秀徳高校で1番かわいいのはだれか、という話題になったとき、おそらく1番最初に名前があがるのはなまえだろうと思う。たしかにあいつは抜群に顔が整っているし、入学当初は学年問わずあいつの顔を見るためだけにいろんなやつらが俺達の教室へやってきて廊下からあいつを眺めていたし、告白の呼び出しなんかもしょっちゅうだった。けれど、それは一カ月だけだ。それを俺はわかっていたから何も言わなかったし、露骨に嫌そうな顔をして教室を出ていくあいつの後姿を見送ってもいた。え?どうしてか、だって?それはすぐにわかるし、俺がハイスペックだと言われている所以のうちの1つでもある。


「今日も緑間に絡みづらいって言われたよ」
「おまえと一緒にいると真ちゃんすげえ常識的な人間に見えるもんな」
「わたしはただ、デイジーの話をしたかっただけなのに」


ぷう、と頬をふくらませていじけてみせる彼女は文句なしに可愛い。ぱっちりとした二重の瞳をマスカラなど不要なほどふさふさとした睫毛が縁どっていて、彼女が下を向けばその長い睫毛が頬に影を作る。そしてすっと通った鼻筋はちいさくて、真っ白な肌には頬にだけうっすらと赤みがさしていて、だというのにその上唇もリップなどいらないほど赤く色づいていて形もきれいだ。きっとこいつは生涯化粧の必要性を思い知らされることなどないのだろうと思うし、まるで人形のようだと常々思う。
だが、それをすべて打ち消してしまうのが彼女がその腕にいとしげに抱いているデイジー。つまり、ウサギのぬいぐるみである。

そう、彼女は常にデイジーというウサギのぬいぐるみを抱きかかえ行動し、なんならそのデイジーと会話をし、脳内にほかの人たちとはまったく違う世界を作り上げている、よく言えばメルヘンで悪く言えば電波な女の子なのである。

まあそんな電波な女の子と俺は中学時代からずっと付き合っていて、実は彼女が秀徳に進学したのも彼女の両親からの強い要望のもとであったりする。まあぶっちゃけ彼女の両親はまともなひとなので、自分の娘が高校へ行っていじめられるのではないだろうかという強い不安があったのだろう。そこで中学時代から自分たちの娘を守ってくれていた心強い彼氏である俺さえよければ、これからも彼女を守ってやってほしい、とお願いされたのがちょうど半年ぐらい前の話になる。
そして電波ではあるものの頭の出来はすこぶるいい彼女は俺よりも簡単に秀徳高校へ進学し、今もなお、お付き合いは継続されている。


「まあむしろ真ちゃんにデイジーの話しようと思ったのが俺的にはすごいけどな!」
「だって緑間も素敵なものたくさん持って学校に来るから、デイジーみたいな子がいるのかと思ったんだもん」
「あれはラッキーアイテムだかんなー」
「そこらへんはよくわからないわ」


というよりわかるつもりがないんだろう彼女の世界は自分とかわいいものと俺とで構成されている。そんな輪の中に真ちゃんがいるのは、入学初日の真ちゃんのラッキーアイテムが猫のぬいぐるみだったからだろうか。それでも真ちゃんは彼女を邪見にこそしないものの、見ていて哀れなぐらいに彼女に対応しきれていないので、そういうときは俺が助け船を出すことにしてやっているが、まさか俺のいないところでそんなことがあっただなんて。きっと真ちゃんはかなり狼狽しただろう。ぶっちゃけ見てみたかったと思わないでもないが、そんなことを言ったら最後顔を真っ赤にして怒られそうだからやめておこう。

そして相変わらずデイジーを抱きしめたままミルクココアを飲む彼女は人形のような顔を微笑ませながら俺を見つめてくる。…まあぶっちゃけ、俺も最初のころはこいつと一緒にいるのに疲れを感じたことがないでもなかったが、顔だけでなく俺はこういう彼女の変わったところも愛おしいのだ。だからおそらく並大抵のことじゃ俺はこいつから離れていかないだろうし、自分の世界の第三者に俺しか組み込んでいないこいつも俺のそばから離れていくことはないだろう。浮気なんてありえるはずがないのである。ちなみにこのあいだ秀徳1のバカップルという賞賛を宮地先輩からいただいたところだ。


「今日は部活終わるの遅いの?」
「そうだなーちょっと遅いかも」
「じゃあ、図書室でまってるからね」
「いやいや、いいって。寒いだろ」
「デイジーあったかいから大丈夫よ」
「たしかにデイジーあったけえな」
「ふわふわだから」
「俺もふわふわなりてえわ」
「和成はふわふわしてないけど、かわいいよ」
「え、俺かわいいの?」
「うん。それからね、あったかいよ」


だからはやく部活終わって、図書室まで来て、わたしのこといっぱいあっためてくれないと。
そう言ってふんわりと笑う人形みたいな彼女はやっぱり世界で1番かわいかった。

(14.0118)
電波系がどんな感じかわからなかったんですけど、昔そういえばどこにでもぬいぐるみ持ってきてる人いたなあ…と思って書きました。短くてすみません><素敵なリクエストありがとうございましたー!!


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