黄瀬には「あんたらって喧嘩することとかあるんスか?」とからかわれ、さつきちゃんには「もうなまえちゃんだけが頼みの綱だよ…!大ちゃんをこれからもよろしくね…!」と将来的にまで託され、黒子には「びっくりしました、青峰くん、きみにはあんな顔するんですね」とまで言わしめたわたしたちですが、このたび付き合って4年目に差し掛かろうというところで、はじめて喧嘩をしました。


「…そこで相談役に俺を持ってくるところが強烈な人選ミスだが、一体どうして喧嘩になったのだよ」
「緑間なら茶化さずに聞いてくれそうだったし、黄瀬は忙しくて捕まらなかったし、黒子やさつきちゃんなら青峰にそのまま文句言いに行きそうだったし」
「…なるほどな」
「で、なんで喧嘩になったかだっけ」
「ああ」
「怒らないで聞いてくれる?」
「ああ、聞いてやろう」
「アイス食べられた」
「……は?」
「期間限定の!!お風呂あがりに食べようと思ってたアイスを!食べられた!!!」


信じられるだろうか、青峰はわざわざ冷凍庫内にたくさんあるアイスの中からよりにもよって期間限定のちょっと高いアイスを選び取り、それを食べてしまったのだ。わたしになんの断りもなく。ただ、それがバニラバーだとかそういったものだったなら、そのまま無言でアイスを食べていたって何にも思わなかっただろうし何も言わなかったろう。たあ、青峰はわたしが楽しみに楽しみにとっておいたアイスを食べやがったのだ。しかもケロリとした顔をして「変わった味だなコレ」なんて言いだしたではないか。
それからどうしたかは正直よく覚えていない。ひたすら叫び声をあげてクッションを投げつけてやったり、大号泣して青峰を困らせたりした記憶はある。ただ、それも泣きわめきすぎて後々記憶がぼんやりしてしまっているのだ。

まあとにもかくにもそんなチンパンジーめいた奇行を繰り返すわたしからなんとか逃げ出した青峰は、それでも後日、他のアイスを購入してわたしのところへと謝りにやってきた。けれど、青峰のもっとも罪深いところは、それは期間限定のアイスだったのだ。そしてそのアイスは、もう売っていなかった。それでも青峰はよく頑張っただろう。ありとあらゆるスーパーやらコンビニを巡り、最終的にすこし遠いところにしか売っていないわたしの大好きなアイスを買ってきて「悪かった」とわたしに謝ってきた。
だのにわたしは許さなかった。

あれからわたしたちは丸1週間、口を利いていない。


「…話は理解したが」
「うん」
「おまえが8割がた悪いのだよ」
「え!!マジか!!}
「だいたいお前の好きなアイスというのはアレだろう、電車で1時間ほどかかるところに売られている地味に高いあのアイスのことだろう。アレを買いに行くのはなかなか一苦労だと愚痴っていたのはおまえではなかったか」
「まあそれはそうなんだけど」
「期間限定のアイスがそんなに重要なのか」
「うん!!」
「俺には分からん価値観なのだよ…」


とにかく青峰が哀れだと言いながらポテトをつまむ緑間はそれでも気のいい友人だと思う。なんだかんだで世話焼きだ。でなければあんなキャラの濃い選手ばかりの部活の副部長なんてやっていられるはずがないのだ。その懐の深さをわたしも見習わなければならないのだろうが、どうにもこうにもうまくいかないようである。

というより、わたしとてそこまで怒っているわけではないと思うのだ。ただ最初にあんなに大袈裟にキレてしまったから後に引けないだけで、今なら普通に話しかけれる自信がある。だが、それでもいきなり普通に戻ると青峰だって怒りはしないだろうが、何か違和感を感じるだろう。けれどわたしは謝りたくない。絶対にだ。ああ、もう1度青峰が謝ってくれたなら笑顔で許すだろうに、どうして謝ってくれないのか。なんて、わたしが1度盛大に無視をしたからだ。
ああ、結局すべてわたしが悪いのだ。神様アイス1つぐらいで喚き立てるような心の狭いわたしでごめんなさい。次からはきっとこんなくだらない喧嘩なんてないので今だけ許して下さい。

そう思いながら緑間と会話をしそれなりに回復したわたしは(ちなみに話を聞いてくれたお礼に奢ろうとしたら緑間は普通に支払いを済ませてくれた。なんでも女性にお金を出させるわけにはいかないらしい)なんならスキップしながら家に帰って行った。
そしてお母さんがいないのをいいことに昼間からお風呂を溜めてみることにした。ちなみにこれは比較的わたしがよくやる趣味で、明るいうちからお風呂にはいってリラックスするのが個人的にただ好きなのだ。夜とはまた違う雰囲気がある。差し込む光が明るいのもグッドポイントである。

そして適当に日本名湯の素!と銘打たれた入浴剤を投入すると、どうやら今日は濁白色のお湯らしい。効能はお肌がすべすべになるのと美白効果。これはもう女子にうってつけの効能だ、と思いながら浸かっていると、誰かが入ってくる音がした。もしかするとお母さんかもしれない。これは参った、これは怒られる。まあいつものことだから見逃してくれるか…なんて思いながら湯船に鼻のあたりまで浸かると、おかしいことに気が付いた。


(足音がうるさい?)


というより、重量感がある。絶対にお母さんではないだろう。ならば誰なのだろうか。少なくとも父さんはこんな時間帯には帰ってこない。
そのとき、嫌な予感はしたのだ。けれどそんなわけはないと思い、目を閉じた。だってそりゃそうだろう。お母さんが冗談半分で家の合鍵を渡していたけれど、それでもそれを使ってやってくるだなんて。いつもの状態ならまだしも、今は喧嘩中だ。いくら青峰だってそんなこと「邪魔するぜ」した。


「え、ちょっと待って、お風呂なんだけど!!」
「タオルで隠してるじゃねえか」
「そういう問題じゃないし!!」
「色もちょうどいいじゃねえか」
「隠れるからオッケーって問題でもないし!」
「うるせえな、いまさらおまえの裸見ても照れたりしねえよ」
「むしろ照れろよ!!」
「つうか、もう面倒くせえんだわ。だから裸の付き合いってやつに頼ろうと思ってよ」
「え、どういうこと」
「悪かった」
「え?」
「裸になりゃ、適当に言い繕ったりもできねえだろ。だから、マジで謝ろうと思ってよ」


ごめんな、おまえのアイス食べて。
そんなことを本当に申し訳なさそうに謝ってくれる青峰にわたしはどれだけ愛されているのだろう。だいたい、あのアイスを食べた後だっていろんなところを走り回って探してくれたんじゃないか。さつきちゃんにあのアイスはどこに売っているのか、と疲労困憊になりながらも聞いてくれたらしいじゃないか。そんな青峰にこれ以上怒れるはずがない。

だから頭を下げてわたしに謝る青峰の顔に水鉄砲をくらわしてやった。湿っぽいのは嫌いなのだ。


「ちょ、テメ、何すんだ!」
「もう怒ってないんだよ。あのね、ずっと意地っ張りしててごめんね。本当は青峰といつもみたいに話したかったしはしゃぎたかったよ」
「…じゃあ、もう怒ってねえんだな」
「うん」
「許してくれんのか?」
「うん」
「よかった……」


心底安心したように微笑む青峰は、それからわたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でながら「アイス買ってきたから、風呂から上がったら食べようぜ」と言ってくれた。そんな青峰に頭を洗ってもらって、髪まで乾かしてもらって、なんだかすこし話をしない間に青峰はさらにわたしを甘やかしてくれるようになったらしい。きっとこんな姿を見たら緑間だって苦笑しながら「おめでとうなのだよ」なんてぶっきらぼうにお祝いしてくれるに違いない。


「あー好きだわ青峰」
「俺も好きだわ」
「青峰いないと退屈だった」
「同じこと何回も言わせんなよ」


キスをすればおなじアイスの味がした。そしてそれはやっぱりあの緑間が嫌そうな顔をしていた遠いところにしか売っていないアイスで、きっとわたしはこれから先一生何があっても青峰からは離れていかないんだろうと思う。

(14.0419)


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