あたしはただのしがない友人Aでしかないが、あたしはずっと、この物語の主人公は高尾和成とあたしの親友であるなまえだと思っていた。そしてその2人がこのステージから降りることはないだろうと確信していたし、少々あたしの親友に鈍いところがあったとしても、そこは高尾和成だ。きっとうまくフォローして2人仲良くハッピーエンドでも迎えるのだろうと漠然と考えていた。だが、だいたい、人気者の男の子と美人ではあるがすこし大人しいところのある女の子が紆余曲折を経てお付き合いをするだなんてシナリオは現実世界にもたらされるものではなく、少女マンガの中で作り上げられるものである。現実は小説よりも奇なりという言葉はあるが、それでもなかなか現実はフィクションほどうまくはいかない。けれど、あたしはずっと、この2人ならそんな恋だってありえるのではないだろうか、と思っていた。

だからこんなふうに2人がただの幼馴染になってしまう、だなんて、あたしは想定しなかったのである。


「…あんたらさあ、平気なわけ?」
「なにが?」
「いや、大島と高尾は仲良しになってるし、あんたはあんたで高尾と全然話さなくなったなあって思っただけ」
「普通こんなものでしょ。それにわたし大島さんに協力するって言っちゃったしね」
「は?そんなこと言ったの」
「当たり前じゃんか。だってわたし、和成の彼女でもないんだから。断る理由がないし」


そう言いながらジュースを飲むなまえはほんとうに何でもないような素振りでそんなことを言ってのけるもんだから拍子抜けしてしまう。それどころか、もしかすると当人であるなまえ以上にあたしのほうがあの関係性に固執してしまっていたのではないだろうか、なんて笑えない仮説まで打ち立てられる始末だ。だがまあ、それも無理はないだろう。2人は傍から見ているだけのあたしですらも幸せそうだったのだから。

けれど、たしかに冷静になって考えてみれば、2人は正反対の人間だとつくづく思う。高尾和成は言わずもがな人気者で口がうまく、いつも誰かに囲まれて笑っているような男であるし、なまえはすこしばかり口下手でみんなを笑わせるというよりはみんなの中で照れたようにはにかんで笑うタイプの女の子だ。そう考えれば、たしかにいる場所が違うような気がしないでもない。その証拠に、高尾はこちらへやってきて話をするけれど、なまえは高尾が属しているグループのほうへは行かない。べつに混ざれないわけではないけれど、それでもすこしばかり纏っている空気が違うのは誰だって理解ができるはずだ。

だが、もしそうだとしたら、あたしが今彼女に押し付けようとしている関係性は彼女にとって重荷にしかならないのではないだろうか。

例えばの話だ。
あたしはただの友人Aだから、2人の恋が成就したその先のことなんて考えちゃいなかったけれど、2人が恋人になったとして、彼女が高尾和成と自分の性格の違いについて思い悩む可能性が果たしてないと言い切れるだろうか。あたしたちはまだ高校生だ。大人になればたいしたことはないと言えるのかもしれないが、高校生にとって当人たちが属しているグループの権威とやらは表立っては目立ってこないが、なにかと影響力を持ってくる。高尾なんてクラスにヒエラルキーなんてものが存在したとしたら、まず間違いなくその頂上付近に座っている人種だろう。なまえが下の方にいるとは言わないが、中堅以上だったとはしても、クラスの人気者というポジションではないだろう。まあそれを高尾が気にするようなことは絶対にないだろうが、それでも彼女は高尾自身の評判をいつか気にするようになるのかもしれない。それにずっと高尾にはかわいい彼女がお似合いだと無意識に自分を卑下していたぐらいだ。どこかでそういうコンプレックスがないとも言い切れない。

だが、もし、彼女が違う男を選んだとしたらどうだろう。
クラスの人気者じゃなくても、バスケ部のスタメンじゃなくても、優しくて彼女のことを心から案じれて、彼女と同じ穏やかな雰囲気を持った落ち着いたひと。そんなひとが彼女の隣に立っているのは、言い方が悪いが、高尾和成が彼女の隣に立っているよりも自然なことのように思えた。


「…まあ、あんたが幸せならなんでもいいけどさー」
「?何の話?」
「こっちの話」


だがまさかこの直後、彼女があたしの知らないところで思いもよらぬ男とフラグを作ってくるだなんて知りもしないあたしは、図書館へと向かう彼女をただ見送ったのであった。
けれど、大島に協力する理由として彼女が述べた理由の中に、彼女自身が高尾を好きではないからという言葉はなかった。それにもしこのときあたしが気付けていたら、なにかが変わっていたのだろうか。

(13.1213)


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -