながら、高尾は素早く片腕に持っていたバックを自分のものと一緒に肩にかけてしまうと、わたしの身体をくるりと軽く回転させて横抱きにしたではないか。というか、どうしてこんなことができてしまうのか。高尾なんてパッと見かなり華奢に見えるほうなのに、意外と男の子っていうのはわたしが思っているよりも力が強いものなのかもしれない。あるいは、母親が胎児の形をしたものならばどんなに重いものでも持ち上げられるというあの現象に似たような現象が高尾の身にも起こっているだけなのだろうか。

なんて考えている間に、高尾はわたしを抱えたまま歩き始めたのだから笑えない。おかげでわたしはますますどうしていいかわからなくなってしまって、高尾の腕のなかに大人しく収まっているしかなくなってしまうし、そんなわたしを見て高尾はさらに気をよくしてとうとう走り出してしまったではないか。

だがここは学校のグラウンドだ。まあ校外じゃないだけマシなのかもしれないが、それでも多数の人の目があることには違いない。きっと宮地先輩や監督の耳にも入るだろうし、下手をすれば目撃されてしまってもおかしくはないと言うのに、どうして高尾はいつもこんな無茶ばかりをするんだろう。それにこういったことをした日はだいたい練習メニューを増やされるというのに、高尾はそれを分かっていてもどうして楽しそうに笑ってくれるのだろうか。

まあこれも緑間いわく「おまえと一緒なら高尾はおそらく何をしていても楽しいと言うのだよ」だそうだが、それはわたしだってそうだ。きっと高尾なら何も話すことなく隣に座っているだけでも、幸せな気持ちになれるし楽しくもなれると思う。
高尾の笑顔があるだけで、わたしはもう、どんなことだって些細なことに思えてしまって、ただ幸せなだけのぬるま湯にやさしく浸かっているような気分になる。けれどそれはちっとも不安じゃあない。その上だれからも後ろ指をさされることがない。高尾がきっとわたしのことを守ってくれるし、わたしがきっと高尾のことを守るからだ。


「あーあ、今日も練習メニュー増やされるかもね」
「べつにいいって!」
「高尾体力ないのに?」
「おまえをお姫様抱っこするぐらいはあるっての!まあなんていうかさ、やっぱ、おまえとこうやって騒いでる楽しさに比べたら、そんなのはちっせえ問題だってことだよ」
「わたしも手伝ってあげようか」
「俺のノルマ?」
「うん」
「いーよ、そのあと抱きしめてくれたらそれで十分」


キスもしてくれたら最高なんだけどな〜なんて明るく言い放つ高尾のストレートすぎる愛情表現にはいつまでたっても慣れない。それに高尾はそんな言葉の1つ1つに赤くなるわたしの顔を覗き込んで「かわいい」なんて言ってくれるのだ。しかも、そう言ってくれる高尾のはにかんだような笑顔が網膜に焼き付いて離れない。おそらくもうこの恋はとっくにわたしの心臓に巣食ってしまっていて、一生この病気が治ることはないのだろうと思う。この恋が今のわたしのすべてを形成しているといっても、過言ではないだろう。
世界の中心にいつまでも2人。高尾の愛を食べてわたしは生きている。


(14.0305)
遅くなりました…!激甘になってますかね…ものすごく自信がないです…(;;)もっと甘く!って場合はぜひメッセージください!大変遅くなってしまいまして申し訳ございません(;;)素敵リクエストありがとうございました!


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