漫画であろうが小説であろうが、文字を追うのがすきだ。なぜならそこにはそのひと個人の考え方や価値観がストレートに表現されているし、きっとその一文はそのひとにしか書けないものであるから。きっとわたしはそういった感性に触れたいと考えているし、そういった感性をなによりも大事にしている。わたし1人では得られないものも本を読むことによって得られるような気がするのだ。きっとよっぽどのことがない限りわたしが本を読むことをやめることはないだろう。
だから今日も今日とて図書室でめぼしい本を探すのだが、もうある程度気になるものはすべて読んでしまった。ならば新しく入ってくる本を待てばいいだけの話なのだが、高校の図書室がそんなに大規模に本を入荷するはずがない。そうそう生徒などここには立ち寄らないのだから、経費の無駄である。それならばなにか穴がないか探してみるか、と溜息をつきながら一歩前に進み出てみたのだが、どうやら本棚ばかりを見ていたおかげで前をろくに見ていなかったようである。


「う、わ!」
「っひゃ!」
「大丈夫?」
「あ、はい…なんとか…?」
「それならよかった」


ぶつかったのは男子生徒だった。それに名札の色を見る限り上級生のようである。そしてその先輩は一方的にぶつかってきたわたしが転げないようにわたしの背中に手を添えて支えてくれていたようで、慌てて体制を持ち直す。


「あ、あの…!すみません支えてもらっちゃったみたいで…!あの、重かったですよね!ごめんなさい」
「え?いや全然。そんなことなかったよ」
「そんなわけがない…」
「それより、きみバレー部のなまえちゃんだよね?」
「え、はい、そうですけど…え、お知り合いでしたっけ」


なぜだかわたしの名前を知っている先輩の顔を見上げてみるも、今までに見たことはないような気がする。委員会が一緒なわけでもないし、もちろん部活が一緒なわけでもないように思う。ならば偶然どこかですれ違ったのか。いや、それだけで名前を憶えられるほどわたしは有名なわけではない。
そんなこんなで一生懸命記憶を探り続けるが、わたしにはどうしても先輩のことが思い出せなかった。しかし先輩はそんなわたしを見て「ああ、きみは俺を知らないよ」とはっきり言い切ったではないか。だからわたしは目が点で、しばらく言葉を探すこともできないでポカンと見上げていたのだが、先輩はやさしいひとらしかった。すぐにわたしが求める答えを発するために口を開いた。


「きみ有名だよ。俺3年生なんだけど、きみのこと知ってるやつは意外と多いんじゃないかな」
「え、ええー…」
「信じられない?」
「はい、とてもじゃないけど」
「うちバレー部も強いでしょ。だからバレー部の顔を見ることは多いし、きみは可愛いからね。狙ってる人は多いんじゃない」
「な!?わたしが…かわいい!?」
「え?かわいいでしょ」
「目腐ってますよ!」
「なんでだよ」


クスクス笑いながら「ちなみに本を探してるならこの本オススメだよ」なんて軽くオススメしてくれた先輩の手にしている本を軽くぱらぱらとめくってみたところ、なるほどわたしの好みでおもしろそうな本だった。だからこの本がどこにあったのかと聞いてみたところ、普段はあまりチェックしない棚の奥底に眠っていたそうなのだからまだまだこの学校の図書館の可能性に期待せざるを得ない。それになかなか本の趣味も合いそうだ。もしかしたらいいお友達になれるかもしれない。和成をはじめとしてわたしのまわりにはあまり本を読む友達がいないからか、本の趣味が合うひとというのは珍しく見えた。
だからそのままのテンションで「よかったらまたオススメとか教えてください!」と言ってみたのだが、そうすると先輩はわたしがおなじように読書好きだということを前から知っていたようで、それならまた本の話をしたいからとアドレス交換を申し出てきた。その申し出に特にと言って断る理由はない。べつにわたしに彼氏はいないし、ただアドレスを交換するだけで咎められる謂れは誰にもないだろう。

ただ、アドレスを交換してニコリと笑った先輩の顔が、一瞬だけ和成と重なって見えた。それは毎日のように見ていたはずの和成の笑顔が急に遠くなった寂しさからよるものなのか、他の理由があるのか。よくわからないままわたしは瞬きを強めに繰り返した。重なって見えたはずの和成の笑顔は、もう見えなくなっていた。

(14.0327)

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -